18・決意◆
ついにこの時がきたのかと落胆しつつも、息子の様子を気遣いながら父はギルドに連絡をするよう準備しはじめる。
父さんはこの繭が、そのまま処分されることを知らない。
嘘だろ、最近様子がおかしかったのはこのせいだったのか?
最近は彼女ができたことで浮かれていて、こいつのことをちゃんと見ていなかった。
まんじゅうの態度も簡単に考えて、繭になる可能性など、完全に頭から消えていた。
もっと気にかけてやれていれば、止めていられたかもしれないのに。
後悔が止まらない。
今ならまだ間に合うのでは、と、無理矢理繭を開けられないか繭を触ってみても、あまりにも固い。到底、外から開けるようには思えなかった。
息子のおかしな行動を、父さんが慌てて静止する。
中途半端に開いたら中がどうなるかわからない。そのまま死んでしまうかもしれないよ、と。
「大丈夫、一時的にギルドに預けるだけ。この子が穏当なままだったら返してくれると約束したし、この子は変わらないとモースも思うだろう? なら、信じてあげよう。」
その言葉を聞いて、父さんに真実を話すべきかをためらった。
真実を話して、どうなる?
必ず処分されると聞けば、優しい父さんは家で羽化を待とうとするかもしれない。
しかしそんな事をすれば、ギルドを敵に回すことになる。
父さんの仕事の材料は大体がギルドを経由する物。暮らしていけなくなる。
羽化を待った所で、実際まんじゅうが大人しいままでいてくれるのかは、賭けだ。
変貌しないという保証はどこにもなく、この大きさだ。豹変して襲ってくるようであれば、確実に被害が出るだろう。
俺は父さんに黙って、ギルドへの連絡は一日待って欲しいと伝えた。
お別れの時間が欲しいから、と。
俺は、眉になったまんじゅうと、家を出ることを決意した。
この子が羽化した時に人を襲うようなら、自分が犠牲になってでも止めて、殺す。
その責任は一人で負う。
日中に全ての準備を済ませ、夜中。
覚悟を決めて、布で包んだ繭を背負って真夜中に一人、家を飛び出した。
大きな繭を背負った大柄な男。この姿はあまりにも目立つ。
人の世界で活動するのは無理となれば、人のいない環境へ身を置くしかない。
ギルドで冒険者としての活動を続けていて良かった。少し危険が伴うが、しばらくは人の来ない場所に身を潜めるしかないだろう。
そうだ。以前見つけた、小さな木製の、打ち捨てられた小屋のような場所。
あそこが良い。行くまでが少し大変ではあるが、不思議なことにあの周囲はモンスターが寄り付きにくいようだった。まだ他の人にもそう知られてはいないはずだ……。
外は雨が降っていた。
水がかからないよう、繭には防水用の布を厳重に巻いた。
繭を何にも奪われないよう、落とさないように、森を、山を、分け入って進む。
なんとか小屋へと辿り着いてから、ようやく繭を下ろす。ぼろぼろになったベッドの残骸のような後のある場所が、繭を置くのに丁度良かった。
この子は、後どのくらいでここから出てくるのだろうか。どんな姿になるんだろう。
繭を作る虫の中には、中から出られないまま死んでしまう固体も居ると聞いたことがある。
この繭はあまりにも硬い。あの、果物ばかり好んで食べていた、やわらかくて震えるばかりだった大人しい子が、破って出てこられるようになるのだろうか?
何かを突破するなんて事は、絶対にしないやつだった。
自分で出てこられなかったその時は……こちらから、なんとしてでも開いてやらないといけない。




