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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第三章 『扇谷会』
33/47

黒煙

 およそ六十人、最初に絢瀬を取り囲むように出てきた組員、そして遅れて現れた組員、なんとか全員を打ち倒すことが出来た。これだけの戦闘を終えても絢瀬の身体には外傷はなく、無事に一区切りつけられたという感じだ。

(なんかだんだん、集団と戦うときの対処力が上がってきている気がする……)

 絢瀬は毎日のように集団から襲われているのだ、徐々にその場の切り抜け方が磨かれていってもおかしくはない。あまり嬉しくもないのが本音だが。

(でもまだまだ、組員は残ってそうだな……)

 小さいが、屋敷の方から物音が聞こえる。きっと、屋敷の中では絢瀬に対抗するために急造で準備を進めているのだろう。庭園ていえんにいるのは既に粗方あらかた倒してしまった。より扇谷会の注意を引くなら、屋敷に入ってでも次の獲物を探すべきだろうか、絢瀬は次の一手を考える。

(もう時間は結構経つけど、案内人ナビゲーターは上手くやれてのかな?)

 別で動いている案内人ナビゲーターのことも思い浮かべるが、結局考えていても仕方がないと思い直す。とりあえず、絢瀬は一番近くの屋敷へと入ろうと走り出した。

 すると、入る直前、その屋敷の上から声が聞こえた。

「───おいアヤセ!」

 声の元をたどって屋敷を見上げると、そこには華火を担ぎ上げた案内人ナビゲーターがいた。

案内人ナビゲーター! それに華火も!」

 ようやく、華火の顔を見ることが出来て絢瀬は安心した声を上げる。

 華火は縛られた状態で空を跳ねまわっていたせいか、ちょっぴりグロッキーな様子だ。

「うばあー、……助けてぇ絢瀬、コイツ凄い速さでぴょんぴょん動き回るせいで私今めちゃくちゃ気持ち悪い……、吐きそう」

「は、はは」

 良かった、どうやら大丈夫そうだ。絢瀬の表情に安堵がにじみ出る。

「時間稼ぎはもう十分だ、お前も引き上げろ!」

 案内人ナビゲーターはそう言って次に飛び移る先を探し始めた。

「分かった! 後で合流しよう!」

 返答し、絢瀬も入り口を目指して走りはじめる。しかし、

「「───ッ⁉」」

 ドカン! と、突如、絢瀬が入って来た入り口が爆発し、その退路をった。

 絢瀬も案内人ナビゲーターも、その足が止まった。

「な……」

「──ッ! アヤセ、伏せろ!」

 上から見ていた案内人ナビゲーターの言葉で、絢瀬は咄嗟に身を屈める。

 すると、ビュンッと絢瀬の髪を掠めるように高速で弾頭だんとうが突き抜けた。

 絢瀬の後方で弾頭が板塀いたべいに衝突し、爆発が起こる。絢瀬が弾頭が飛んできた方向に視線を向けると、

「ヒューーー、いい反射神経しとるやん。世奈せなちゃん」

 弾頭を放った男は、使い捨ての軍用ランチャーを投げ捨てながら言った。横には二人の男が立っていて、同様の軍用ランチャーを何本も担いでいる。

(コイツ……!)

