↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/114

第94話 灯りの値段

日が落ちると、店の中は急に暗くなる。


窓の外が群青に染まり、棚の輪郭がぼやける。

マリノスは迷わず蝋燭に火をつけた。


小さな炎が立ち上がる。


油脂の匂いがわずかに漂う。


「今日はヤダナ製よ」


クレアが言う。


「持ちがいい」


エメリクは炎を見つめた。


「前のものと違うな」


「蜜蝋が混じってる。高いけど長持ち」


マリノスは棚の奥を指す。


「でも全部をそれに変えたら赤字」


エメリクは蝋燭の台座を持ち上げる。


重い。


「仕入れ先は」


「ヤダナ人の工房」


エアリスが外套を払って入ってくる。


「灯りは誰が握ってるの?」


クレアが小さく笑う。


「いい質問ね」


店の奥には、別の箱があった。


安い蝋燭。


牛脂と山羊脂で作られている。


煙が多く、減りが早い。


「貧しい家はこっちを買う」


マリノスが言う。


「裕福な家は蜜蝋」


エメリクは炎を指で囲う。


影が揺れる。


「灯りにも階級がある」


「当たり前でしょ」


マリノスは即答する。


「祈りの時間も違う。夜の長さも違う」


エアリスが書き留める。


「時間の格差」


クレアが頷く。


「夜が長い家は働ける。勉強もできる」


エメリクは静かに言う。


「夜が伸びれば、消費も伸びる」


店の外で、別の蝋燭の灯りが見える。


教会の塔だ。


大きな蜜蝋。


太い芯。


煙が少ない。


「教会はどの蝋燭を使っている」


「蜜蝋」


「税は」


「同じ」


沈黙。


エメリクは蝋燭の台座を置いた。


「行政もヤダナ製に変えろ」


マリノスが顔を上げる。


「全部?」


「全部だ」


クレアが眉をひそめる。


「教会が嫌がる」


「嫌がる理由は」


「ヤダナ人は信者じゃない」


エアリスが低く言う。


「でも灯りは同じ」


エメリクは答える。


「灯りは信仰を選ばない」


マリノスが棚を見回す。


「コストは上がる」


「長持ちするなら下がる」


クレアが計算を始める。


「短期は赤字。長期は黒字」


「それでいい」


エメリクは炎を見つめた。


「灯りを変えれば、夜が変わる」


外で子どもが走る音がする。


その影が窓に映る。


「夜が変われば、村が変わる」


エアリスが小さく笑う。


「灯りで革命?」


「革命じゃない」


エメリクは言う。


「計算だ」


蝋燭の炎が少し揺れる。


油脂が溶け、芯を伝う。


ぽたり、と垂れる。


「脂はどこから来る」


エメリクが問う。


クレアが答える。


「牛」


「牛は何を食べる」


「ロス」


沈黙。


蝋燭の灯りが、棚の影を長く伸ばす。


余りは牛へ。


牛脂は蝋燭へ。


蝋燭は夜へ。


夜は消費へ。


「全部、繋がってる」


エアリスが言う。


エメリクは頷く。


「だから切る」


「何を?」


「無駄な循環を」


外の教会の灯りが揺れる。


遠くで鐘が鳴る。


夜が伸びる。


蝋燭の炎は静かだ。


だが、その小さな光が、

村の構造を照らし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。