クラスメイト全員が恋敵!?
すっかり場所を変えて、三人は一年四組の教室へとやって来ていた。そこは、三十程度の机が規則的に並べられているごく普通の教室である。既に教室には結構な数の生徒が入っているようで、廊下にもざわざわとした空気が伝わってきている。その空気をつくっている原因のほとんどが、このクラスに属する一宮玲佳であることは言うまでもないが。
一番前に立つ絢瀬が、意を決して教室の扉を開け、先導する形で中へと入っていく。すると、
『……おっ! おい皆! さっきのローション野郎が来たぞー!』
『よう、お前ローション相撲部に入部希望なんだって?(笑)』
『あんた中々やるなぁ、好きな子の気を引くために道化を演じるなんてよー』
『ちょっと貴方、この教室にまでローションまき散らす気じゃないでしょうね!』
ぞろぞろ、とクラスメイトが絢瀬に気付いて話しかけてきた。どうやら既に絢瀬が一宮玲佳と会話したという情報は広まっているらしい。ローション関連の話は絢瀬が原因ではないが、そのあたりは情報が錯綜しているのだろう。まあ、この場の絢瀬に話しかけてきた大半はただ純粋に喧嘩を売りにきているようだが。
「……、アンタら全員僕にぶっ潰されたくてこんな口聞いてるんだよな?」
舐めた態度を取られて絢瀬が速攻殺気立っている。今にも手を出してしまいそうだ。しかし流石に入学初日からの暴力沙汰はまずい。既に通学路では結構暴れてしまっているが、場所が教室だと言い訳のしようがない。
「ストーップ、ストップ、絢瀬ストップ! 入学早々問題起こそうとしてんじゃないわよぉ!」
華火に羽交い締めにされて、なんとか留まる絢瀬。後ろの方で息を潜めている平良はため息をついている。
『そう暴れんなよ、あの子に変な目で見られたからってピリピリしてんのか?』
この教室は、既に絢瀬の敵まみれのようだ。
しばらく、華火の拘束を振りほどこうと奮闘していた絢瀬だったが、ふと何かに気が付く。
「あれ? あの子は?」
教室の中を改めて見回すと、彼女の姿が見えない。絢瀬たちよりも早く、学校には着いていたはずだが。
『……ああ、例の彼女なら今席を立ってるぜ。トイレにでも行ってんじゃないのか?』
近くに立っていた男が教えてくれた。指をさしているのでその先を見てみると、確かに空席がある。どうやら、そこが彼女の席らしい。座席は出席番号順になっていて、窓側手前から一番、二番と続いているようだ。彼女の席は窓側の前から三番目、絢瀬の後ろの席となる。
そうして、周りのやつらにベラベラと話しかけられていると、チャイムが鳴ったと同時に担任であろう教師が入ってきた。
気付かなかったが、もうそんな時間になっていたのだ。
「お前らー、席つけー」
ゴツい身体の中年の親父教師が入室と同時に大きく言った。
それを合図に、教室や廊下に散らばっていた生徒たちが自分の席へと移動する。丁度、一宮玲佳も戻ってきたみたいだ。
(かっ、可愛い‼)
視界に入った一宮玲佳で、絢瀬の脳内はそれ一色に変わってしまう。彼女の登場に一瞬教室の空気がこわばったが、とりあえずは全員大人しく自分の席についたようだった。
絢瀬も心臓の鼓動をバクバクと鳴らしながら、華火と前後に並んで着席する。
少し遅れて、一宮玲佳も教室の窓側までやってきた。一瞬、絢瀬に気付いて驚いたような素振りを見せたが、特にそれ以上のアクションは起こさず絢瀬の後ろの席についた。
(───やっぱり、めちゃくちゃ可愛いな!)
表情こそ平静を装っているが、絢瀬の目は自然と彼女を追い、心臓の鼓動はなおも早まっている。担任がなにか言おうとしているが、正直それどころではない。
生徒が一通り席につき、それを確認して教壇に立つ教師が口を開いた。
「あー、お前らを一年間見ることになった、担任の半田だ。半田先生と呼びなさい。間違っても『半田ティーチャー』とか『はんティー』とか『パンT』なんて呼ぶんじゃないぞー」
……それは、半田が長年かけて編み出した生徒と打ち解けるための自慢の自己紹介なのだが、誰ひとりとして笑っていない。女子生徒が訴えかければセクハラ教師の烙印を押されること間違いなしだろう。残念ながら教卓の目の前の席になってしまった平良が、半田から必死に目を逸らしているのが哀れだ。
半田が自己紹介を軽く事故ったところで、すぐに本日の流れの説明に入った。ひとまずはクラス皆で入学式へと向かうらしい。その後は生徒たちの自己紹介、定番の流れである。
説明を終えてほどなく、時計を確認した半田が生徒たちを立たせて、先導して体育館に向かいだした。その間も、絢瀬は真後ろにいるであろう美少女のことでいっぱいいっぱいだったので何も頭には残っていない。入学式も名前が呼ばれたら返事をするくらいの簡単なものだったので、一瞬で終わったように感じられた。




