孤独な少女と残酷な世界
玲佳の言葉、それを聞いていたのは、実は絢瀬だけではなかった。浅倉華火と平良修平、彼らも屋上の扉の前でその言葉を聞いていた。
二人は絢瀬の草むしりが終わるのを教室で待っていた。だが、飲み物を買いに自動販売機へと行った際に絢瀬と入れ違い、その隙に絢瀬の鞄が机からなくなったことに気が付き、絢瀬を探していた。その途中で、絢瀬に階段で吹き飛ばされた男たちを発見し、絢瀬の向かった先を聞き出すことに成功。屋上で玲佳と会話している絢瀬を見つけて、こっそり話を聞いていたのだ。玲佳が屋上を飛び出した瞬間は、扉の裏側に隠れていたため、気付かれることもなかった。
二人は、一人残された絢瀬に話しかけようと屋上へと出るが、どう声をかけるべきか迷って言葉が出なかった。二人が出てきても驚く様子のない絢瀬は、この二人がこっそり聞いていたことに気が付いていたのかもしれない。
けれど、絢瀬は二人のことなんて気にかけず、一人わなわなと震えていた。
「……っ、ふざけるな‼」
ドンッ、と屋上の柵を叩きながら放たれた言葉には、強い怒りがこもっている。
「絢瀬……」
十年以上の付き合いにもなる華火ですら見たことない程の絢瀬の激情。華火にも平良にも、その理由は十分に理解出来ていた。だからこそ、絢瀬がどれだけの憤りを胸に抱えているのかが測れた。
「彼女は、……どこまで優しいんだろうな。空き地で僕と戦う案内人を止めたときだってそうだ。彼女が本当に人と、僕と関わりたくないのなら、あのとき戦いを止める必要だってなかったんだ。人が殺されるところを見たくないにしても、僕を行動不能にする程度に抑えておくだけで良かった。でもそれすらしないで、彼女は僕が案内人と戦わないように止めてみせた」
「……やっぱり、あの子は……」
「───ああ、僕らを守ろうとしてるんだろうさ」
一宮玲佳が特定の誰かと友人になれば、特別な関係になれば、一体何が起きる? そして、それを彼女の周囲の人間はどう思う?
「僕ら、いや誰であろうと、特定の誰かが彼女と仲良くなればなるほど、世界はそれを認めようとしない。きっと、今の子供の喧嘩で済んでいる範疇を優に超えた憎悪が一気にぶつけられる」
間違いなく、これまでのレベルを超えて、暴虐が殺到する。それも一宮玲佳が特別と思う、その誰かに。つまり───、
他者を守るための拒絶、傷つけないための孤独。
「……彼女はずっと、一人ぼっちなんだ」
先ほど絢瀬と話したときのあの声、表情、瞳、それら全てが訴えかけていた。言葉では否定していても、あふれ出てしまうほどの隠し切れない本心が。
「ただ嫌いと言われたのなら僕だって諦められたさ。だけど、ただ距離を遠ざけようとする為に、あんな寂しそうな顔で形だけ拒絶されたって! そんな理由で諦められるか!」
結局のところ、彼女の本心は明白だった。自身が特定の誰かと仲良くなれば、その誰かが傷つく。そんな誰かを見たくないから、そんな誰かを生み出したくなかったから、彼女は殻に閉じこもって一人きりでいた。
ここで引き下がれば、少なくとも絢瀬たちが傷つくようなことは無くなるだろう。それは彼女も望むことだ。しかし、ただ彼女の気遣いをそのままに受け入れて、他者を守るために世界から切り離された少女をこのまま見捨てるのか? きっと、そんなのは間違っている。そんなことのために、彼女が孤独を強いられる世界は絶対に間違っている。
「きっと彼女は、ほんのちょびっとでも自分のせいで人が傷つくのが嫌なんだろう。だからこれは、彼女を傷つけることにもなる……、だけど、だけどだ!」
目の前には、人を思いやれる優しい少女がいて、そんな少女を切り離して孤独を強いる世界があった。だから、
「一宮玲佳が一人ぼっちでなきゃならない世界なんて認めない! 彼女を取り巻く環境全部! 僕がこの手でぶっ壊してやる‼」




