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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第二章 『案内人』
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恋のソムリエ ~君の深層心理テイスティングしちゃうよ~

 結局、その日はそのまま話しかけることも出来ずに下校時刻を迎えてしまった。

 そのため、絢瀬、華火、平良の三人は、今後の計画を練るべくファミレスで作戦会議を行うことに。

「───ジャッジャーン!」

 おもむろに、絢瀬が一冊の本を見せてきた。学校を出る前に寄り道をしてくると言って姿を消していたのだが、図書室で本でも借りてきたのだろうか。

「なんだよそれ? えっと、なになに……」

 平良が覗き込み、本のタイトルを読み上げる。

「『恋のソムリエ ~君の深層心理テイスティングしちゃうよ~ 恋人こいびと百万人確定の決定本!』」

「「……」」

 どうやら恋愛指南書(しなんしょ)らしい。表紙には、胡散臭そうな料理上手系芸能人が決め顔でポーズを取っている。これでもベストセラー本らしい。そして、恋愛指南書としては異常なくらいの分厚さを誇っている、まるで辞典だ。

「もうやめとけよ。どうせろくな事にならないって」

 先ほど失敗の影響をもろに受けた平良は止めてくるが、

「いいや、これは大丈夫! さっきのがダメだったのは華火が変な案出しちゃったってだけだから! それに、この本を書いた美食びしょく料理りょうり太郎たろう先生は恋人が七人もいてニュースになるくらい凄いんだよ!」

「いやそれ不倫をスクープされてるだけだ! 残念だが、料理太郎は恋愛において見本にしちゃいけないタイプの人種だ! 技術的には優れているのかもしれないけど!」

 必死な平良の制止も虚しく、技術だけで見れば恋愛経験のない華火と平良よりは参考になるだろうということで、一度三人で本を読むことにした。


「───フッ、フフフ、……ハーハッハッハ!」

「えと、なに? 気味が悪いんだけど」

 ひとしきり読み終えたところで、絢瀬が奇怪な笑い声を上げた。隣に座る華火が若干引いている。

「なんだ、───答えはここにあったんじゃないか! 料理太郎、彼は使える技術を授けてくれた!」

 恋愛指南書に書かれていた技術は、恋愛ビギナーの絢瀬にとって目から鱗の一品だったらしい。すっかり恋のバイブル扱いだ。感動しすぎてテンションがおかしくなっている。

「んんー、確かに使えそうなことは書いてあるが……、相手があの一宮玲佳だしな……。一般的な技術があんまり通用するとは思えないが……」

「それでも、どうせ行き詰まっていたところだったんだ。だったらこんな本に書いてる技術だって馬鹿にしてられない。これだけ沢山の技術が書かれてるんだ、一つ一つ試していくしかない」

「上手くいくのかしらねえ?」

「さあ……」

 どこか不安げな二人だが、これでやることは決まった。とにかく料理太郎の技術を試す!

「やってやるさ、……やってやる‼」

 恋愛指南書を手にした絢瀬の戦いが始まった───。




 四月九日 木曜日

 料理太郎はしるした。『ソムリエに求められる物は慧眼けいがんだ。完成された料理をテイスティングして、料理を際立たせている隠し味を見抜き評価しなければならないからね』と。

(彼女のいいところを見つけだして言葉にして伝える。やることは簡単! 褒めるだけだ!)

「一宮さん! 僕、ずっと思っていたことがあるんだ……」

 話しかけられた玲佳は、絢瀬の方を見てすらいない。だが、バイブルを手にした絢瀬は止まらない。

「一宮さんっていい匂いだよね!」

「???」

 流石の玲佳も疑問符を浮かべてピキリと身体を硬直させたが、クラス中の女子が即座に絢瀬を粉々に粉砕したため問題はなかった。

 相手のいいところを褒める作戦───他人には触れてほしくないところを褒めたため、失敗。



 四月十日 金曜日

 料理太郎は記した。『ジビエは獣特有の臭みがあるが、ワインやハーブを用いることで風味として活かすことが出来る』と。

(一見、弱点に見えるものでも、見方を変えれば魅力的に映すことが出来る!)

 絢瀬は玲佳の一つ前の席に座り、わざとらしく独り言を呟いた。

「はあ、焼き魚を綺麗に食べるの、……苦手だなぁ」

「???」

 弱みを見せて心の距離を縮めよう作戦───駄目なところを呟いただけだったため、失敗。



 四月十三日 月曜日

 料理太郎は記した。『雪山で遭難している最中にラーメンを食べたら多分めっちゃ美味しい』と。

(極限状態に目にしたものは、魅力的に映る!)

「なんで俺がこんな真似を……ッ!」

 リーゼントでグラサンを掛けて不良に扮した平良が玲佳に絡み、絢瀬が助けるという計画。

「おい、そこの姉ちゃん。この俺と一杯お茶しな───」

 言葉の途中で、恋敵ライバルたちによって平良は撃墜された。

 ピンチに駆けつける王子様作戦───、不良役が粉々になったため、失敗。



 四月十四日 火曜日

 料理太郎はこう記した、『素材と通じ合うには、まず触れ合うことだ。接触は、理解において最も効果的な事項ファクターさ』と。

(いきなり女の子の身体を触ったりしたら絶対に駄目だろ!)

 ボディタッチで親密に作戦───絢瀬に最低限の常識があったため、失敗。



 四月十五日 水曜日

 料理太郎はこう記した、『白ご飯はカレーうどんを見たときに、うどんに対して嫉妬心を燃やすだろう』と。

(僕が華火と仲良くしているところを見たら、寂しくなって話しかけてくれるかも!)

「いやあ、華火。今日はまた一段とかわい───」

「な── ぁ──っぬぐあぁッ‼」

 突然褒められて恥ずかしくなったのか、思わず華火は絢瀬の顔面を殴り飛ばしていた。

 仲のいい女の子なんて他にもいますけど? 作戦───他の女の子が暴走したため、失敗。


 絢瀬は、料理太郎のSNSアカウントに暴言を送っていた。

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