『侍男』
『うわあああああああああ』
そう叫びながら、絢瀬の胸を目掛けて男が刃物を振るってくる。絢瀬は冷静に刃物の柄を握る手の方を軽くつついて、その軌道を逸らす。そして、男に足を引っ掛けて服の裾を引っ張り、重心を傾け転ばせる。そうして、うつ伏せに倒れた男の頭にかかと落としを喰らわせ意識を奪う。
「ハァッ……」
これで絢瀬がリタイアさせたのは八人目、
「───うおわっ!」
刃物の男を撃破したのも束の間、絢瀬が立っていた場所に凄まじい速度で矢が飛んできた。息をつく暇もない。すんでのところで真横に避けて回避するが、矢は学生服を掠めた。周囲を見渡すと、こちらに向かって弓を構えていた女がいたので、距離を詰めようと一歩踏み出す。が、今度は謎の球体が絢瀬の足元に投げられる。
「───ッ⁉」
咄嗟に球体から離れるよう、思い切って跳び退くと、同時にその球体は爆発を起こした。
「あぶねっ!」
ひとまず、弓矢の女に接近するのは諦め、足元に転がっていた刃物の男を女に投げて対処する。続けて、再度投げられた爆弾ボールを拾って投げ返し、爆弾魔も撃破。
弓矢の女も、投げられた男とごっつんこしたようで気を失ったみたいだ。
はあ、と息を吐いて、絢瀬が次の相手を探して辺りを見渡すと、こちらを見て突っ立っている男がいた。
「───はっはっは、お主、見ない顔だが中々いい動きをするな。新入生であるか?」
話しかけてきたのは、開戦の引き金となった侍男だった。
「……ええ、今日から入学の絢瀬です。どうも」
ペコリと頭を下げて挨拶をする。侍男の周りには何人もの食パンプレイヤーがぶっ倒れている。もうあらかた倒し終えてしまい、戦っている絢瀬のことを見ていたのだろう。
「これはご丁寧に、二年の東だ。お主の戦い、見させてもらったよ。随分な腕を持っているようだな。骨のある者が入学してくれて、拙者も喜ばしい」
「それは良かったです。お眼鏡にかなうかは正直分かりませんけど」
侍男は絢瀬を一瞥し、軽く笑った、
「それだけの力があって分かりません──か、面白いな。……お主も一宮殿が狙いなのだろう?」
この場に居る時点で聞くまでもないのは侍男も分かっていたが、気持ちよく戦うためにはここで聞いておきたかった。
「ええ、そうです。僕、彼女が好きなんです。これが初恋なもんで、色々と全力なんですよ」
「はっはっは、随分と素直な男だな。───ふん、気に入った」
侍男は笑い、表情を変えた。そして、自己紹介も終えた二人は互いに近付き始めた、
「お互い同じ感情を持っているのだ。ならば、これ以上の言葉はいらないだろう」
もうこの曲がり角にはほとんど人が残っていない。きっと最後にこの場に立っているのは、この二人のどちらかになるだろう。
「さあ、全力で行かせてもらうぞ!」
そう言って、侍男は木刀を振り下ろし地面に叩きつけた。木刀は、舗装されたアスファルトを粉々に砕き、その破片は暴風と化した風圧と共に前方へまき散らされる。
「───ッ!」
大きく横に逸れて、破片の雨を回避する絢瀬。
あちらは異常なまでの怪力で距離も関係なしに攻撃をしてくるが、絢瀬は近づかなければ攻撃する手段がない。少しでも距離を縮めるべくひた走る。
「さあ、続けていくぞおおおッ!」
追撃で飛んできたのは横なぎの一振り、走る絢瀬はこれをハードルのように跳び越えて対処しようとする。が、
「甘い!」
間髪入れずに飛んできた、更なる暴風。二発目を躱されることを読んでの一手。跳んでいる絢瀬は、これを回避出来ずに直撃してしまう。
「うおわっ……」
両腕をクロスさせて衝撃を受け止める。しかし絢瀬の身体は後方へと大きく弾かれてしまう。
「どうした! 近づかなければ攻撃することは出来んぞ!」
侍男は絶え間なく攻撃を続けてくる。質量の塊となった風、鋭利なアスファルトの破片が絢瀬を襲い接近を拒む。止まることなく、いくつもの攻撃が続く。
しかし、何度目かの攻撃を受けると、絢瀬は侍男に背を向ける形で後方へ走り出した。
「なんだ! もう諦めて逃げるというのか⁉」
背中を見せる絢瀬に言葉と共に追撃を放つ侍男。だが、予想に反して絢瀬は早々に足を止めた。強烈な一撃が迫る中、絢瀬はその場に屈んで何かを手に取った。
そこには、絢瀬が先ほど撃破した爆弾魔が倒れている。
「おっ、良かった。あったよこれこれ」
迫る一撃、これに対して絢瀬は、男からくすねた爆弾を投げつけた。
ドカン! と大きな音が鳴り響く。侍男の一撃を受けて爆弾は起爆し、絢瀬に迫る攻撃を上書きするようにかき消した。
そして、二人の間を爆発が生んだ煙がカーテンのように遮る。
「チッ、さっきの爆弾か。だがそんなもの、この風でかき消してくれる!」
煙に向かって木刀を振ろうとしたが、それよりも少し先に、煙の中から一人の人間が飛び出してきた。
「なっ⁉」
咄嗟に、攻撃対象をそちらに変更して木刀を振り風の衝撃をぶつける。───しかしそれは、絢瀬ではなかった。絢瀬によってぶん投げられた、爆弾をありったけ服に詰め込んだ爆弾魔の方だった。爆弾魔と侍男の攻撃が衝突した瞬間、爆弾魔に詰められた爆弾は一斉に爆発し、至近距離にいた侍男もろとも高温の炎が包む。
「ぐ……ッ!」
全身に炎を受けた侍男は、苦悶の表情で顔を滲ませる。呼吸もままならなければ、爆炎と煙で絢瀬がどこにいるかも分からない。
(ここから出なければッ!)
足を動かそうとする侍男。だが、侍男が脱出するよりも前に、煙を突っ切って近づく影があった。それは、今度こそは正真正銘、絢瀬世奈・本人である。
「どっせぇぇぇーーーいっ!」
「しまっ……ッ!」
その影は、大きく助走をつけて跳び上がり、ライダーキックの構えで侍男の顔面を貫いた。
そして、何度かバウンドを繰り返した後、侍男は地面に止まり完全に意識を失った。
「───いやあ、助かったよ。まさかこんな形で爆弾が役に立つとはね……。感謝しないと、そこで黒焦げになって倒れてる人にも」
完全にいいように使われてしまった爆弾魔は、プスプスと音を立てながらほとんど炭と化していた。ひとまず、絢瀬はこのバトルロワイアルを制することに成功したのだ。




