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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第三章 『扇谷会』
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意外な来訪者

 とある病院の集中治療室、浅倉華火はその部屋に一つだけあるベッドへともたれかかっていた。より正確には、そのベッドで眠り続ける少年へと。部屋にはその二人きりで、病院の職員などはいない。

 見ると、少女はごく普通の学生服を着ていてマスクなんかも着用していない。手荷物も最小限ではなく普通に自前の鞄を持ち込んでいるし、面会可能時間もあっさりと越えてこの部屋に滞在し続けている。それは何故か、

 その大きな理由の一つは、ベッドで眠り続ける少年・絢瀬世奈が命を狙われていて、彼を外敵から守る必要があるということだ。下手をすれば、病院側の職員が何か危害を加えることだって考えられる。そのため、彼を本当の意味で守れる人間が、常に一人は傍に居る必要があった。しかし、その少女の心中は、現状の少年に対する心配で埋め尽くされてしまっている。

 少女は、少年の顔を見て心を痛める。胸に、ちくりと何かが刺さる。

(なんで、こんなことになっちゃったのかな……)

 目の前に眠っている少年は、強い。多少の困難なんて軽々と一人で乗り越えていけるだろう。もし、自分が足を引っ張らなければ、彼が怪我をすることだってなかったかもしれない。

(絢瀬が、あの子のことを好きにさえならなければ、こんな風に命を狙われなくてもよかったのかな……)

 少年が挑戦を始めてしまったこと、それ自体が、失敗だったのかもしれない。少女の目に涙がにじむ。

(あの日、中学校の卒業式の日、あの子に出会いさえしなければ、絢瀬はこんな目に遭わないで済んだのかな……)

 どうせ高校が同じで、いずれ出会ってしまうという未来があったとしても、つい、探してしまう。この結果を避ける選択肢が、道のどこかに転がっていなかったか、と。

 そこまで考えて、少女はハッとした。自分はなんで、この惨状の責任を何も悪くない少女に押し付けようとしているのだと。そして、激しく自分を嫌悪する。

(私って、こんなに醜かったっけ……)

 華火が、目を閉じたままの絢瀬を見つめていると、不意に集中治療室の扉が開いた。外には友人の平良修平が居て、不審人物がやって来ていないかを見張ってもらっているはずだ。そのため、ここへやって来たのは平良本人か、もしくは病院の職員か、そう考えて顔を上げると、そこには意外な人物が立っていた。

「───失礼するぞ、アサクラ」

「アンタ───ッ! ……案内人ナビゲーター!」

 現れたのは華火を扇谷会から直接救出し、死にかけの絢瀬を病院まで運んでくれた忍者の男・案内人ナビゲーターだ。平良も案内人ナビゲーターの顔を見て、止めることなくここまで通したらしい。

「……一体、どうしたの?」

 華火が目を擦って立ち上がると、案内人ナビゲーターふところから一枚の手紙を取り出して渡してきた。

「これは、アヤセ宛の物だ。もし目を覚ましたら渡してやってくれ」

「? これ、手紙? 誰からの?」

()()()からだ、最後にアイツに伝えておきたいことがあったんだろう」

「え、ちょ、ちょっと、どういうこと!」

「色々と騒がせてすまなかった。でも、これでもう終わりだ。アサクラも安心するといい」

 華火の問いかけなんてほとんど無視して、満足したように案内人ナビゲーターは一瞬にして部屋を出て行ってしまった。追いかけようにも、扉の先にはもう誰も居なくなっていて、華火にはどうすることも出来なかった。そして、唯一残された手紙に目を落とす。

「これ、……って」

 差出人には、あの傾国の少女の名前が書かれていた。

 一宮玲佳、と。

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