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教会と補助金に縛られた村に転生した俺、信仰と税を整理したら“聖領主”になっていた。  作者: 巡叶
第11章 満たされぬ食卓、満たされたことにされる身体
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第66話「六十六番目の席」

教室の後ろから、数える癖がある。


一列、二列、三列。

机の並び。

椅子の数。


六十六番目。


エメリクは、その席に座る子を見ていた。


痩せているわけではない。

だが、力が入っていない。


背筋が伸びず、視線が定まらず、

黒板を見ているようで、どこも見ていない。


「名前は?」


教師が答える。


「特に問題はありません」

「平均的です」


平均的。


その言葉が、いつから安心の印になったのか。


昼。


給食の時間。


白い液体が注がれる。

低脂肪の牛乳。


「全部飲みなさい」


教師の声が響く。


子どもは、黙って飲み干す。


脂肪は少ない。

味も薄い。


だが「健康的」とされている。


肉は、切り分けられた豚肉。

どれも同じ形、同じ色。


「これは?」


エメリクが調理係に尋ねる。


「三元豚です」

「一番、安定しています」


「味の違いは?」


「求められていません」


野菜は刻まれ、煮られ、色を失っている。


「栄養は?」


「基準は満たしています」


また、その言葉だ。


基準。


午後の授業。


六十六番目の席。


その子は、問題を前に手が止まっていた。


分からないのではない。

考えようとして、途中で切れている。


集中が、続かない。


「やる気を出しなさい」


教師が言う。


だが、エメリクには見えていた。


これは、意志の問題ではない。


「燃料が足りない」


呟くように言うと、隣にいた書記が小さく頷いた。


「脂肪が少ない」

「たんぱく質も、質が均一です」

「野菜は量だけで、力がない」


「力?」


「身体を作る力です」


牛乳の樽が、廊下に並んでいた。


刻印は、同じ印。


同じ牧場。

同じ飼料。

同じ脂肪率。


「なぜ、これだけに?」


エメリクが問う。


「安定しているからです」


「他は?」


「個体差があります」

「扱いにくい」


その言葉で、全てが繋がった。


差があるものは、排除される。


肉も。

野菜も。

そして――子どもも。


「均一な食事は、均一な身体を作る」

「均一な身体は、均一な思考を作る」


書記が、静かに言った。


「そして、そこから外れた者は――」


「問題児になる」


エメリクは、前世を思い出していた。


鈴村陽一。


集中できない。

眠い。

頭が回らない。


「努力が足りない」と言われ続けた日々。


だが、努力以前に、

身体が“戦える状態”ではなかった。


六十六という数。


帳面では、ただの番号。


だが、エメリクは知っていた。


人が「ここから先は見ない」と決める境目。


「仕方がない」

「皆、同じだ」

「これ以上は求めすぎだ」


そう言って、切り捨てる数字。


六十六番目の席の子は、

今日も静かに座っている。


誰にも叱られず、

誰にも期待されず。


「怪物は、どこにいると思う?」


エメリクが書記に問う。


「……教会ですか?」


「違う」


首を振る。


「怪物は、思想だ」


「平均であればよい」

「均一であれば安全」


その考えが、

子どもから未来を奪っている。


牛は、同じ餌を食べ、

同じ乳を出す。


豚は、同じ系統で揃えられ、

同じ肉になる。


そして子どもも、

同じ食事で、同じ型にされる。


「だが、人は家畜じゃない」


エメリクは、はっきりと言った。


六十六番目の席の子が、ふと顔を上げた。


視線が、一瞬だけ合う。


その目には、まだ光があった。


「ここまでだ」


エメリクは、帳面を閉じた。


「この章は、終わりだ」

「次は――」


「食べ物を作る側、ですね」


書記が続ける。


「そうだ」


低栄養は、偶然ではない。

均一化は、善意でもない。


それは、選ばれた結果だ。


そして、

その選択を変えない限り、

六十六番目の席は、永遠に空白のままだ。

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