とてもとても優しい私の大切な人たちへ
その日、一宮玲佳は街の外れに繰り出していた。
少しずつ寒さが薄れ、温かみを帯び始めた風が少女の髪を揺らす。
「……、」
玲佳は誰かと会話をしにここへやって来たのではない。ここには、彼女一人しかいない。
そこには、いくつもの墓石が並んでいた。そこは、どこにでもありふれた普通の墓地だった。
そして彼女の目の前の墓石には、彼女がよく知る二人の名前、彼女の父親と母親の二人の名前が刻まれている。
玲佳は今日、両親にあることを伝えに来ていた。彼女が生きている現在を、彼女の生きている世界が大きく変わったことを。そして、とある少年がもたらした一つの結末を。
「───もう……私は大丈夫だよ、二人とも」
優しく、穏やかな声で、両親を安心させるように娘は語った。
「今はもう、寂しくなんてないから。……私にも、隣を歩いてくれる人が出来たから……」
それはどれだけ、少女の両親が望んでいた言葉なのだろう。ずっと、この両親は娘の幸せを第一に考えて生きていた。娘のことを最後まで考え続けて、その生涯を終わらせた。
死んでしまった人間に、言葉が届くかなんて分からない。天国なんてないのかもしれないし、魂なんてものも存在しないのかもしれない。それでも、もしそんなものがあるのなら、もしこの少女の声が届くのなら、きっとその両親は安心したように、幸せそうに笑うのだろう。だから少女は続ける、ここまでの話だけではなく、これからの話を。
「あの人なら、きっと私の隣にもずっと立ち続けてくれる……。そう、信じさせてくれる人なの。だから私も、精一杯あの人のことを支える」
そして少女は、幼い頃とまったく変わらないとびきりの笑顔を見せて、
「───お父さん、お母さん。安心して見ててね! もう私は、一人じゃないから……!」
そう、締めくくった。
満足したのか、少女は立ち上がり、その場所から背を向けて歩き出す。
けれど、最後に一度だけ後ろを振り返り、玲佳は『家族』に対してこう言葉を残した。
それは、家族が交わす平凡な一言。
「それじゃあ、行ってきます‼」
前を向いて歩き出した娘を見て、遠いどこかでその両親が、笑ったような気がした。




