20・繭期、羽化◆
次の朝、ぽこぽこぽこぽこと、断続的に鳴る間の抜けた音で目が覚めた。
一応警戒もしていたはずだが、寝落ちてしまっていたらしい。
慣れない生活を長期で続けている疲れが出てきているのかもしれない。
音は繭の中から鳴っている。一部、昨日よりさらに薄くなっている箇所がある。内部から、淡い色合いの綺麗な色も染み出してきていた。
完全に、繭から出ようとしている。
出てきても見えないように、こそりと体に隠しながら剣に手を伸ばす。
しかし、繭からはぽこぽこと、一定間隔で音が鳴るだけ。それも段々疲れてきたかのように間隔が遅く、開いてきている。
なんとなく、怠惰な白くて丸い幼体を思い出した。
疲れたから抱っこして運んでくれと言わんばかりのあの態度。嫌だと言うと駄々をこねて、終いには裏返り腹を見せ、死にかけているのを目撃してしまった俺のトラウマ姿で攻めてくる、あの。
少々気が抜けて、剣をきちんと持ち直し、繭をコンコンと叩いてみる。音が止んだ。
意識がある。意思疎通が出来ると確信した。
「出られないのか? ノーなら一回、ハイなら三回、叩けるか? 」
ぽこぽこぽこぽこ音がした。音が一つ多い。ちょっと抜けてるこいつなら、一回ぐらい多く叩いてしまうことはありそうなものだが。
「出られないなら一回叩いて。」
言葉を理解しているかを試す。
ぽこ。今度は一回だけ音がした。
理解している!
成体になっても、中身は変わらないのかもしれない。希望を持つ。
「手伝ってやろうか?」
ぽこ、と音がする。間をおいて、ぽこぽこぽこと三回。
直前の一回を肯定のつもりで叩いて、さっきのハイは三回だったのを思い出したのかもしれない。なんとなくそう思った。
「次から、ハイは一回でいいよ。」
ぽこ。
「手伝うから、なるべく薄い部分から体を避けられる?
剣を使うけど。」
ぽこ。
色が付き薄くなった繭に映った影が、移動した気がした。
剣を軽く当てる。
あんなに硬かった繭が、多少沈む。
力の加減を間違えると、中を傷つけてしまうかもしれない。慎重に、力を入れる。
「なあ、お前、出てきても、人を襲ったりはするなよな。」
繭に剣が入って行く際に出た掠れた音と共に、微かなぽこ、という音もした。
「約束してほしい。絶対に、しないって。」
約束なんてするまでもなく、きっとこいつにそんなことはできない。
自分で作った繭から、自分で出てこられない程に弱いのだ。
きっと図体だけ大きくて、なんにもできやしないのが、こいつなんだと思う。
手が入るほどの大きさに開いた穴に、手を入れる。
外から触っていた時に思ったような硬さはもう感じない。今なら左右に力を入れれば綺麗に割り開ける気さえした。
ぐっと全力で力を込めて、思い切り繭を壊す。
メキメキ、カシュリと音がし、繭が裂けていく。
「やく、そく……」
声のような、震えるような音を出すもの。
中に入っていたのは、真白い人型の、ふわふわした生き物だった。
「やくそく。」
どう見ても人の顔をした、ともすれば美しく整った人形のようなそれは、へらへらと笑った。
俺は驚いて声が出ない。何が起こっている? こいつは、誰だ??
「なん……お前、どうして、その姿は……なんで。
…………本当に?」
本当に、お前なのか?
剣を持つ手が震えた。




