11・坊ちゃん交流、夜中◇
◇◇◇
たまに夢を見る。
かっこよく変身した後の、兄の夢だ。
今の私の目標は、兄のように格好良く、華麗に変身すること。
だから頭の片隅にずっと兄のイメージがあるのだと思う。
兄のように素敵な姿になって、兄を忘れずに、生きる。
夢を見る度に強く覚悟が決まっていく気がする。
でも、夢を見ると……時々、寂しくて泣いてしまうようになった。
ご主人は優しいし、今の生活は順調だ。ご飯も食べられて体調は良い。
ここに来てから結構な時間が経った。密かな勉強も頑張っている。
しかし今もってして、まだ彼らの言葉がわからない。
この地に生を受けてから、私は兄と意思疎通をしてしまった。
一度経験してしまうと、またああして誰かと通じ合いたいと思ってしまう。
私はモンスターだから、もしかしたら元々彼らの言葉なんてわかりようがない生物なのかもしれない。
誰かともっとわかりやすく交流したければ、同じモンスター仲間を探すべきなのかもしれない。
兄はきっともう、どこにも居ないから……。
そんな風に、悲観的に思考が流れて、しくしくと涙を流す。
あまりにも耐えられなくなったから、ご主人のベッドにまた潜り込んで慰めてもらおうと、水槽を這い出す。
撫でてもらうと、この人とは通じているし通じられるのだと感じられて、癒される。
ベッドにたどり着いて、驚かさないようにそっと、もそもそ布団の中に入る。
私の肌は多分、もちもちしていて触り心地が良いのだ。だからきっとご主人も癒されているはずだ。
勿論潜り込む時に奥さんの邪魔はしない。それだけは大前提だ。
まあ、普段は一緒のベッド使ってないみたいだから、あまり気にしたことはないけども。
しかし、その日はいつも以上に眠かったり悲しかったりでぼやぼやした頭で歩いたせいか、潜り込んだ先はご主人のベッドではなかった。
いつもよりベッド小さいなって思ったんだよ。
ギャって悲鳴と、ご主人にちょっと似てるけど、ご主人より一回り小さな少年の驚いた顔。
想定していない顔と反応に、私はビビった。ビビってさっと部屋の隅に飛び退いてしまって、夢の効果も冷めやらぬまま、しくしく泣いてしまった。
背中を向けて震えていると、ご主人の声と、それに応対する坊っちゃんの声。
驚かせてごめん。
ご主人……悪いけど抱っこして水槽まででいいので連れてってくれないか……と、恐る恐る振り向いた時に目があったのは、坊っちゃん一人。
最近一人でもしっかり私の面倒を見れる坊っちゃんに私の対応を任せて、ご主人は行ってしまったらしい。
ええ! 坊っちゃんですか?
最近ずっと坊っちゃんとばっかり顔を合わせていたから、ご主人と触れ合えなくて正直がっかりする気持ちもあり、私は消沈した。
いや坊ちゃんは別に悪くないんだけど、慣れとかあるじゃないですか。
坊っちゃんはじっと私を見つめた後、手を伸ばした。
こんな夜中に起こして! って、怒られたりするのかな?
あの日以来、明確な敵意を向けられたことはないけど、私はぷるぷる震えてしまった。
ちゃんと抱き上げて、水槽に戻してくれるのだろうか。
また嫌われちゃうかな。
心配している私をよそに迫った手は、私の頭から背中をゆっくりと撫で始めた。
……おやぁ?
震える私をいたわるように、いつもなら考えられないぐらい優しく、私のもちもちボディを撫でていく手。
あまりにも真剣な顔で優しく撫でてくれるので、調子に乗って抱っこしてくれと手を伸ばす。
一瞬ぎくりと身動ぎしたようにも見えたが、しっかりと私を抱きしめ、そのままベッドへと戻る坊っちゃん。
もしかしたら、時々ある水槽脱走真夜中の珍事として、ご主人から対応を学んでいたのかもしれない。偉いなあ……良い子だなあ。
ご主人よりも小さい体で、小さい手で、一生懸命、気持ちはどうあれ気遣ってくれるものだから、私は存分に慰められたのだった。
睡眠を邪魔されて眠れなくなったのか、坊っちゃんはぽつりぽつりと私に語りかけ始めたようだった。私はじっと坊っちゃんを見つめ、耳を傾ける。
自分より小さな子にでも向けて話すかのように、ゆっくりゆっくり、静かに何かを語る声に耳を傾けると、安心して眠れる気がした。目を閉じて、坊っちゃんに頭を預ける。
睡眠邪魔してごめんよう。私はちょっと反省した。




