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教会と補助金に縛られた村に転生した俺、信仰と税を整理したら“聖領主”になっていた。  作者: 巡叶
第11章 満たされぬ食卓、満たされたことにされる身体
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第62話「足りない理由は、空腹ではない」

配膳が終わったあとも、子どもたちは席に残っていた。

皿の上には、まだ食べ物がある。だが、誰も箸を動かさない。


「もう、いいのか?」


エメリクが声をかけると、前の席の少年が首を振った。


「お腹はいっぱいです」


その言い方は正確だった。

腹は満たされている。だが、身体は満ちていない。


汁気の少ない煮物。

色の薄い芋。

粉を固めたような主食。


量はある。

だが、噛んでも力が入らない。


「午後、眠くなる子が多いと聞いた」


給食室の奥で、帳簿を抱えた女が答えた。

栄養を担当する者だった。


「はい。食後一刻ほどで、ほとんどが静かになります」

「静か、というのは?」

「起きてはいます。でも、反応が遅くなります」


エメリクは、帳簿を覗いた。

そこには数字が並んでいる。


炭水。

炭水。

炭水。


「蛋白は?」

「基準は満たしています」

「基準とは、誰の?」


女は一瞬、言葉に詰まった。


「……都の定めです」


基準。

それは「最低限」の線だった。


「この基準は、“動かない子ども”を想定しているな」


女は否定しなかった。


「畑仕事をする大人と同じ食事では、余る」

「だが、学ぶ子どもは、身体を使っていないようで――頭を使っている」


女は小さく息を吸った。


「頭は、最も燃費の悪い臓器です」


エメリクは、その言葉を繰り返した。


「燃費が悪いのに、燃料が軽すぎる」


食堂に戻ると、数人の子が机に突っ伏していた。

眠ってはいない。

だが、目は遠い。


「字が、頭に入らないんです」


別の子が言った。


「先生が言ってることが、途中で消えます」


エメリクは、しゃがみ込んで目線を合わせた。


「難しいからか?」

「分かりません」

「昨日は?」

「昨日も、同じです」


能力の問題ではない。

意欲の問題でもない。


材料の問題だ。


満腹でも、栄養失調。

それは矛盾ではなかった。


「食べた気になるように作られている」

「だが、身体は納得していない」


給食室の外で、別の声が聞こえた。


「でも、安く抑えないと続きません」


言い訳ではない。

現実だった。


エメリクは、壁に掛けられた献立表を見た。


「続けるために、伸びない食事を出す」

「伸びない身体が増える」

「伸びない子が、伸びない大人になる」


その循環が、静かに回っていた。


「これは怠慢ではない」

「だが、無自覚な選択だ」


エメリクは帳簿を閉じた。


「食べ物は、腹を満たすためだけにあるんじゃない」

「判断力を作るためにある」

「踏ん張る力を作るためにある」


誰も反論しなかった。

だが、誰も答えを持っていなかった。


「次は、食材の来た道を見よう」


エメリクはそう言って、給食室を出た。


足りないのは、量ではない。

足りないのは、考える力を支える栄養だった。


そしてそれは、

この部屋だけの問題ではなかった。

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