「随分と暴れてくれたなあ、おかげさまで扇谷会ウチは大損害(ダメージ)や。もうわろけてくるわ」

扇谷おうぎや……」

 ぼそりと、案内人ナビゲーターはその男の名前を呟いた。

案内人ナビゲーター、誰だコイツ?」

 絢瀬が、案内人ナビゲーターに聞く。

「……扇谷おうぎや天征てんせい、この扇谷会を束ねている会長だ」

 会長、という肩書の割にはかなり若い印象を覚える。歳はおよそ三十、いや、下手したら二十代かもしれない。

「初めましてやな。案内人ナビゲーターくん」

 扇谷は一度絢瀬を視線から外し、ひらひらと、屋敷の上の案内人ナビゲーターに向かって手を振る。

「お目にかかれて光栄や。せっかくやしゆっくりしてってな」

「チッ……」

「あと、そのぐるぐる巻きの女の子、浅倉とか言ったっけ? 連れていかれると困るんよ。悪いけど置いてってもらうで」

 案内人ナビゲーターは、扇谷のことは一旦無視して絢瀬に声をかける。

「アヤセ! お前は気にせずそのまま脱出しろ!」

 案内人ナビゲーターの言葉を受けて、即座に絢瀬は走り出す。目指すのは先ほど爆発して新たに脱出口が生まれた板塀いたべい。今は扇谷邸を脱出するのが先決だ。

「はーあ、あかんなぁ。もっとオレと───遊ぼうや!」

 隣の男から二本目の軍用ランチャーを受け取り、扇谷は絢瀬に標準を合わせる。そして、トリガーを引いた。

 とてつもない速度で突き進む弾頭は、空気を切り裂き絢瀬に迫る。が、

「フッ──!」

 空中に跳び上がった案内人ナビゲーターが、宙で身体をひるがえしながらクナイを放つ。絢瀬に迫る弾頭と衝突し、その場で爆発を起こす。黒煙が立ち昇る。

「うおわ! マジか!」

 人間離れした案内人ナビゲーターの動きに、扇谷は感嘆の声を漏らす。

 だが、案内人ナビゲーターはそんなのを意に介さず、絢瀬のすぐ隣に着地する。そして、

「さっさと出るぞ!」

 二人は並走し、板塀の穴を目指す。案内人ナビゲーターに担がれた華火は、案内人ナビゲーターの動きについていけずにずっとあうあう言っている。こっちもこっちで限界が近そうだ。

 走っている間に、後ろの黒煙は段々風で流れつつある。急がなければまた狙われてしまう。

「なんや、ほんまに帰る気か?」

 消えつつある黒煙の向こうでは、扇谷が何かを言っている。

「んー、つまらんな。……しゃあない、オイ、()()出せ」

(アレ……?)

 まだ隠し玉でもあるのかと、絢瀬は一瞬だけ振り返り扇谷の動きを確認した。

 しかし、ある意味それは失敗だったのかもしれない。扇谷が持ち出したモノ。

 ()()を見て、絢瀬も案内人ナビゲーターも足をピタリと止めてしまったからだ。

「───は?」

 扇谷が出したモノ、それは、人間だった。

 華火と同じように両手両足を縛られ、地面に横たわるように投げ出された女の子。

 よく見ると制服で、顔こそ知らないが絢瀬たちと同じ翔麗高校の生徒だと分かる。

「なん、で?」

 絢瀬の疑問の答えが分かるよりも早く、扇谷は、笑いながらその女の子の顔に()()()()()()

 女の子は、力なく地面に伏したまま動かない。痛みを嘆く体力すら残っていないように見える。そして、扇谷はわざとらしく説明するようにして言った。

「おーい、案内人ナビゲーターくーん。この子は、傾国の少女にも、絢瀬世奈にも関係ない、ごく普通の善良な一般市民や。ただその辺に居たってだけで何も関係ない、ただのいたいけな女の子や」

 扇谷は笑いながらスーツの中から手榴弾を取り出して、

「てっきりオレは、案内人ナビゲーターとかいう人間は冷酷な奴なんやって思ってたんやけど……。はははっ、そうでもなかったみたいやなあ。さっき、世奈ちゃんのことも庇ってたもんなぁ」

