第46話 学びの入口は二つある
翌朝、王立癒院の門前はいつもより人が多かった。
治療ではない。
相談でもない。
子どもを連れた親たちだ。
「……ここで、いいんですか」
不安そうな声。
「学校の件で」
「聞いていいと、言われて」
エメリクは足を止めた。
「誰に」
「癒院の人に」
「ここは、学びの場ではないが」
「でも」
母親は言葉を探す。
「教会の学び舎には、入れなくて」
「なぜ」
「父が……ここにいるから」
エメリクは理解した。
「線だ」
「え?」
「仕事の線が、子どもに来ている」
廊下の奥から、昨日の少年が出てきた。
「……ここに、いてもいいですか」
「どうした」
「父が、忙しい」
「学校は」
「向こうは、行けない」
少年は視線を落とす。
「理由は?」
「……癒院の子だから」
言葉は軽い。
だが、重かった。
そこへ、外科医が通りかかる。
「何だ、集まって」
「学校の話だ」
「……来たか」
外科医は小さく息を吐いた。
「教会の学び舎は、証を見る」
「証?」
「家の仕事、信の濃さ、
それで席が決まる」
「学びは?」
「後だ」
エメリクは腕を組んだ。
「王立の学びは?」
「昔は、あった」
「今は」
「予算が切られた」
「なぜ」
「成果が見えないから」
「成果?」
「すぐに、信者にならない」
エメリクは苦笑した。
「育つ前に、求めすぎる」
そのとき、別の父親が口を開いた。
「……ここで、教えてもらえないか」
「何を」
「文字と、数だ」
「誰が」
「癒院の人が」
廊下にいた者たちが、顔を見合わせる。
「できなくはない」
薬剤師が言う。
「夜なら」
「外科も、昼は無理だが」
「内科は?」
「……調整すれば」
エメリクは一歩前に出た。
「ここは、治す場所だ」
一瞬、空気が張る。
「だが」
彼は続けた。
「治した後、
どう生きるかを考えない場所でもない」
少年が、顔を上げた。
「……字を、覚えていいんですか」
「覚えろ」
エメリクは即答した。
「それは、誰の許可も要らない」
母親の目に、涙が浮かぶ。
「線は、ここまでだ」
エメリクは静かに言った。
「家の仕事で、
学びを止めさせない」
「教会が黙っていない」
外科医が言う。
「もう、黙ってはいない」
エメリクは答えた。
「帳簿を書き換えた。
次は、黒板だ」
癒院の片隅に、空いた壁がある。
誰も使っていない場所。
「……あそこだな」
誰かが呟く。
少年は、初めて小さく笑った。




