23・羽化、現状確認2◇
一通り確認して満足した私は、坊っちゃんと一緒にあばら家みたいな、自然あふるる壊れかけ木造ハウスに戻った。見た目のわりに不思議と居心地がいいが、どこだここ?
「とぉーさん? かぁさん、どぉこ?」
坊っちゃんは複雑な顔をした。
すわ、まじでポストアポカリプス化しちゃった……? 私のせいじゃないよね?
坊っちゃんはゆっくり、ちゃんと私にも理解できるように反応を確かめながら、事の顛末を話してくれた。
私が処分されようとしていたこと、逃げた先のここで、羽化を待ったこと。
おわあ……全体的に私のせいだった。
なんかすごいご迷惑と言うか、坊っちゃん私の命を助けてくれたんだなあ。ありがとうありがとう……どれだけ感謝してもしたりない。
「ありあとぉー、もーす。」
ちなみに坊っちゃんの名前はモースである。ご主人は多分、モルディ、ママンの名前はサヴィニアだね。
坊っちゃんは私が喋ることに慣れないようだった。そりゃそうだ。でっけえ幼虫だったのが、繭開けたら人型してて急にペラペラ達者に喋るんだもん。違和感半端ないよ多分。罪だね。素晴らしすぎて存在が罪。……罪は印象悪いから奇跡にしとくか。
奇跡のモンスターだよ。奇跡ってこっちの言葉でなんて言うんだろ。
しかし、坊っちゃんからの話を考えると私、もうお家帰れない? 指名手配犯レベル?
坊っちゃんも巻き添えでそうなってるかも。えー申し訳ないな。せっかく彼女と良い感じだったのに、何ヶ月も街にも家にも帰れて無いんでしょ? 可哀想。なんかどっかでホッとしてる自分もいる気がするけど、それは見なかったことにする。
「どおしよ?」
坊っちゃんにご意見を伺う。
私戻れませんよね? これからどうした方が良いと思う? 坊ちゃんは賢いから、何かアドバイスとかございませんか?
難しそうな顔をしている。まあそうだよね。
悪いモンスターじゃないんだけどな……これまでみたいに生活できないかな? ほら、これ……
そういえば、糸出る。変わらず糸を出せる感覚がある。手から出せないかな~とか考えていた気もするが、普通に口の中に器官残ってるっぽいなこれ。
坊っちゃんは困った顔をしていた。坊っちゃんいわく、できれば私に逃げて欲しいらしい。なんかどっかで私みたいな蝶々だか蛾だかのでかいモンスターが暴れたとかで、私みたいなのは警戒されてるんだって。私の親戚だったりする?
どれだけ平和的に出ていっても、一回坊っちゃんが連れて逃げちゃってるし、生かされるかは自信がないらしい。
……あ、そうか。
今なら私一人で逃げれば、坊っちゃんだけなら街に帰れる可能性があることに気が付いた。
こっそり繭を処分して逃げる。ぼっちゃんは私のことなど何もなかったように帰れば、証拠は何もない。何なら繭を自分で処分したぐらいのこと言っても構わないかもしれない。後は私さえ大人しく人里に近寄らず、遠く離れてひっそり暮らしていれば、証拠不十分で元通り! か?
「わかた!」
元気よく私は立ち上がった。
「もーす、帰る。まんじゅ~、もーす、助け!」
翅を大きく広げる。使い方はわかる。感覚で知っている。
バタバタと、翅を動かす。
お兄ちゃんや私の親の浮遊していく姿を思い浮かべて、必死に翅を動かし続ける。
行くぞ! 体が重い! 全然浮かない!
私はすぐにお腹が空いた。坊っちゃんは呆れた。
まだ若干体の使い方が下手くそらしい私をお留守番にして、親切にも坊っちゃんが調達してきた植物や自然溢れる感じの実を食べる。これからお別れかもしれないが、これまで正確に伝えられなかった自分の好みなんかを、ここぞとばかりに伝えた。
坊っちゃんはお前は本当に、こういう奴だよな、みたいな態度だった。
でも、変わらないでいてくれて良かった。と、ちょっと泣きそうな顔で抱きしめられたので、私もちょっとうるっとしてしまった。一人で数カ月もの間、私の繭を見ていてくれたという坊っちゃん。本当に、なんていい奴なんだ。
満腹になったので、また飛行訓練を始めた。
これ時間かかるな。全く飛べる気がしない。前途は多難だった。
数日、今まで出したことないくらいの全力で飛行訓練を続けて、結論を出す。私はショックを受けた。
私は、飛べない。
翅は動かせるのに、体は全く地面から離れることがなかった。翅の使い方はわかっているのに、飛べる気が全くしない。
なんでだ!! お兄ちゃんも親っちゃんも飛べたのに!! なんで私だけ飛べない!
肉食べなかったせいか? ひどい! 悲しい! つらい! 私はしくしく泣いた。
元から幼体の時でも私がしくしく泣いて震えていると、坊っちゃんは見かねてヨシヨシしてくれるきらいがあったが、この姿だと罪悪感がヤバいらしい。よしよしと一生懸命、とても可哀想にという顔をして慰めてくれる。
坊っちゃんは私にだいぶ甘くなった。