 扇谷は女の子から離れて手榴弾のピンを抜き、

「だったら、案内人ナビゲーター。お前はこの子のことも見捨てられないんとちゃうか?」

 扇谷の手から手榴弾が投げられた。手榴弾は、横たわる少女のすぐ隣に転がって、

「ッ───‼」

 絢瀬のすぐ隣にいた案内人ナビゲーターが、華火を絢瀬に投げ渡し、爆発的な加速で女の子の元へと跳んだ。一瞬にして少女の元へとたどり着く。しかし、

 直後、手榴弾は空間の全てを揺らし、灼熱の炎を生み出した。

「う……嘘っ!」

 絢瀬の腕の中の華火が、目の前の光景に息を吞む。

「───案内人ナビゲーターッ‼」

 案内人ナビゲーターが女の子の元にたどり着いたタイミングと、手榴弾の爆発はほぼ同時だった。

 もしかしたら、最悪な想像が絢瀬の脳裏に浮かぶ。

「チッ───!」

 しかし、すぐ後に扇谷が舌を打った。見ると、炎の少し右に逸れた部分に重なる人影があった。影の身体中は焼け焦げていて、

「ぐ……ッ!」

 爆発を受けてしまっているようだが、案内人ナビゲーターはなんとか生きていた。ギリギリのところで、女の子を連れて手榴弾からのがれることに成功した。あの状況から、少女を救い出してみせた。

 流石にこれは、扇谷も想定外だったようで、

「うっそー、あれ助けれるん? いや案内人ナビゲーターくん、ほんま化け物やわ」

 頭をかきながら、そんな感想を言っている。

「こ、の野郎……!」

 案内人ナビゲーターは地面に這いつくばりながら扇谷をキッと睨みつける。

「はっはーそんな怒らんでよ、こうでもせんと案内人ナビゲーターくん倒せそうにないんやし。それに良かったやん、その子も死なずに済んで」

 扇谷は隣の男から軍用ランチャーを受け取って、

「───まあ、どっちみち今死ぬんやけど」

「ッ!」

 軍用ランチャーに指を掛け、トリガーを引いた。

 無慈悲にも、扇谷によって軍用ランチャーは発射された。しかしそれは、案内人ナビゲーターや女の子にではなく、まったく的外れな方向へと射出された。

「あ?」

 扇谷の前には、既に絢瀬が立っていた。華火を地面に寝かせ、単身で扇谷の元まで駆け付けた絢瀬世奈が。絢瀬に軍用ランチャーそのものを蹴り飛ばされたことで、標準がずれたのだ。

「───なにすんねん」

「楽しそうだなアンタ、僕が代わりに相手してやるよ」

 しかし扇谷は、接近されたことに焦るでもなくにやりと笑ってみせた。これを、望んでいたかのように。

 轟‼ と絢瀬は身体をひねり回し蹴りを打ち込んだ、扇谷の腹部に狙いを定めて。しかし、打ち終えて使い物にならなくなった軍用ランチャーを盾にして防がれる。

「うおわー……。分かってはいたが───いい蹴りやな。……案内人ナビゲーターくんは速度が凄いけど、世奈ちゃんは力があっていい」

「アンタなんかに褒められても、ちっとも嬉しくねえよ」

 もう一度蹴りを放ち、扇谷の手から軍用ランチャーを弾き飛ばし盾を奪う。

 そのまま、何度も蹴りを与える。顔や腕、足を狙って。一撃一撃に力を込めて、正確に打ち込んでいく。が、扇谷は必要最低限の動きでそれを躱していく。

「オイ、お前ら何ボケっと突っ立っとんねん。……はよ世奈ちゃんのこと撃たんかい」

 絢瀬の攻撃を軽く回避しながら、扇谷は横でそれを眺めていた部下たちに命令する。部下たちは焦った様子で拳銃を取り出し、絢瀬に標準を構える。

 一度、扇谷への攻撃の手を緩めて、絢瀬は銃弾の回避に努めなくてはならない。絢瀬は目の前の拳銃に向き直ろうとするが、

『───ぐああッ!』

 拳銃を構えるその手に、手裏剣が突き刺さった。絢瀬が地面に目をやると、案内人ナビゲーターが負傷しながらも援護してくれていた。

「───ありがとう、助かる!」

 そう言って、再度眼前の扇谷に蹴りを入れる。腕で受け止められてしまったものの、今度は衝撃を与えることが出来た。扇谷の眉間にしわが寄る。

「……使えんやっちゃのう!」

 部下へと苛立ちを見せる扇谷だが、絢瀬は構わずに次々と殴打を加えていく。手数を重ねていくにつれ、徐々に絢瀬の方が押し始めている。そして、扇谷の防御の隙間を縫い、絢瀬の一撃が、扇谷の腹部に届いた。

