ローションとラッキースケベ
「さてと、邪魔な連中は片付いたことだし、いよいよセッティングに取り掛かるとするかね」
戦っているうちに、曲がり角からは少し離れてしまった。計画を遂行するのには事前に華火たちと決めた立ち位置につく必要がある。
「急がないと……」
決着はついた。しかし、時間は既に八時を回ってしまっている、いつ一宮玲佳がやって来てもおかしくない。わざわざここまでやったのだ、間に合いませんでしたじゃ泣くに泣けない。
「よしっ、と、これで後は指定のポジションで待機するだけ……」
その辺に放っておいた自分の学生鞄を拾う。鞄の口を開けると、中には食べかけの食パンが入っている。戦闘が始まる前に、巻き込まれないよう鞄の中に突っ込んでおいたのだ。
そうして、鞄を持って、曲がり角のところまで歩いていくと、
「……、」
誰かがいる。
四つん這いになって、地面に伏している男がいる。それも、ボトルから何かの液体を垂らして、地面に塗りたくっている。塗っている当の本人はどこかヌルヌルしていて、変に光沢を帯びている。結構気持ちが悪い。更によく見ると、男の周りだけでなく、曲がり角の周囲一帯に、同様の液体が塗られていたことに気付く。
「……おい、アンタ。なんなんだこれは?」
これまでに、既に何人もの野蛮人共と戦わされているのだ。これ以上の面倒だけは勘弁、といった調子で絢瀬が聞くと、男は顔を上げて絢瀬の存在に気付き、
「あぁ……、『ローション』だよ。見たことないかい? テレビのドッキリ番組とかで使われている、ヌルヌルのやつ」
「いやっ、まあ。それは分かるけど、一体なんで……?」
更に絢瀬が聞くと、
「そっちの方でのびてる人たち、いや、君も含めてだけど。みんな一宮さんと食パンを咥えてぶつかろうとしていたんだよね?」
のびている人たち、というのはバトルロワイアルに敗れたリタイアした連中のことだろう。
「ハハッ、確かにそれもロマンティックだけど、ちょっと子供っぽすぎるかな?」
馬鹿にするように男は笑い、
「幼稚というかなんというか…。まあ、僕はその程度じゃ満足しない」
キリッ、とした顔で男は言った。もう面倒くさくなってきた絢瀬にはこの時点で若干のいら立ちが募っている。
「やるならこうだよ! ただぶつかるだけじゃない! ローションでヌルヌルのヌレヌレにさせて、なんなら勢いのままに僕を押し倒させて、そしてスカートは捲れ、あられもない姿になった一宮さんが僕にラッキースケベを───
ドゴーンッ! 言い切る前に、そいつは絢瀬にぶん殴られて遥か彼方までぶっ飛んでいた。




