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24・衝撃◆(羽化、現状確認)

   ◆◆◆


ふらふらしながらも繭からたどたどしく出てきた、全体的に白い蛾のようでいて、人の形をした姿のもの。

これが、まんじゅうが成長した姿なのか……。


正直、見惚れた。


まんじゅうの顔から、涙がこぼれる。


ハッとした。

そして改めて全身をざっと確認して、どう見ても女であるその姿に慌てた。

お、弟じゃなかったのか。

良からぬことを考えてしまいそうで、視線がふらふらしてしまう。体を隠してほしくて、急いで俺の服を渡した。

まんじゅうはぼやっとこっちを見るだけで、意図が伝わっていない。

そういえば繭を包んだ布があるはずだと、今度はそっちを投げつけた。

今度はどうにか理解してくれたようだ。


さっさとまず体を隠してくれれば良いものを、まんじゅうは布と俺の服を手に持ったまま、自分の体を確認し始めたようだった。

なんでもいいから早く服を着て欲しい。


「見たい……見る、たぁい? ぜんぶ」


とんでもないことを聞いてきた。


「み、見たいわけあるか! ばか、早く布を体に巻くんだよ!」

全く危険はなさそうだが、一応目を離してはいけないと思い、視線を外せない。


怒ったら、まんじゅうが顔をふくらした。

意味が違ったらしい。

自分で自分の体を確認したいだけだったようだ。ま、紛らわしい……。


たどたどしいながら、まんじゅうは言葉を喋っている。これは驚異的なことだ。

俺はこんなモンスターを見たことがなかったし、聞いたこともない。

今まで事ある毎に話しかけていたことで、幼児がある日言葉を爆発させることがあるように、花開かせたのだろうか。

正直、嬉しい。

ずっとボディランゲージしかできなかったまんじゅうと、こうして会話ができるのだ。嬉しくないわけがない。


俺達は水場に行って、水を鏡代わりにすることにした。



まんじゅうはまだふらふらしていて、動きがぎこちない。

道中転びそうになったからとっさに支えたら、触りどころが悪かったのか、思わず、と言った形でまんじゅうから液体を浴びた。

驚いたが、危険な感じは受けなかった。

少ししたら淡く発光していたから、恐らくまんじゅうが繭を溶かすために出す液だったんだろう。特に人体に有害なものではなさそうだった。

俺以上にまんじゅうが慌てて、翅のせいで上手く羽織れないから前後逆にして腕に引っ掛けただけの俺の上着とかで拭いてきた。ついでに沢で水をばっしゃばっしゃに浴びせられた。

動きが、まだ体の使い方を知らない子供みたいだ。


桶に水を溜めて鏡代わりにしてやれば、顔や背中など、全身じっくりと確認しているようだった。

確認中は布も俺の服も遠慮なく放り出していたので、視線の置き場に困った。

次はあっちそっちとくるくるよく動くし……。


一通り確認が終わったら、また腰に布を巻いて貰う。上半身は俺の上着の前後逆。

わりと間抜けな格好に見えなくもないが、まあ丸出しよりは良いだろう。


ぬっとまっすぐ立ったまま、俺より少し高い位置から俺を見下ろすまんじゅう。

何か気にしている様子で、顔がもにょもにょしている。なんだ?



気が済んだ様子のまんじゅうを連れて、まんじゅうに現状を認識してもらおうと小屋へ戻って説明をする。

喋る言葉は片言だが、まんじゅうの飲み込みは早かった。


お礼を言われて、俺はこの子を連れ出して本当に良かったと実感した。

この命を消すなんてことは許されないと思う。


一瞬気持ちが揺れすぎて後を引き、落ち着くのに時間がかかる。

危ない、涙が出るかと思った。



これからどうしようか、まんじゅうは困っていた。

できれば、逃げて欲しい。人に見つかったら討伐されてしまうのだから。

だが、成体になったところでこんなにもぽやぽやしているこの子は、相変わらずすぐ死んでしまいそうだった。図体だけが大きい。


俺はまんじゅうと二人で、人里離れて暮らすことを考え始めていた。



「わかた!」


急に立ち上がり、翼を大きく広げるまんじゅう。

バタバタと動かし、飛ぼうとしていた。室内でか? たしかに屋根は一部崩壊しているが、ぶつからないか?

心配を他所に、まんじゅうの体は全く浮かばないようだった。

体が重すぎて浮かないんじゃないだろうか? 元々結構重かったし。

今は俺より大きいわりには体重は俺ほどはなさそうだが、やはりそれなりにはありそうだし。


すぐに疲れて、お腹が空いたと申告してきた。明らかに俺が餌をくれて当然の態度である。野生というものは皆無だ。


採ってきた実を与えればパクパクと遠慮なく食べ、あまつさえ自分は果物が好きだと主張する。

あまりにも前と変わらず遠慮のないその姿に、俺は呆れて、笑った。

さっきこらえた涙が決壊しそうになって、まんじゅうを抱きしめてごまかした。

変わらないでいてくれて、良かった。



お腹が満杯になろうが、いくら練習しようが、まんじゅうは変わらず全く飛べなかった。

本人が一番ショックを受けていて、可哀想なくらいだった。


俺はと言うともはやそんなこともあるだろうな、こいつなら。の思考だ。

どれだけ本人が傷つこうが、この程度なら想定の範囲に入ると思う。


だが、実際まんじゅうが目の前でさめざめと泣いていると、耐えられなかった。

可哀想でたまらなくなる。昔も小さく震える姿は庇護欲をそそられたが、これは……。


よしよしと慰め、採ってきた木ノ実を渡す。



……まんじゅうは一人になったら、こんなものも採れないんだろうな。

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