ドキドキ!ワクワク!ハラハラ!自己紹介!
「さっ、それじゃあこっからは自己紹介をしてもらうぞー」
無事に入学式を終えて、再びクラスに戻った絢瀬たち。ここからは生徒の自己紹介の時間だ。一宮玲佳にアプローチを試みようとする者、ひとまずは様子見に徹する者、緊張してどこかそわそわしている者。多種多様な思惑が交錯。自己紹介とは学生にとって一つの関門なのである。
絢瀬としては一宮玲佳と仲良くなるのが最大目標なので、他の生徒からの印象は正直どうでもいい。ただどの程度まで彼女に寄り添った自己紹介にするべきか、その塩梅で悩んでいた。
「そうだな……、まあ素直に出席番号順にやってくのが丸いか。───いいか? 浅倉?」
悩んでいると早速、自己紹介が始まるようだった。窓側一番前に座る華火が指名される。
「───あっ、はい。大丈夫です」
クラスの視線が集まっていく中、華火はゆっくりと立ち上がって生徒たちに向き直り口を開いた。
「初めまして、浅倉華火です! 趣味は旅行で、特技はスポーツ全般。皆と仲良くなれるよう頑張るので気軽に話しかけてください! 一年間よろしくお願いします!」
とってもベーシックな自己紹介だった。クラス全体からパチパチと拍手が聞こえてくる。知ってはいたが、華火は一宮玲佳とどうこうなろうという気はないようで、素直にクラスメイトと仲良くなるための自己紹介をしたようだ。このクラスにおいては間違いなく少数派となるが、それでも華火らしい挨拶だと絢瀬は思う。
それを受けて、絢瀬も結局普通の自己紹介をすることにした。変に一宮玲佳の好感度狙いで盛って話をしたとしても、仲良くなってからそれが露呈するのならば意味はない。
華火が席についたので、絢瀬も入れ替わりで立ち上がりクラスへと向き直る。
「どうも、絢瀬世奈です。趣味や特技は特にありませんが、人一倍執着心が強いです、最近発覚しました。仲良くなれるかは分かりませんが、まあよろしくお願いします」
華火のときと違ってまったく拍手が聞こえてこない。それどころか舌打ちやブーイングが薄っすらと。絢瀬が一宮玲佳狙いなことは既にクラスにバレているため、敵対心を向けられているのだろうか。まあ正直、絢瀬的にはこの際どうでもいい。
「……次は、一宮か。それじゃあ頼む」
そう言って、半田が一宮玲佳を指名した。正直、これは絢瀬が気になっているポイントの一つだった。一宮玲佳は他人と関わろうとしない。だが、学校生活ではこのような場面いくらでもあるはずだ。平良ともその話をしたばかりだが、これに一宮玲佳はどう応えるのだろうか。そもそも、中学までは教師にそういった振りをされること自体がなかった可能性もある。馬鹿げた話だが、一宮玲佳に話しかけること=恨みを買うことなのだ。面倒ごとを避けるために、学校側が彼女を空気のように扱っていたなんてことも有り得ない話じゃない。少なからず中年教師の半田は何も考えず指名したようだが。
『………………………………………………。』
数秒の間教室に沈黙が生まれるが、案外すぐに一宮玲佳は立ち上がった。そして、
「……一宮、玲佳です……」
とてもか細い小さな声で、たった一言だけ言って、席についてしまった。
(((((お……、終わった……)))))
たったそれだけ、一言だけであった。
(いやいや、短すぎるでしょ……。名前言っただけじゃん!)
(へえ、これくらいなら答えてくれるのか)
華火と平良も内心突っ込んでいる。それだけ? というのはクラス全員共通の感想だ。
唯一、絢瀬だけは(かっ、可愛い‼)と今も考え続けているが。
そうして、皆が反応に困っていると、今度はなにやら廊下からドタドタと迫る足音が聞こえてきた。
「たぁぁのもおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉう!」
───ドアを力強く開いて現れたのは、再びの紺色袴の侍男・東秀道だ。クラスの視線が乱入者に集中する。
「一宮殿! そなたの自己紹介、しかと聞かせてもらった!」
二年の教室は違う校舎で、そちらもホームルーム中のはずだ。この男、一体どれだけ地獄耳なのか。
「拙者は二年の東秀道! 是非そなたに知っていただきたく、この教室へ参ったああぁぁぁ!」
馬鹿みたいな声量である。
ここまで、ぽかんと口を開けてこれを見ていた半田だが、
「……っ、東! 貴様なにをやってるんだ! 二年も今頃自己紹介なり委員会決めなりやってる最中のはずだろう! こんなところに居ないで戻らんか自分の教室に!」
東の両肩を抑えながら、扉の辺りで押し合いを始める。
「は、半田教師! せっ、拙者はただ、一宮殿にこの東秀道のことを知ってほしくて……」
「それなら、ホームルームの時間外に個人的にやれ! 今この教室では、うちのクラスのホームルーム中だ!」
意外と半田は力があるのか、「一宮殿ぉぉぉ!」という東の叫びを最後に、あの東をあっさりと廊下へ締め出してしまった。
東秀道、彼も想像以上に奇怪な人間をしているようだ。
「ゴホンッ、」
仕切り直しだ。突然の乱入者に困惑したクラス一同だったが、再開してからは割とスムーズに自己紹介が進んだ。
『遠藤だぜっ! 中学ではラグビーをやっていた。自慢のタックルなら誰にも負けないぜ!』
『幸田です。刃物が大好きです。見てよこのカッター、よく切れるんだよぉ……』
『斉藤よ。格闘技を習っていたの、ムカつくやつにはお得意のアッパーカットをお見舞いしてやるわ』
アピールポイントが物騒なものしかない。
『佐藤です。皆と仲良く出来たらいいなって思います』
(こいつ、朝にローション撒いてた変態じゃないか!)
