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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第一章 『傾国の少女』
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『侍男』

『うわあああああああああ』

 そう叫びながら、絢瀬の胸を目掛けて男が刃物を振るってくる。絢瀬は冷静に刃物のつかを握る手の方を軽くつついて、その軌道を逸らす。そして、男に足を引っ掛けて服のすそを引っ張り、重心を傾け転ばせる。そうして、うつ伏せに倒れた男の頭にかかと落としを喰らわせ意識を奪う。

「ハァッ……」

 これで絢瀬がリタイアさせたのは八人目、

「───うおわっ!」

 刃物の男を撃破したのも束の間、絢瀬が立っていた場所に凄まじい速度で矢が飛んできた。息をつく暇もない。すんでのところで真横にけて回避するが、矢は学生服をかすめた。周囲を見渡すと、こちらに向かって弓を構えていた女がいたので、距離を詰めようと一歩踏み出す。が、今度は謎の球体が絢瀬の足元に投げられる。

「───ッ⁉」

 咄嗟に球体から離れるよう、思い切って跳び退くと、同時にその球体は爆発を起こした。

「あぶねっ!」

 ひとまず、弓矢の女に接近するのは諦め、足元に転がっていた刃物の男を女に投げて対処する。続けて、再度投げられた爆弾ボールを拾って投げ返し、爆弾魔も撃破。

 弓矢の女も、投げられた男とごっつんこしたようで気を失ったみたいだ。

 はあ、と息を吐いて、絢瀬が次の相手を探して辺りを見渡すと、こちらを見て突っ立っている男がいた。

「───はっはっは、お主、見ない顔だが中々いい動きをするな。新入生であるか?」

 話しかけてきたのは、開戦の引き金となった侍男だった。

「……ええ、今日から入学の絢瀬です。どうも」

 ペコリと頭を下げて挨拶をする。侍男の周りには何人もの食パンプレイヤーがぶっ倒れている。もうあらかた倒し終えてしまい、戦っている絢瀬のことを見ていたのだろう。

「これはご丁寧に、二年のあずまだ。お主の戦い、見させてもらったよ。随分な腕を持っているようだな。骨のある者が入学してくれて、拙者も喜ばしい」

「それは良かったです。お眼鏡にかなうかは正直分かりませんけど」

 侍男は絢瀬を一瞥いちべつし、軽く笑った、

「それだけの力があって分かりません──か、面白いな。……お主も一宮殿が狙いなのだろう?」

 この場に居る時点で聞くまでもないのは侍男も分かっていたが、気持ちよく戦うためにはここで聞いておきたかった。

「ええ、そうです。僕、彼女が好きなんです。これが初恋なもんで、色々と全力なんですよ」

「はっはっは、随分と素直な男だな。───ふん、気に入った」

 侍男は笑い、表情を変えた。そして、自己紹介も終えた二人は互いに近付き始めた、

「お互い同じ感情を持っているのだ。ならば、これ以上の言葉はいらないだろう」

 もうこの曲がり角にはほとんど人が残っていない。きっと最後にこの場に立っているのは、この二人のどちらかになるだろう。

「さあ、全力で行かせてもらうぞ!」

 そう言って、侍男は木刀を振り下ろし地面に叩きつけた。木刀は、舗装ほそうされたアスファルトを粉々に砕き、その破片は暴風と化した風圧と共に前方へまき散らされる。

「───ッ!」

 大きく横に逸れて、破片の雨を回避する絢瀬。

 あちらは異常なまでの怪力で距離も関係なしに攻撃をしてくるが、絢瀬は近づかなければ攻撃する手段がない。少しでも距離を縮めるべくひた走る。

「さあ、続けていくぞおおおッ!」

 追撃で飛んできたのは横なぎの一振り、走る絢瀬はこれをハードルのように跳び越えて対処しようとする。が、

「甘い!」

 間髪入れずに飛んできた、更なる暴風。二発目を躱されることを読んでの一手。跳んでいる絢瀬は、これを回避出来ずに直撃してしまう。

「うおわっ……」

 両腕をクロスさせて衝撃を受け止める。しかし絢瀬の身体は後方へと大きく弾かれてしまう。

「どうした! 近づかなければ攻撃することは出来んぞ!」

 侍男は絶え間なく攻撃を続けてくる。質量の塊となった風、鋭利なアスファルトの破片が絢瀬を襲い接近を拒む。止まることなく、いくつもの攻撃が続く。

 しかし、何度目かの攻撃を受けると、絢瀬は侍男に背を向ける形で後方へ走り出した。

「なんだ! もう諦めて逃げるというのか⁉」

 背中を見せる絢瀬に言葉と共に追撃を放つ侍男。だが、予想に反して絢瀬は早々に足を止めた。強烈な一撃が迫る中、絢瀬はその場に屈んで何かを手に取った。

 そこには、絢瀬が先ほど撃破した爆弾魔が倒れている。

「おっ、良かった。あったよこれこれ」

 迫る一撃、これに対して絢瀬は、男からくすねた爆弾を投げつけた。

 ドカン! と大きな音が鳴り響く。侍男の一撃を受けて爆弾は起爆し、絢瀬に迫る攻撃を上書きするようにかき消した。

 そして、二人の間を爆発が生んだ煙がカーテンのように遮る。

「チッ、さっきの爆弾か。だがそんなもの、この風でかき消してくれる!」

 煙に向かって木刀を振ろうとしたが、それよりも少し先に、煙の中から一人の人間が飛び出してきた。

「なっ⁉」

 咄嗟に、攻撃対象をそちらに変更して木刀を振り風の衝撃をぶつける。───しかしそれは、絢瀬ではなかった。絢瀬によってぶん投げられた、爆弾をありったけ服に詰め込んだ爆弾魔の方だった。爆弾魔と侍男の攻撃が衝突した瞬間、爆弾魔に詰められた爆弾は一斉に爆発し、至近距離にいた侍男もろとも高温の炎が包む。

「ぐ……ッ!」

 全身に炎を受けた侍男は、苦悶の表情で顔をにじませる。呼吸もままならなければ、爆炎と煙で絢瀬がどこにいるかも分からない。

(ここから出なければッ!)

 足を動かそうとする侍男。だが、侍男が脱出するよりも前に、煙を突っ切って近づく影があった。それは、今度こそは正真正銘、絢瀬世奈・本人である。

「どっせぇぇぇーーーいっ!」

「しまっ……ッ!」

 その影は、大きく助走をつけて跳び上がり、ライダーキックの構えで侍男の顔面を貫いた。

 そして、何度かバウンドを繰り返したのち、侍男は地面に止まり完全に意識を失った。

「───いやあ、助かったよ。まさかこんな形で爆弾が役に立つとはね……。感謝しないと、そこで黒焦げになって倒れてる人にも」

 完全にいいように使われてしまった爆弾魔は、プスプスと音を立てながらほとんど炭と化していた。ひとまず、絢瀬はこのバトルロワイアルを制することに成功したのだ。

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