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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第二章 『案内人』
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気になるあの子は何が好き?

 しょうれい高校に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 昼休みの中庭の片隅、その三人はベンチに座って話していた。

「ぜんっぜんダメじゃないか……」

 うなれながらおにぎりを食べている絢瀬とそれを見守る華火と平良たいら。いつもの三人である。華火と平良もお弁当なりサンドイッチを食べている。

「休み時間にも話しかけてみたのに反応はなし。反応があったのは、一宮さんと喋っただけでブチ切れて攻撃してくる野蛮人だけ。──ふざけるな、こんな青春があっていいのか?」

「やったな絢瀬、モテモテじゃないか」

 サンドイッチを咥えてる平良は興味なさげである。朝に顔を合わせたときも、手にぐるぐる巻きの包帯について触れてすらこなかったくらいだ。

「まあさ、上履きに画鋲仕込んだり机に悪口書いたりは映画とかでも見たことあるよ? でも上履きに爆薬仕込んだり机に血で魔法陣書くみたいなのは違くないかな? 殺意のレベルが一、二段階上な気がするんだ」

「そういえばラブレターも貰ってたじゃない。男の子なら嬉しいでしょ、やったわね」

「違う、あれは脅迫状だ」

 友人たちはどこか他人事で絢瀬のことなんか楽観視している。

「う~ん、やっぱりこっちから話しかけるんじゃ意味がない気がする。一宮さん誰に対してもあんな調子だし。あの人の興味を引けるようなことでもしないと……」

「興味ねえ……? あの人、そもそも誰とも喋んないから趣味とかなんにも分からねえんだよな。何か関心を示したものでもあればいいんだけど」

 絢瀬と平良が頭を悩ませていると、

「あっ‼」

 心当たりがあるのか、華火がバッと立ち上がり二人を見つめた。

「「?」」

 そして二人は、こういう華火の思い付きが大抵ろくでもないことだというのを理解していた。




 一宮玲佳は昼食を終えて、理科室や美術室などの特別教室が集められた校舎の廊下を歩いていた。

 当然、彼女は一人きりで隣には誰もいない。校舎を意味もなくぶらぶらと歩いている。一応、玲佳のことが気になって後ろを付けている人間なら何人か居るようだが……。

 この校舎は特別教室が集まっているだけあって、休み時間は人の気配が極端に少ない。居るのは精々、美術部などの部活動に熱心な生徒か授業の準備に勤しむ教科担当くらいだ。だが、この人気ひとけのなさが常に人からの注目を浴びる彼女にとっては心地いいのかもしれない。

 入学したてで、まだ未知だらけの校舎をぐるりと一周する。表情や所作は全体的に大人しいが、内心では新しい場所を探検するわくわくを感じていたりするのだろうか。

 ある程度時間が経過して、そろそろ教室へ戻ろうかと玲佳がきびすを返す。

 しばらく歩いて自身の教室までたどり着くと、なにやら騒がしい。また、一宮玲佳に関してのトラブルでも起きているのか。あの、やけに絡んでくる頑丈な絢瀬しょうねんが襲われてでもいるのか。表情にこそ出さないが、ドアに掛けた彼女の手がズン、と重くなる。

 そして、前の扉を開いて教室へと入ってみると、後ろの方に丸く人だかりが出来ていた。


「れでぃ──────、………ふぁいっ‼」

 その円の中心では、

 掛け声に合わせて身体を激しくぶつけ合う、上裸の絢瀬と平良の姿があった。

 何かと思えば、どうやら二人は相撲をしているらしい。相撲なら『はっけよい、のこった』ではないか? 思わずそう考える玲佳だが、表情はぎりぎりのところで保たれる。

『『『うおおおおおおおおおおお!』』』

 何故か周囲のクラスメイトたちも熱狂している。凄い空間だ。昨日はバイオレンスな鬼ごっこをしていたというのに、一体何があったのだろう。

 玲佳がよく見ると、輪の中の一人がノートを持っている。そこには絢瀬と平良の名前が書かれ、それに対応する赤と青のシールがぺたぺたと貼られている。また一方では、一か所の机にお弁当のおかずや惣菜パンがまとめて置いてある。おそらく、絢瀬と平良が突如として相撲を始めたのを見たクラスメイトが、どっちが勝つかにお昼ご飯を賭けて盛り上がっているのだろう。仲が良いのか悪いのかまったく分からない。

 その中心にいる絢瀬は平良と押し合いをしながらも、バレないように玲佳をチラ見している。そして、

「ね、ねえ、華火。これ、本当に一宮さん興味持ってくれているの? 昨日の朝話しかけてきたのはあくまで、僕が四つん這いでローション撒いてる変人に見えたからじゃないの?」

 絢瀬が近くで審判をしている華火に小声で話しかける。

「いいや、大丈夫! 昨日のアレはあの子が唯一感情らしい感情を見せたところだから。きっとあの子は相撲が好きなのよ! だから、相撲に熱心なところを見せれば興味を持ってくれるはず!」

 華火が大きな声で返事をするからほとんど意味はないが。

「おい、どうして俺までこんなことやらされてるんだ! アレは絶対に相撲が好きとかそういう類の反応ではなかっただろ! 引かれてるだけだろうが!」

 平良は怒っているが、やってくれるあたりノリはいい。

 だが、そうこうしている内に、玲佳は教室後方で繰り広げられる相撲をスルーしてさっさと自分の席に戻ってしまった。

「くそお! やっぱり駄目じゃないか……」

 華火の案は残念ながら効果無し。なんならもっと引かれてしまったのではという気もする。意味がないと分かるや否や、絢瀬は平良を壁まですっ飛ばして溜息をつく。

 平良が壁に激突して凄い声を上げたような気がしたが、意外と丈夫だから問題はない。平良に賭けていたために絶望している連中もほっといていいだろう。

 恋愛ビギナーの絢瀬としては、何がダメだったのかいまいち分からない。どうするのが正解だったのか、そもそも正解なんてあったのか。


 自分からは行かずに相手の気を引く作戦───相手に引かれてしまったため、失敗。

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