絢瀬の見知った顔もいた。落ちてたローションのボトルは返した方がいいのだろうか……。
そうして、何人かが自己紹介をしていくと、今度は平良の順番となった。
「どうも、平良修平です。趣味はライブで、好きなものはアイドルです。特に最近だと『インフィニット・ラブ』、通称『インラブ』を応援していて───」
なにか始まった。
ここまで触れられていなかったが、実は平良はかなり熱心なアイドルオタクである。中学二年の頃に、華火が口ずさんでいた流行りの曲が耳にこびりつき、つい調べてしまったことで、見事に沼へと引きずり込まれていった。一宮玲佳に興味を示さないのもこれが原因である。
「───特にセンターの明井ミクちゃんが───」
「───でも最近はバラエティーでも活躍していて───」
「───俺は結成二年目から追ってるんだけど───」
長い。むちゃくちゃ長い。自己紹介なのにアイドルのプレゼン紹介と勘違いしているのか。すっかりクラスもドン引きである。ドン引きしていないのなんて、既に散々プレゼンを受けて慣れてしまっている絢瀬と華火くらいだ。
「───、というわけで、一年間よろしく」
ようやく終わった。一宮玲佳の数十倍は話していたんじゃないだろうか。
だが、ここまでを振り返ってみると、意外にも直接的に一宮玲佳へのアプローチをしている者はいない。皆、まだ様子を伺っているのか、自慢げにズレたアピールをするくらいで留まっている。
「はーい、それじゃあ次―」
次は、平良の後ろの席の男の子だ。
『はっ! はい!』
緊張しやすいのだろうか、立ち上がった男の子は僅かに声がうわずっている。
『あっ! あの! 僕、田辺と言います! 趣味はサウナで、忍耐力があるのが強みです!』
それだけ言うと、何故か彼は一宮玲佳の方へと向き直り、
『い、一宮玲佳さん、好きですっ! 僕とつきあってくださ───』
───それは、告白だった。瞬間、田辺の制服は粉々にはじけ飛び、その身体は宙を舞い、爆炎に包まれながら黒板へと射出された。
「「田辺えええええええええええっ!」」
華火と平良が、黒板に激突する田辺を見て悲鳴をあげた。
「なんだなんだ! 田辺くんに一体何が起きた⁉」
「あぢいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ‼」
「忍耐力が強みの田辺くんが、炎でもがき苦しんでるわっ!」
火だるまになって燃え盛る田辺くんに近づく二人。
「ええっとね、田辺くんが告白しようとしたときに、幸田くんがよく切れるカッターで田辺くんの身体を切りつけて、斉藤さんがお得意のアッパーカットをお見舞いし、佐藤くんが火炎瓶を叩きつけて、遠藤くんが自慢のタックルで吹き飛ばしたんだ」
ここで、一部始終をはっきり見ていた絢瀬の解説が入る。
「あの一瞬でか⁉」
「てか、佐藤くんはなんで学校に火炎瓶持ち込んでるのよ!」
下手に一宮玲佳に告白すればこうなる。田辺くんはいい一例となった。
そして、相変わらず一宮玲佳の周りは人を傷つけることに躊躇がない。というかこれを見ると、華火が暴力沙汰とか気にしていたのが必要なかったように思える。
その後いつまでも悶え苦しむ田辺くんを見かねて、半田が水バケツをぶっかけたことで事態は終息した。
以降の自己紹介は、皆が田辺くんになるのを恐れてか、無謀な告白に挑むものも現れず、つつがなく終了した。まあそもそも、初めましてで告白は無理があるだろう。田辺くんが初っ端から飛ばしすぎなのである。




