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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第三章 『扇谷会』
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『扇谷会』

 扇谷おうぎやてい、扇谷会が有する大きな屋敷は、翔麗しょうれい高校から二十分ほどで見えてきた。

 屋敷の入り口はおごそかな雰囲気で、さっき見た代紋だいもんが刷られた提灯ちょうちんが両サイドにぶら下がっている。隣には大きく扇谷会と書かれた組看板が掲げられている。

「あれが、扇谷会の……」

 近くの裏道からこっそりと覗くように、絢瀬はその外観を眺めていた。隣には案内人ナビゲーターもいる。

「にしても……、本当に大きいな、中にいくつも屋敷が建ってるし」

 見えるだけでも敷地内には大きな屋敷が五つほどある。おそらく、敷地のつぼ数は全体でおよそ八百坪。やろうと思えば二十軒くらいの家は余裕で建てられそうな広さである。

 敷地は、木材が並べて貼られた板塀いたべいに囲われており、二、三メートルの高さで中を覆い隠してしまっている。更に、その上には等間隔でカメラが設置されていて、絶えず不審者がいないか監視されている。

「さて、どう動く。華火がどこに捕まっているか分からない以上、迂闊うかつには踏み込めないし…」

 絢瀬が方針を立てようとすると、

「いや、既にアサクラの居場所は大体予測がついている。俺はこれまでにも何度か、扇谷会について調べたことがある。屋敷の大まかな構造も頭に入ってる。一番奥、他の屋敷よりも少し背の高いあの建物。───見えるか? おそらく、アサクラはあそこに居る」

 案内人ナビゲーターが指をさす方に目を向けると、確かに一つだけ目立つ建物がある。屋敷の中でも他の建物に守るように囲われていて、分かりやすく最重要施設です、という風格を放った建物が。

「アサクラの救出に関しては俺が責任を持って全て受け持つ。お前はあくまで陽動だ、その場所についてとかごちゃごちゃしたことは考えなくていい。単純に、激情に駆られた振りをして中で好き勝手に暴れ回れ。そうしてくれれば、俺も潜入しやすくなる」

「……分かった。もし、華火に関して脅されたりしたときはどうする?」

「怒りすぎて話が通じない奴の振りでもしとけ。アイツらだってアサクラにすぐ手を出したりは出来ない。それに、少しの時間さえあれば俺はアサクラを連れ出せる」

「じゃあ要は、僕は目に付いた奴を全員まとめてぶっ飛ばしていけばいい。そういうことだな」

「そうだ、それでいい。変に話しかけてくる奴がいても、耳を貸さずに倒してしまえ。それだけで十分奴らからしたら脅威だ」

「救出が完了したら?」

「脱出途中にお前にも一声かける。そしてらお前も引き上げていい。だから少なくともそれまでは死なずに暴れてろ」

「了解」

 作戦は纏まった。絢瀬が暴れたと同時に案内人ナビゲーターが一番奥の屋敷に潜入、絢瀬に扇谷会の注意が集まっている隙に華火を救出、そして脱出、単純な流れだ。

「じゃあ、僕はあそこの分かりやすい入り口から入っていくよ。ムカついてるのは本当だし、入ったら中に居るやつ全員まとめてぶっ飛ばしてやる」

「俺はそれが始まったら直接屋敷に飛び移って中に潜入する。だからまあ、精々頑張ってくれよなアヤセ。それじゃ───」

 そう言って、案内人ナビゲーターは屋敷に近い外壁の方へと飛び去っていった。後は、絢瀬が入り口から突入するだけで作戦は始まる。気は抜けない。

 仮にも、中に居るのは暴力団の構成員だ。絢瀬の身柄が目的とは言え、躊躇なく攻撃もしてくるだろう。当然、これまでに襲ってきた連中よりも強力な武器も携帯しているはずだ。一つの気の緩みが命取りになる。

「すぅ───っ、」

 そこで、絢瀬は一度深呼吸をして呼吸を整えた。命の保証もない、危険な領域に足を踏み入れるために、頭の中でスイッチを入れる。そして、扉の前に立つ。

「さあて、───勝負だ扇谷会」

 絢瀬は、足を踏み入れる。さあ、奪われた大切な友人をこの非道な組織から取り戻せ。

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