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教会と補助金に縛られた村に転生した俺、信仰と税を整理したら“聖領主”になっていた。  作者: 巡叶
第11章 満たされぬ食卓、満たされたことにされる身体
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第65話「同じ昼、違う皿」

「視察、ですか?」


書記は少し驚いた顔をした。


「はい。公式には」


エメリクはそう言って、外套の留め具を留め直した。


「本当は?」


「確かめたいだけだ」


何を――とは言わなかったが、書記は察していた。


最初に訪れたのは、王都近郊の私立学校だった。


石造りの校舎。

手入れされた庭。

正午を告げる鐘が鳴ると、子どもたちは整然と食堂へ向かう。


給食は、盆に載せられて運ばれてきた。


焼いた肉。

豆と油を使った煮込み。

乳製品。

果実。


「量は控えめですね」


書記が言う。


「だが、密度が高い」


エメリクは皿を覗き込んだ。


「腹を膨らませる構成ではない」

「身体を作る構成だ」


食べる子どもたちの様子も違っていた。


噛む。

話す。

また噛む。


急がない。

飲み込まない。


「午後の授業に響かないのです」


案内役の教師が、当然のように言った。


「眠くなりませんか?」


「むしろ、集中します」


それが前提の顔だった。


次に向かったのは、王都の公立学校。


規模は大きい。

人数も多い。


給食は、桶からよそわれる。


白いパン。

薄い汁。

芋。


「基準通りです」


調理係は胸を張った。


「全員に、同じ量を」


子どもたちは黙って食べる。


早い。

とにかく早い。


「残すと叱られますので」


教師が言う。


「時間内に食べる訓練です」


エメリクは、匙を止めた。


「訓練?」


「集団行動の一環です」


子どもの一人が、途中で咳き込んだ。


「静かにしなさい」


教師の声が飛ぶ。


午後の教室。


何人かが、机に伏していた。


「よくある光景です」


教師は、気にしていなかった。


最後に訪れたのは、田舎の学校だった。


小さな校舎。

人数も少ない。


給食は質素だったが、様子が違った。


干し肉。

野菜。

穀物。


「これは?」


エメリクが尋ねる。


「近くの農家からです」

「余ったものを分けてもらっています」


調理係は、少し申し訳なさそうに言った。


「基準とは違いますが……」


「誰が決めた基準だ?」


その問いに、誰も答えなかった。


子どもたちは、よく噛んでいた。


「午後、外で動くので」


教師が言う。


「腹が重いと、動けませんから」


集中力は、ばらつきがある。


だが、眠りこける子はいない。


「身体が、使われている」


エメリクはそう感じた。


三つの学校。


同じ「給食」という名。

だが、皿の上はまるで違う。


私立は、身体を育てるための食事。

都会の公立は、腹を満たすための食事。

田舎は、生活に合わせた食事。


「同じ昼なのに」


書記が、ぽつりと言った。


「まるで別の国のようです」


「別の思想だ」


エメリクは答えた。


「どの身体を、どこへ向かわせたいか」


「それが、皿に出る」


書記は、帳面を開いた。


「では、この差は何から生まれるのでしょう?」


エメリクは、しばらく考えた。


「余裕だ」


「金?」


「金もある。だが――」


一拍置く。


「想像力だ」


「この子が、午後どうなるか」

「明日、どうなるか」

「十年後、どうなるか」


それを考える余裕があるかどうか。


「都会の公立は、今日を回すだけで精一杯だ」

「田舎は、明日が見える」

「私立は、未来を買っている」


「買っている……」


「金でな」


エメリクは、前世を思い出した。


鈴村陽一だった頃。


「同じ給食を食べているはずなのに」

「なぜ、こんなに差が出るのか」


誰も説明しなかった。


村へ戻る馬車の中。


エメリクは、帳面を閉じた。


「次は、何を見ますか?」


書記が尋ねる。


「“栄養”と呼ばれているものの中身だ」


「炭水化物、ですか?」


「それだけではない」


エメリクは、窓の外を見た。


「なぜ、腹が膨らむものが選ばれるのか」

「なぜ、足りないと分かっていて変えられないのか」


「誰が決めているのか」


馬車は、ゆっくりと進む。


「給食は、社会の縮図だ」


エメリクは、静かに言った。


「ここを変えられないなら」

「他も変えられない」


次の章では、

“何が入っていないか”を、さらに細かく見ることになる。


腹は満たされている。


だが、

未来を支える身体は、まだ飢えていた。

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