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47.試験対策

 


 王都で雪が舞い始めた。この街で過ごす2度目の冬。去年の今頃は期末試験勉強に追われ、年明けに迫った魔法士の試験に必死になっていたのを思い出す。


 今年だって、もうすぐ試験はやってくるからテスト対策はしているのだが········


「そこの氷結を三段階に分けて。そう。そのまま動かしてみなさい········上手ですよ」

「せ······先生ぇ········」

「じゃあ、次は水魔法いきましょうか」

「あの······魔法発動中は離れて頂きたいのですが」


 私は勉強用にアロイス先生が作ってくれた異空間の教室で、テストに出る実技を練習していた。先生はいつも闇魔法以外も丁寧に教えてくれて、何ならまだ未受講の部分まで教鞭をとってくれる。


 それはとても有難いし嬉しいのだか、日に日に体の密着度が上がっている最近は、人の目が無いところでは最早べったりとくっつくのが当たり前になってきていた。


 いまだって、魔法を振るっている最中なのに後ろから抱き締められて拘束状態で発動している。最初は一人で立って魔法発動していたのに、椅子に座っていた先生に腕を引かれ、気がつけば先生の膝の上で後ろからがっちりと長い腕が私に絡まりそのまま魔法発動せざるを得ない状態となった。


「何故離れる必要が?充分上手に発動出来てますよ?」

「で······でも」

「いつどんな状態で魔法を発動するかわからないんですよ?ほら、もう一度集中して?」


 そう言いながら耳に息を吹き掛けられ、先生の低い声で指導されると、どうしても意識が魔法でなく先生にいってしまう。


「アロイス先生······っ!やっぱり一人で発動したい······」

「どうして?ニーナは私が嫌いですか?私から離れないって言ったじゃないですか」

「言いました。先生も大好きです。ただなんか、若干ニュアンスが違うっていうか······しかも魔法発動やっぱり集中出来ないっていうか」

「集中力をあげたいんですね?じゃあ私の動きに集中して?」

「······ひぁ······っ」


 アロイス先生の手がするするとシャツの中に入って、背骨を指でつぅ、と撫でる。ビクンと背中が弓なりに弾かれた。からかうように笑う先生がそのまま首にキスを落としてきた。さすがにこれは勉強にならない!


「先生!遊んでませんか?!」

「あはは、バレましたか」


 こっちは真剣に勉強に取り組んでいるのに酷い。軽く睨んでやる。


「そんな、目を潤ませて顔を真っ赤にして睨んでも私を煽るだけですよ、ニーナ」


 くすくすと笑いながら先生は私の頭を撫でた。


「そんな心配しなくても、どの属性もきちんと発動出来てますよ。期末試験も問題ないはずです」


「属性は、そうですね。先生が教えてくれたのでなんとか」

「他にも何か不安がありますか?」

「魔法薬学が······ちょっと」

「去年までの成績は問題なかったじゃないですか」

「今年は実技の調薬があるんです。あれ、難しくて」

「難しい?魔法薬の調薬なんて料理の調味料の調合と同じですよ?何がそんなに······」


 そこまで言って私の料理の技量を思い出したアロイス先生が「ああ、そうか」と一人で頷いた。


「調薬となると、練習にも材料が必要になりますね。前回の期末は何点でしたか?」

「60点です。ごめんなさい」

「ギリギリ及第点ですね。テストまであと8日間、厳しいですが何とかしましょう」

「放課後、教室とかで練習できますか?」

「材料さえ揃えば練習なんて異界の教室(このへや)で出来ます。明日までに最低限の材料を揃えますから毎日うちに来なさい」

「ま、毎日ですか?」

「とりあえず試験を乗り切れるだけの最低限の技量は身に付けさせます」


 キラリと光る紫眼(しがん)はかつての鬼教師と同じ厳しさを滲ませ、先生は私に告げた。



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