↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/35

19・繭期、隠れ家◆

自分の食事の調達と周囲への警戒、それ以外にやれることもないので繭を綺麗に保とうと拭きながら、以前もしていたように話しかける。

「俺が繭を奪って消えたことはすぐわかる。父さんはもうギルドに連絡しただろうから、俺は見つかったら……怒られるどころじゃないだろうな。

 流石に牢屋にまで入ることは無いと思いたいけど……少なくとも、もう冒険者ギルドにはいられないな。色んな場所の探索をするのは面白かったから残念だけど、仕方がない。」

「……お前が人を襲わないと約束してくれるなら、お前だけは逃がしてから後の始末をつけるからさ……変わらないでいてくれよ。」

「あーあ……。馬鹿なことしちゃったよなあ。

 お前みたいなモンスターのために、人生をかけるなんて。」


日が経てば経つほど、焦りは大きくなる。繭は常に何一つ変わらず、輝かんばかりに真っ白で、耳を澄ましてみても音も聞こえない。まだ、中で、生きてくれているだろうか。

外や家は、どうなっているだろう? 気になるが、街に戻ることもできない。

父は、母は心配しているだろうか。彼女にも何も言わずに来てしまった。自分の人生よりもモンスターを選ぶ男なんて、捨てられてもおかしくはない。


「このまま一年変化が無かったら、流石に辛いな。

 できればもう少し早めに出てきて欲しいところだけど……。」

「またお前と話がしたいよ。

 お前はかわいい、俺の弟なんだからさ。また、顔を見せてくれよな。」


これまで、結構幸せな人生を送ってきていた。

父も母も居て、温かな家があり、こいつが糸を生産し始めてからは、生活も潤った。

途中で母の誘拐なんて大事件もあったが、それもそこまでひどい被害にはならずにすんだ。あの時はこいつがいるせいだ、なんて八つ当たりをしたこともあったっけ。


まさかこんな所で躓くとは思ってもみなかったが、まあ、こいつの為ならそれもいいさ。

大切な家族だった。もう十年以上一緒にいる。

話しかけて、だんだん俺の言葉を理解していくのがわかった時は嬉しかった。


ここで過ごす毎日は人との触れ合いもなく、あまり変わばえしないものだから、思い出すのはこの子と過ごした時のことばかりだ。


「なあ、お前も思うよな。

 今までさんざん良いように使って、大人になったらポイ捨てかって。」


簡単に処分を決めたギルドの人間を夢に見たその日、いつものように目をこすりながら軽口を叩いて繭を撫でていたら、ぽこんと音がした。

驚いて後ずさる。

よくよく繭を見てみれば、昨日よりも若干薄くなっていないか……?

崩れかけた屋根から差し込む朝日を浴びる繭の中で、影が揺らいだ気がした。


剣を手に取る。それと、毒。特に虫系の魔物に強く効くと言われる毒を塗ったナイフは、事前に準備した。

殺気は、出さない。

出さなくとも、油断もしない。大切な弟だが、やはり、モンスターでもあるのだ。


繭の中の影は、戸惑うかのようにゆらゆらと揺れている……そんな気がした。

出られないのだろうか? それとも、まだ変態の途中であって、時期ではない……?


様子を見るが、繭の中の影は、またまとまって、動かなくなったようだった。

ゆっくりと息を吐く。思ったよりも緊張していたようだ。

こんなことではいけない。こいつが目を覚ました時には、安心させてやらなくては。大丈夫なのだと思わせてやらないと。


近づいて繭に手を当てて、とんとんと軽く、優しく叩く。


「出てこられなくて困るようなら、俺に言えよ?

 なんとかここを開けてやるから。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。