「ぐぅ、──ぅおあッ!」

 その衝撃で、二人の間には距離が出来た。

「くっそ、……中々やるやん……!」

 扇谷はスーツから拳銃を取り出して、絢瀬に向かって発砲する。

「……ッ」

 絢瀬は左右にジグザグに駆け出し、フェイントを交えながら距離を詰めていく。一発、二発と銃弾を躱して走る。そして、絢瀬が目と鼻の先まで接近したところで、ようやく扇谷の銃口は絢瀬を捉えた。だが、絢瀬の裏拳で軽く弾かれる。

「はああああ──ッ!」

 隙だらけになった扇谷の顔に、絢瀬は目一杯の力で振りかぶった拳を叩きつけた。

 ガンッ、と扇谷の頭に鈍い衝撃が走る。

 絢瀬の一撃はかなりの損傷ダメージになったようで、扇谷は両腕をだらりと垂らしながらフラフラと数歩後退した。扇谷の頭には、どろりと赤黒い血が流れている。

「…………………は、ははっ。いやあ、失敗やった。すっかり甘く見てたで、世奈ちゃんのことを。……こんなんやったら、もう一人くらい生贄を用意しとくべきやったなぁ」

 扇谷は、諦めたように薄ら笑いをこぼす。それに対して絢瀬は、

「扇谷天征、これでもう手を引け。これ以上、僕の友達や周囲の人間には手を出すな。……もし、これでもまだ手を出そうとしてくるなら、僕はアンタを殺さなくちゃならない。当然、一宮玲佳さんに関わろうとしてもだ。…………これ以上何もしないって言うなら、僕たちはこのまま扇谷邸ここを立ち去ってやる。だからもう大人しく───」

 絢瀬の言葉は、ここで扇谷の笑いに遮られた。

「───アッハッハッハ! ……いやぁ、残念。悪いけどそいつは無理な相談やわ。傾国の少女はそう簡単に諦めてええもんでもあらへんし、ここまで組員をいいようにされて会長のオレが黙ってるわけにもいかん」

「……そうか」

 絢瀬は、扇谷に対する最後の慈悲じひをも諦めて、

「なら───これで終わりだ」

 絢瀬は足を振り上げた。扇谷の頭に向かって、強く振り下ろすために。もう扇谷がどんな行動アクションを起こしても、確実に意識を刈り取れると踏んで。

 ブン! と風を切りながら、絢瀬の蹴りは扇谷の頭へと迫った。絢瀬は、勝ったと思った。

 けれどその瞬間、扇谷は諦めるでもなく、避けようとするのでもなく、再び()()()をスーツから取り出した。絢瀬は、自分もろとも巻き込んで自爆しようとしているのではないかと警戒した。だが違った。扇谷は、絢瀬の後方へと手榴弾を放り投げた。

