隠し玉
「は? どういうことじゃ、もういっぺん言ってみい」
『も、申し訳ございません。我々の力が及ばず、浅倉華火を取り逃がしました!』
扇谷邸のとある一室で、扇谷天征はトランシーバーでその報告を受けていた。
「ふざけとんのか? 何をどうやったら、両手両足縛った女に逃げられんねん!」
『それが、侵入者が現れまして……』
「侵入者? 絢瀬世奈がやって来たって報告なら受けとるが、奴はまだ屋敷の前で暴れとるぞ」
扇谷天征が部屋の窓を覗くと、庭園で絢瀬世奈と組員が戦っているのが見える。
『いえ、絢瀬世奈ではありません。おそらく……ですが、浅倉華火を連れ去ったのは案内人かと思われます』
「チ───ッ。なんで今になってそいつが出てくんねん。ほんとに本物なんか?」
『クナイと見られる物を使用していたので、可能性は限りなく高いかと……』
「……絢瀬世奈とは別口か?」
『いえ、絢瀬世奈の侵入に合わせて現れました。共謀しての行動でしょう』
「その二人は敵対関係にあるんやなかったか?」
『すみません……、理由は分かりませんが、今は協力関係を結んでいるようです』
「ハァッ……、もうええわ」
イヤホンを耳から引き抜いて、扇谷はトランシーバーを床にぶん投げる。すると、
「会長、どうされますか?」
扇谷の横に立っていた男、おそらくは扇谷の部下が話しかけてきた。
「やったら、アレを持ってこい。効くかは分からんけど揺さぶりを掛けるくらいは出来るやろ」
「───了解しました」
部下は、何かを取りに走り出した。その背中を見て扇谷は、
「よっしゃ。そろそろオレも動くとするか」
机の引き出しからいくつかのアイテムを取り出して、スーツの裏側へと忍ばせていく。
「いやあ、こんなんで帰ってもらっちゃ楽しくないやろ。こっちはもてなす準備が出来とるんやから、精々楽しんでってもらわんとな」
準備を終えて立ち上がり、扇谷は窓の外をちらりと覗いた。視界の中心には今も戦う絢瀬世奈がいる。
「ほほーう。───なかなかええやんけ、絢瀬世奈。いいねえ、お楽しみはこれからや」
そして扇谷は、不気味な笑みをこぼして部屋を出た。




