22・羽化、現状確認◇
坊っちゃんは異常なほど驚いている
ひ、ひどい姿になっていたり……しますか?
不安でビクビクと震えてしまう。久しぶりに外気に触れた目がシパシパして、うっすらと涙が溜まる。
坊っちゃんは慌てた。私を見て、一瞬何かを確認して、慌てて自分の上着を脱いで寄越した。良い筋肉してますね。でもちょっと痩せた? 最近は夜の筋トレ付き合いもそこそこで水槽に帰っちゃってたからな。
少ししてから、思い出したようにその辺にまとめられてた布を、私に投げた。
体を隠せと言いたいらしい。
私は自分の体を見た。
うん、人っぽい。一見して女性っぽい体つきをしている。
しかし人と言うには全体的に白くて、至るところがふわふわしている気もする。
ちゃんと全身見たいな。
「見たい……見る、たぁい? ぜんぶ」
鏡をくれ。
坊っちゃんはさらに慌てた。
見たくない! みたいなことを言っている。違うて。私が見たいのだが。
「違ぁう。まんじゅ~、見る、まんじゅー!」
私の名前はまんじゅうである。白くてむちっとして、ちょっと楕円系のまんじゅうに似てるからつけられていたと気付いたのは結構後で、実際にまんじゅうを持ってきた坊ちゃんがそれをまんじゅうと呼んだからだった。
自分を呼ぶ言葉の響きの意味がまんじゅうであると知った時は衝撃であった。
その頃の坊ちゃんは私のこと嫌ってたし、多分ちょっとした嫌がらせだったと思うが、そのまま定着したため私は家族全員からまんじゅうと呼ばれていた。名付けについては、ちょっと複雑な気持ちである。
坊っちゃんは抗議でようやく私の言葉の意味を理解した。
そんなに気になるなら見なけりゃいいのに、坊っちゃんは気まずそうにしながら私から視線を外すことはしなかった。気になるお年頃ってやつか~?
坊っちゃんは絶妙に距離を取りながら、私を沢へ案内した。
身体が変わってしまったためにぎこちなくふらつく私は転びそうになって、坊っちゃんが抱きとめてくれた瞬間、こぱっ……、と口から液が漏れ出た。
おわっ……この感じ、繭を溶かした液体だこれ。ヤバ! 人体に有害だったらどうしよう! 坊っちゃんに掛かっちゃったよ!!
慌てて坊っちゃんの服で拭いたり、沢の水で洗浄しようと水をばっしゃばしゃやった。
結論から言うと人体に害は特に無いようだったので、セーフ。こわい。
自分で自分のことわかってないから、こういうことがあると本当に怖い。きっと繭にだけ効果ある液体だったんだろう。良かった。……私毒とか持ってないよね?
坊ちゃんは水も滴るいい男になった。ごめん濡らして。
落ち着いてから、坊っちゃんが桶に水を溜めて、鏡代わりにしてくれる。見辛いが、ここに鏡はないようなので仕方がない。
そう言えばここどこだ? 家じゃないな。私が眠ってる間にポストアポカリプス化したとかじゃないよね? いや坊っちゃんは坊っちゃんだし……たしかによく見るとちょっとやつれた気もするけど。
まあいい、まずは私の姿の確認だ! と、一旦疑問は置いといて、ちょっとずつ全身を確認していく。
わりとむちむちボディ、全体的にふわふわで、所々もこもこした体毛と、背中には大きくて立派な翅が生えていた。やった! ちょっとお兄ちゃんよりスマートさが足りない気もするが、かなり格好かわいい人型になれたぞ!
顔も多少違和感はあるものの、人間とそこまで大差ない……と、思う。触覚っぽいものがあったり、あきらかに人外のモンスターという部分がある気もしなくもないが、愛嬌があるし、オタク的には全然OKな範囲です。
坊っちゃんは、ちらちら、人であればセンシティブっぽい所は器用に視線を外そうとしつつも私から視線は外さずに、体は大丈夫か聞いてきた。動きがちょっと変らしい。ずっと幼体だった感覚がまだ残っており、久しぶりの人間体型だから、そのせいだろうな。身体自体には問題なさそう。
別にパッと見、裸というほどの裸にも見えない気もするし…隠す必要があるかというと無いのではないかと思わないでもないが、坊っちゃん的には気になるっぽい。
まあ若人だし、特殊なオタク趣味植え付けても申し訳ないから、隠してほしそうな部分を坊っちゃんの服と布で隠す。
坊っちゃんはかなりガタイが良い方なのだが、しかし悲しいかな、私は今の坊っちゃんよりも大きくなったようだった。
これでは坊っちゃんに抱っこしてもらえない! 抱っこしてヨシヨシされてる時間が好きだったのに……丸まればまだいけるかもしれないから、今度試してもらおう。




