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傾国の少女と嫌われた少年  作者: 末乃
第二章 『案内人』
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後ろの席のあの子にアプローチ

 お昼の少し前、十一時頃か。入学初日の全過程は終了し、生徒たちは下校時刻と相成あいなった。

(さあて、どうする……)

 半田が最後の挨拶を終えて、生徒たちは帰りの準備を始めている。当然、絢瀬の後ろにいる一宮玲佳もだ。今は、配布された資料を鞄に詰めているが、しまい終えたらすぐに帰ってしまうだろう。話しかけるなら機会チャンスはここしかない。

 周りの何人かも話しかける機会チャンスを伺っているのか、チラチラと彼女に目を向けている。

「ね、絢瀬。どうする、話しかけてみるの?」

 前の席から、絢瀬にしか聞こえないくらいの声量で華火が話しかけてきた。

「まあ、そうしたいんだけど……」

「だけど?」

「き、緊張する……」

「……そこかよ」

 田辺くんみたいになるのを気にしているわけじゃないのかよ、と華火はジトーっとした目で絢瀬を見つめる。

「でもほら、早くしないと周りに先越されちゃうかもよー?」

「う、うーん……」

(基本なにに対してもものじなんてしないくせに、なにをグズグズしてんだか……)

 華火が呆れていると、平良もこちらに近寄ってきた。

「おい、彼女、もう荷物整理終わったみたいだぞ。帰っちまうから、さっさと当たって砕けてこい」

「え、ちょっと───!」

 止める間もなく、平良は絢瀬の肩を掴んで無理やり後ろを向かせて背中を押してしまった。すると当然、少女は目の前にいるわけで、当然のように二人の目があった。

 もうこうなったらヤケだ。ここで変にたじろいでも格好がつかない。

 一瞬ばれない程度に息を吸って呼吸を整え、絢瀬は右手を挙げて声をかけた。

「コホン、ど、どうも一宮さん。キチンと話すのは今朝の曲がり角ぶりだね。まさか同じクラスなんて思わなかったよ。いやあ、どうぞ一年間よろしく───」

 完全に絢瀬が話している最中だったが、少女はすぐに目を逸らして席を離れて行ってしまった。フルシカトである。

「───お願い、しま、─す」

 出かかった言葉は止めることが出来ず、その場にむなしくあふれ出た。だんだん声が小さくなっていくのが弱々しくて見てられない。

「あちゃー……」

「道のりは長いな……」

 後ろで二人が何かを言っているが、一方で絢瀬は手を挙げたまま固まっている。

「ぐ……。ま、まあ、最初はこんなものだろう。……うん、大丈夫。トライアンドエラーだ、トライアンドエラー」

 そのまま自分を納得させるかのように、絢瀬は一人ブツブツと言い始めてしまった。彼女からしてみれば、絢瀬は変なことをしていた変わり者で、関わりたくないと思っていても不思議ではないのだが。ショックが大きすぎて、そこまで気が回らない。

「あまり気にするな。散々こうやって声をかけられてきたんだろうし、いちいち構ってられないんだろ。既に一度は話せてるんだし、周りよりはリード出来てると思っとけ」

 肩に手を置きながらの平良のフォロー。自分で話しかけさせたくせに都合がいい。

「まあ、そうだよね……」

 まだまだ高校生活は始まったばかり、少なくとも一年は同じクラスで過ごすのだ。今から焦る必要はない。初回の失敗くらいで挫けていられないのだ。

「仕方ない、僕たちもそろそろ帰ろうか」

 気持ちを切り替えて絢瀬が鞄に手を伸ばすと、なにやら周りから見られていることに気付く。

「…………、えっとぉ?」

 忘れていたが、絢瀬はあの一宮玲佳に話しかけたのだ。それをクラスの連中、なんなら覗きに来ていた他のクラスの連中までもが目撃している。ならば当然、

『おい、絢瀬! テメエが話しかけたせいで、一宮さん帰っちまったじゃねえか。折角俺たちも話しかけられる機会チャンスだったってのによおー』

 近づきながらかけられた言葉には、もちろん怒気がこもっている。一宮玲佳へのアプローチ、それはすなわち彼女を狙う全員への宣戦布告だ。ようやくそれを思い出した絢瀬と平良は、

「……よし、帰るとするか」

「そうだね。よく考えたら習い事があった気もするし。急いで帰ろう」

 ───二人は、鞄を持って教室から逃げ出した。

「おいちょっと、私置いてってんじゃねえっつの!」

 遅れて華火も教室から飛び出すと、それを合図に数十、いや数百単位の鬼ごっこが幕開けた。

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