 これは、絢瀬を巻き込もうと狙ったものではない。また、案内人ナビゲーターや女の子を狙ったものでもない。

 絢瀬は、息を呑んだ。完全に呼吸が止まった。

 だって、絢瀬の後ろには、両手両足を縛られて動くことが出来ない浅倉華火が居るのだから。

「───この野郎ッ‼」

 絢瀬は、足を振り下ろしきれなかった。トドメをさせなかった。

 だって、今にも後方へと駆け出さなければ、浅倉華火は手榴弾によって命を落としてしまう。

「く───ッ‼」

 時間が足りなかった。絢瀬には、案内人ナビゲーターのような速度はない。離れたところに転がる華火を拾い上げ、手榴弾から離れる時間なんてものは存在しない。

「────────────!」

 華火が、助けようと近づく絢瀬に対して何かを言ったような気がした。だが、絢瀬にはそれを聞き取る余裕もなかった。

 華火に覆いかぶさるように、爆発の盾になるように、絢瀬は、華火をそっと上から抱きしめた。


 そうして──────、絢瀬の世界から音が消えた。

 絢瀬の後方、ほんの数十センチのところで爆発は起こった。爆発は絢瀬を容易たやすく飲み込み、爆炎で上から赤く塗りつぶした。

「く、っく……、ハハ、……ハッ、───アーーーハハハハハハハッ‼」

 その景色を見て、扇谷天征はどこまでも汚く笑った。助けに走った絢瀬を嘲笑うようにして。

「───き、貴様ッ!」

 案内人ナビゲーターは扇谷へと飛び掛かった、逆手持ちしたクナイを扇谷の顔へと振りかぶる。

 案内人ナビゲーターも先ほどの爆発で酷い負傷のはずだ。身体を動かす度に、そこかしこから血が噴き出ているはずだ。それでも、案内人ナビゲーターは止まらずに身体を動かした、思わず動き出してしまった。扇谷天征を、今この手で殺さなければならない、そう考えて。

「───ッ!」

 しかし、クナイはあと一歩のところで防がれてしまう。扇谷はスーツから短刀を取り出して、案内人ナビゲーターの一閃を受け流すようにして防いだ。続く攻撃も受け止められ、鍔迫り合いになる。

「……まあ、今日はこの辺にしておくわ。負傷しとるとはいえ、お前、強すぎるもん。案内人ナビゲーターと一対一はいくら俺でも分が悪い。組員も壊滅しかけとるし、これ以上続けても無駄に損耗そんもうするだけや。だから、また日を改めよう。そっちの方が───お互い都合もええやろ?」

 その提案を受けて、案内人ナビゲーターはそっと後ろを見る。

 炎と煙が立ち昇っていて、そこからでは絢瀬の安否は分からない。けれど、少なくとも大けがを負っているはずだ。今すぐにでも、絢瀬を病院へ運び込まなければならない。

「……、」

 悔しいが、扇谷の言う通りだ。ここで案内人ナビゲーターが扇谷と戦闘を続けても、ただでさえ少ない絢瀬の生存確率がどんどん低下していくだけだ。もし、これが原因で絢瀬が命を落とせば、きっと『傾国の少女(あのひと)』が心を痛める結末になってしまう。

 ()()()()()()()案内人ナビゲーターはクナイを仕舞って、扇谷から飛び退いた。

 すると、扇谷は笑って、手をぶらぶらと振りながら背を向けた。

「撤収や、一度扇谷邸(ここ)は捨てて別荘に移るぞ」

 扇谷は、その辺に転がっているスーツの男からトランシーバーを抜き取って、残った組員への指示を飛ばした。ほどなくして、屋敷から数人の部下と思わしき人物たちが姿を見せる。

 部下はすぐに車を用意して、そのまま扇谷のことを招き入れた。

 扇谷は車に乗り込み、窓を開けて、

「そんじゃ、今回のところはお疲れ様や。案内人ナビゲーターくん、今日は会えて嬉しかったで。是非、また遊ぼうや。今度は傾国の少女も交えてやけど!」

「……、」

「それじゃ案内人ナビゲーターくん、また今度!」

 満足したのか、扇谷は車の窓のスイッチを押した。そして、最後に一言、

「───それと、世奈ちゃんもな」

 そう言い残し、窓は完全に閉まりきった。

 エンジンがかかる音がして、車は数台を引き連れて敷地の奥へ走り去った。

 表の入り口は爆破して通れなくなっているため、裏手の出入り口に向かったのだろう。


「……、」

 案内人ナビゲーターが扇谷が立ち去るのを確認していると、ポツポツと雨が降って来た。火傷の傷に染みるが、今はあくまで絢瀬が最優先だ。早く回収して、無事を確認せなばならない。

 案内人ナビゲーターは絢瀬の元へ向かおうと、後ろへ振り返った。そして──────。

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