叫び
(あ、つい…………? い、や………、これは……つめ、たい………、の、か……?)
絢瀬世奈には、まだ息があった。そして、今にも消え入りそうな意識が、辛うじて絢瀬には残っていた。その身体は灼熱に侵されていて、神経すらまともに作用していない。痛みも温度も適切に知覚出来ず、自分が立っているのか寝転んでいるのかも分からない状況だ。
地面に伏しているその身体は、爆発の熱によって溶かされ、手榴弾の破片によって削り取られ、肌の一部を失い、その中身が露出している。もはや絢瀬は人ではなく、血に濡れた肉塊と表現をした方が適切かもしれない。身体の至る所に穴があり、特に手榴弾に向けられていた背中側は、反対側まで透けて見えてしまいそうに思える。
華火は一体どうなったのか。絢瀬が必死に耳を澄ましても、何も聞こえない。目を開いても、何も見えない。いや、そもそも目を開くことも出来ていないのかもしれない。真っ暗な空間で、徐々に意識だけが失われていく。そして、意識が完全に消滅しようとする。
───しかし、そのとき誰かの声が聞こえた。
まともに働かない思考でも分かる。それは、絢瀬にとって重大な意味を持つ誰かの声だ。
でもここには、華火や案内人、巻き込んでしまった女の子、扇谷天征くらいしかいなかったはずだ。だが、声はそのどれとも違う。何故だか、機能を失ったはずの絢瀬の耳にクリアに流れてくる。
声、より正確には叫び。
絢瀬は、その声の持ち主を誰か理解した。だから、もう動かないはずのその目は、絢瀬の意思に関係なく開かれた。
そして、絢瀬は絶望した。
絢瀬が死んでも隣に立ちたかったはずの少女、一宮玲佳がそこには立っていて、
絢瀬は、一宮玲佳が血塗れの自分を見て、『崩壊』するところを目撃した。
そのまま、絶望の底の底で、絢瀬世奈の思考は完全に活動を停止した。
少年は、少女を取り巻く世界に敗北した。




