裏の世界
翔麗高校の向かいの敷地、そこには背の高いビルがいくつも立ち並んでいる。そのビルの一角、FIX窓に覆われた高層階の一室に、扇谷天征は立っていた。その部屋には何も物が置かれておらず、どことなく無機質で、まるで窓から街の景色を眺めるためだけに設けられたスペースのようだ。
長めの黒い前髪を中央で分けているその男は、黒地に金色が散りばめられたシャツの上に黒いスーツを纏っている。手には、オペラグラスのように柄が付いた双眼鏡が握られている。
「……、」
視線の先は、翔麗高校の屋上。そこに立っている少年である。
「───天征さん‼」
すると扇谷の後ろから、彼を呼ぶ声があった。
「……うっさいのう、もっと静かに呼べんのかい」
呆れながら扇谷が振り返ると、彼と同じようなシャツに黒いスーツの男が、丁度汗をかきながら走ってやって来たところだった。
「それで……、分かったんか? あの高校生の素性は」
あの高校生、とは、扇谷が今現在双眼鏡で監視していた少年のことだ。
「は、はい。少年の名前は、絢瀬世奈、現在十五歳。三丁目の住宅街の一軒家で一人暮らし中、両親は海外に滞在。先週の入学式で翔麗高校に入学。そして一年四組に在籍、とのことで……」
「あほ、そっちじゃないわ。あの例の傾国の少女と、どう関わりがあるのかって聞いとんじゃ」
扇谷は部下と思わしき男の胸をど突きながら言う。
「……っ、失礼しました! 絢瀬世奈が例の少女と直接関わりを持ったのはつい先週の火曜日、入学式の朝のことです。そこで一度会話があったようなのですが、基本的にはそれきりで仲良く会話をする、といった関係性ではないようです」
「その会話内容は?」
「ローションを用いた部活動に関するもの、と報告されています」
(……?)
「ほう、まあええわ。……それ以外には、二人の会話はあったんか?」
「その放課後、絢瀬世奈と例の案内人での戦闘があり、それをあの少女が治めています」
「なに……?」
案内人、扇谷も知るその名前が出たことで、微かに扇谷からは驚きが伺える。
「あの案内人が出てきたんか?」
「はい。そこでの会話内容は明らかになっていませんが、少年に対して案内人側からの接触があったと」
(……案内人からの接触、それもただの高校生に?)
「いや、重要なのはそっちじゃないな。あの傾国の少女がそれを止めたって方か」
暫し、扇谷は考えて、
「今の屋上でのやり取りもそうやけど、その話が本当なら。──ハッ、使えんで。あの高校生」
ニヤリと、企むような笑みを浮かべて、
「案内人を除けば、あの傾国の少女が唯一反応を示す男か。……おい、アイツのこと隅から隅まで調べ上げろ。その交友関係も含めて全部じゃ」
「はい、了解しました!」
「少なくとも明日、朝までには調べ上げろよ。せっかくの機会を、他の連中に持っていかれちゃかなわんからな」
扇谷天征、彼は、絢瀬がまだ知らない裏の世界の住人である。




