弱ってるときに、優しくするのずるくね?
フランソワとノエルは、まるで恋人同士のように寄り添って歩いていた。
ノエルの両腕には山ほどの買い物袋。
対してフランソワは軽やかに笑いながら歩幅を合わせ、時折ノエルの袖を引いては楽しげに話しかけている。
(……なんであいつら、二人きりで買い物なんかしてんだよ……。しかも、ノエルに全部持たせて、あんな楽しそうに……)
隣でアレンが眉を寄せた。
「殿下。あの二人……あんなに親しかったでしょうか」
「知らねぇよ。俺だって初めて見る」
胸の奥に、嫌な予感がじわりと広がる。
フランソワがノエルに向ける笑顔を見た瞬間、心臓がひどく痛んだ。
それは──俺が一度も向けられたことのない、甘く柔らかい微笑みだった。
(……嘘だろ……?)
ノエルは困ったように視線を逸らしているが、フランソワは距離を詰め、そっと腕に触れていた。
その仕草は、どう見ても“婚約者の弟”に向けるものではない。
胸がずるりと沈んでいく。
(なんで……なんでそんな顔、ノエルに向けてんだよ……。フランソワは……俺の、婚約者だろ……?)
昼の光が滲み、視界が揺れた。
──ふと、これまでの“お茶会”が脳裏をよぎる。
政略とはいえ、俺はフランソワを大切にしようと思っていた。
せめて互いに敬意を持ち、支え合える関係になれたらと。
だからこそ、何度かお茶会を開いた。
季節の菓子を用意し、話題もいくつか考えて臨んだ。
……けれど、毎回フランソワは同じだった。
俺が何を言っても返事はなく、視線すら向けられない。
ティーカップを置く音だけが虚しく響き、まるで俺という存在が最初からそこにいなかったかのように。
(あの時も……俺のことなんて見てなかった……)
喉が焼けるように熱くなり、息が震える。
(そっか、フランソワは……ノエルのことが好きだったんだ……)
心の底が崩れ落ちるような感覚に襲われた。
それでも、せめて俺は無理に笑った。
「……まあ、いいけどな。フランソワが俺よりノエルが好きでも……俺も別に好きじゃねぇし」
平然を装ったつもりだった。
けれど、声は震え、笑みはひどく歪み、強がりが強がりとして成立していないのが自分でも分かった。
アレンは痛ましげに俺を見つめた。
その視線に触れた瞬間、張りつめていたものがぷつりと切れた。
ぽたり、と涙が落ちる。
「殿下……」
アレンはそっと手を伸ばし──
次の瞬間、衝動を抑えきれないように俺を抱きしめた。
強く、でも乱暴じゃない。
守るように、包み込むように、
俺の体を自分の胸へ引き寄せる。
アレンの胸板に押し当てられた頬に、彼の体温がじんわりと伝わる。
その温かさが、壊れかけた心に触れてきた。
「ち、違う……! これは……女体化したせいで……精神が不安定なだけで……!」
苦しい言い訳を吐き出すと、アレンは俺の背中に回した腕にそっと力を込めた。
「理由なんて……どうでもいいんです。殿下がこんなに苦しそうなのが……僕は耐えられない」
耳元に落ちる声は震えていた。
その震えが、俺の胸の奥に直接触れてくる。
アレンの胸に顔を埋めると、堪えていた涙が止まらなくなった。
声にならない息が漏れ、肩が震える。
アレンは何も言わず、ただ俺の髪を優しく撫で続けた。
指先がそっと頭を包み、落ち着かせるように、慰めるように。
その手つきには、言葉よりも強い想いが滲んでいた。
(……俺……なんか……馬鹿みたいだ……)
アレンの腕の中で、俺は小さく震えながら泣き続けた。
アレンはその震えを、まるごと抱きしめてくれていた。まるで──俺の痛みを、自分の痛みとして受け止めるように。




