空き地にて
カァーカァーとカラスが鳴いている。昼前には学校を出たというのに、結局鬼ごっこは夕方まで続いた。既に日は傾いて空は夕暮れとなっている。
「はあ、───つっかれた」
住宅街の小さな空き地、乱雑に置かれた土管の裏で絢瀬は一人息を整えていた。
「華火も平良も、狙いが僕に集中してるからって速攻見捨てやがって……」
最初は三人で仲良く追われていたものの、二人は早い段階で絢瀬を囮にすれば簡単に逃げられると気付き、姿をくらませていた。
「次会ったら嫌味言ってやる……」
薄情な友人を小さくぼやいて、絢瀬は一度土管の裏から小さく顔を出し、周囲に鬼がいないかを確かめる。
「……、でも、流石にもう撒けたかな?」
警戒する素振りで土管の裏を出る。
「ったく、ちょっと話しかけただけでこの仕打ち。いちいち相手にしてちゃ、いくら時間があっても足りないよ」
追ってきた連中はクラスのやつらだけではなかった。実際に話したり話しかけたところを目撃していないのも含めて大勢だ。改めて、本当に一宮玲佳の影響力を実感する。
「この分だと、今夜家まで襲撃してくる連中もいるかもなぁ」
帰りにホームセンタ―でドアロックでも買っておこう、そう考えて空き地の中から出ようとした、そのとき、
(───ッ!)
絢瀬の動きがピタリと止まった。
(な、んだ、この気配。……僕の後ろに、誰かが居る? ……どういうことだ。空き地に入るときに人が居ないかは確かめた。唯一隠れられそうな土管にもさっきまで僕が居たんだ。それなのに、人がいるわけが……!)
絢瀬の額に、冷や汗が流れる。
絢瀬はゆっくりと振り返り、気配の元を探す。が、あるのはさっきまで居た土管と一本の桜の木だけ。やっぱり人が隠れられるスペースなんて───、
「───ッ⁉」
桜の花びらが舞う中で、地面に伸びる一つの影を見た。
空き地に一本しかない桜の木、細い細い枝の先に、異物としか思えない大きな黒い影が乗っていた。
目線を上げて、桜の木の先を追っていくと、確かにそこには人が居た。華奢な身体に肌の露出を防ぐ漆黒の装い。顔には忍び覆面があり揺れる髪と鋭い眼光だけが顔を出している。
鬼ごっこをしていた鬼たちとはまた別ベクトルの異なる脅威。
「……初めましてだな、絢瀬世奈」
「案内人、そう名乗れば……この状況を理解してくれるか?」
そうして、黒い影は絢瀬世奈の前に降り立った。




