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「……バカな。ノア、貴様……属性のランクが上がったわけではない。なぜ、これほどの力を……」
バルトスが椅子から立ち上がり、目を見開く。
「属性の強さなんて、関係ありません。……カイさんが、教えてくれたんです。守るべきものがあるなら、石ころだって伝説の盾に勝てるんだって!」
ノアの宣言に、カイは満足げに頷くと、ゆっくりと『虚空』を抜いた。
その瞬間、迷宮全体の「重力」が変わったかのような圧迫感が周囲を支配した。
「……バルトス。お前はノアを『欠陥品』と呼んだな。だが、本当の欠陥はお前だ。属性という色に溺れて、目の前の真実が見えていない」
「……小僧、抜かせっ!」
バルトスが激昂し、自身の右腕を巨大な岩の剛腕へと変質させた。聖座の全力。一撃で山を砕くと言われる、土属性の極致。
「死ね! 『崩天・金剛拳』!!」
バルトスの拳がカイへ迫る。
対するカイは、ただ一歩、前へ。
剣を振るうのではない。ただ、剣の先を「置いた」。
(無色一刀流——『崩』)
バルトスの拳が剣先に触れた瞬間。
音も、衝撃もなかった。
バルトスの右腕を構成していた強固な土の魔力が、「砂の城が水に流されるように」、サラサラと崩落していった。
「……あ、あぁ……? 私の金剛が……崩れる……?」
「属性とは、マナを無理やり形に押し込めた歪みだ。……その歪みの『芯』を突けば、どんな大魔法もただの砂に還る」
カイが剣を鞘に収める音。
バルトスは膝を突き、自分の消え去った右腕の感覚を確かめるように震えていた。
最強の防御、最強の硬度。その全てが、色を持たない少年の「ただの物理」に敗北したのだ。




