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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第三章 『扇谷会』
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隠し玉

「は? どういうことじゃ、もういっぺん言ってみい」

『も、申し訳ございません。我々の力が及ばず、浅倉華火を取り逃がしました!』

 扇谷邸のとある一室で、扇谷天征(てんせい)はトランシーバーでその報告を受けていた。

「ふざけとんのか? 何をどうやったら、両手両足縛った女に逃げられんねん!」

『それが、侵入者が現れまして……』

「侵入者? 絢瀬世奈がやって来たって報告なら受けとるが、奴はまだ屋敷の前で暴れとるぞ」

 扇谷天征が部屋の窓を覗くと、庭園で絢瀬世奈と組員が戦っているのが見える。

『いえ、絢瀬世奈ではありません。おそらく……ですが、浅倉華火を連れ去ったのは案内人ナビゲーターかと思われます』

「チ───ッ。なんで今になってそいつが出てくんねん。ほんとに本物なんか?」

『クナイと見られる物を使用していたので、可能性は限りなく高いかと……』

「……絢瀬世奈とは別口か?」

『いえ、絢瀬世奈の侵入に合わせて現れました。共謀きょうぼうしての行動でしょう』

「その二人は敵対関係にあるんやなかったか?」

『すみません……、理由は分かりませんが、今は協力関係を結んでいるようです』

「ハァッ……、もうええわ」

 イヤホンを耳から引き抜いて、扇谷はトランシーバーを床にぶん投げる。すると、

「会長、どうされますか?」

 扇谷の横に立っていた男、おそらくは扇谷の部下が話しかけてきた。

「やったら、()()を持ってこい。効くかは分からんけど揺さぶりを掛けるくらいは出来るやろ」

「───了解しました」

 部下は、何かを取りに走り出した。その背中を見て扇谷は、

「よっしゃ。そろそろオレも動くとするか」

 机の引き出しからいくつかのアイテムを取り出して、スーツの裏側へと忍ばせていく。

「いやあ、こんなんで帰ってもらっちゃ楽しくないやろ。こっちはもてなす準備が出来とるんやから、精々楽しんでってもらわんとな」

 準備を終えて立ち上がり、扇谷は窓の外をちらりと覗いた。視界の中心には今も戦う絢瀬世奈がいる。

「ほほーう。───なかなかええやんけ、絢瀬世奈。いいねえ、お楽しみはこれからや」

 そして扇谷は、不気味な笑みをこぼして部屋を出た。

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