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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第一章 『傾国の少女』
8/21

入学式は曲がり角の食パンに要注意!

「───まっ、まずい……」

 思わず、両膝をついて絢瀬は崩れ落ちてしまっていた。

「……アンタら、……一体何やってるんだ?」

 そして膝をつきながら、絢瀬は一番近くにいた食パンプレイヤーその1に話しかけた。

『ん…? なんだ、見て分からないのか? この学校に今日から入ってくる一宮玲佳ちゃん、すっげえ可愛い子なんだよ! 是非お近づきになりたい! だから、この絶好の機会チャンスにつられて、皆も集まってきてるみたいだぜ』

 ヤケにテンションの高い食パンプレイヤーその1は、ガッハッハと笑いながら教えてくれた。

 もう一目見て分かる。これは、どうあがいても失敗する。曲がり角で食パンを咥えて一宮玲佳とぶつかろうとバカが大勢押しかけた結果、パンのバリエーションが食パンしかない絶望的なパン食い競争の会場みたいになっている。これでは、もし絢瀬がぶつかれたとしてもエモーショナルの欠片もない。というより、そのシチュエーションを狙っていたのがバレバレだ。

「くっ……」

 こうなった以上は仕方がない。もはやこのまま食パン作戦を実行するのは困難だ。アドリブで、食パンレベルの初対面の演出を作り上げる方向にシフトするか、それともこの大集団をまとめて排除するか。どちらにせよ、選択をしなければならない。


 絢瀬が思考している現在時刻は七時半、一宮玲佳の到着予想時刻は八時前後。このままでは、食パン大集団皆揃っての作戦大失敗だ。他の食パンプレーヤーもピリピリとし始めている。


 だが、最初から全員の思考に解決策はあった。

 それは単純なことで、邪魔となる他の食パンプレーヤーを排除することである。ただ、少なくとも四、五十前後のプレーヤーがいる中で自身から攻撃を仕掛けるのは自殺行為だ。故に、この膠着こうちゃく状態を誰も打破出来ずにいた。


(パッと見で腕っぷしの強そうな奴はいない……。やろうと思えば全員やれるかもしれない。いや、それよりも考えるべきは時間か。例え全員を倒せたとしても、彼女がここにやって来るであろう八時頃までに事を治められるか……)

 どうする……、絢瀬がそう思ったその時である。一人の男、いや。一人の『侍』が、登場と共にこの凍り付いた現状を切り開いた。

「どおけえええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!」

 ほとんど絶叫に近い声をあげながら登場したその侍男は、木刀を横なぎに振るい、その風圧でもって、大集団のおよそ八割をも数十メートルにわたって吹き飛ばした。

「なっ! なんだいきなりっ」

 幸運にも、角度の都合でその暴風の直撃を避けることが出来た絢瀬は、その惨状を見て驚愕した。かなり巨体で重量のある食パンプレーヤーだっていたはずだ。なのに、それを諸共もろともせず数十メートルにわたって打ち上げた強烈な一閃。絢瀬だって、もろに喰らっていたらそれなりのダメージにはなっていたはずだ。

 その力の主は、紺色のはかまを纏い、長く伸びた髪を後ろでわえた大男だった。

(───コイツ、強い。他の奴らとは明確に違う!)

「拙者は、あずま秀道しゅうどう! 翔麗しょうれい高校二年生。侍の道を志す者だ! ここに居る者は、みな同じ目的でつどったのだろう。ならば、ここはえて正直に言わせてもらう、拙者は一宮いちみや玲佳れいか殿とお話がしたくてここへ来たああああああああ!」

 休む暇もなく、侍男は鬼気迫る勢いで言葉を浴びせてくる。

(……、暑苦しいな……)

 初撃しょげきけてその場に残った何人か。彼らに向かって侍男は唐突に宣言した。

「一宮殿が引く手数多(あまた)であることは拙者も知っている。彼女と話すことすら、奪い合いの席であることも。だが! お主らもその覚悟を持ってここに来たのだろう! ならば、これ以上の言葉は必要ない。『侍』であるなら、その刀でもって証明するのみ! お主らも! その力でもって証明してみせよ! 行くぞうおおおおおおおお!」

(なんなんだコイツ……?)

 あっさりと、膠着こうちゃくしていた集団を巻き込み、侍男はその場を戦場へと変えてしまった。

『ふざけてんじゃねえぞてめえこの野郎!』

『侍のくせに不意打ちしてんじゃねえぞコルァ!』

『食パンになるのは俺だぁぁぁぁぁぁ!』

『私が曲がり角よ~!』

 初撃を受けた者の中でもタフな者たちが復活し始めた。そうして侍の元へとぶつかっていく。

 この曲がり角は既にルール無用のバトルロワイアル空間となった、穏便に事は済みそうにない。

 だが、絢瀬だって引くことは出来ない。今出来ることは、このバトルロワイアルに参加して、早急に全員をリタイアさせ、この場を制することだけだ。

 さっそく、絢瀬の元にも釘バッドを握りしめたモヒカン、バールをぶん回すドレッドヘアが迫ってきている。もう見境なしだ。きっと武器も持たない絢瀬が格好かっこうの獲物に見えたのだろう。

「───仕方ない、やってやる」

 言葉と同時に、前方の左右から頭を目掛けて振るわれた釘バットとバールを身を低くしてかわす。そして、そのまま二人の間を抜けるように地面を蹴って駆け出す。

『チィッ!』

 攻撃を躱されたモヒカンが舌を打ち、再度釘バットを振るうために態勢を立て直そうと動く、だが遅い。

 絢瀬の両手が、モヒカンとドレッドヘアの顔面をガッシリと掴む。二人の間をぶち抜き、そのまま体重を両の手に乗せて二人を背中から地面へと叩きつける。

 グガァ、と声を上げたのを最後に、モヒカンとドレッドヘアは意識を失ったようだった。

「まったく、野蛮な奴が多いみたいだな───」

 呆れながら、絢瀬が言葉を漏らす。それなりに屈強そうな男二人を一瞬で撃破したことで、周囲の何人かは絢瀬に注目を集めている。

「行くぞ、食パンを決めるのはこの僕だ!」

 それを合図に、絢瀬も走り出す。何人かも絢瀬に向かって飛びかかってくる。遠くを見れば、先ほどの侍も思いっきり暴れている。ただの通学路とは思えない荒れっぷり。一宮玲佳との食パンチャンスチケットを賭けた戦いが始まった。

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