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第44話 語りが先に来る

教会領では、言葉が先に準備されていた。


壇が設えられ、布が張られ、香が焚かれる。

人が集まる前に、語りが整えられる。


「最近、秩序を乱す動きがある」


神官の声は穏やかだった。


「善意を装い、

 役割を曖昧にし、

 信の流れを濁す者たちがいる」


人々は黙って聞いている。


「癒しは、選ばれた場で行われるべきだ」


「施しは、弱さを助長する」


「真に立つ者は、

 自らの信で癒される」


頷きが、ゆっくりと広がる。


「最近、血に触れる仕事を持ち上げる声がある」


「土にまみれた仕事を、

 尊いと言い換える声がある」


「だが、皆さん」


神官は少し声を落とした。


「それらは、必要ではある。

 だが、上に置くものではない」


その言葉に、安堵の息が混じる。


「それぞれの役割がある。

 それを混ぜると、秩序が崩れる」


人々は安心する。

線が引かれると、人は落ち着く。


一方、王立癒院。


廊下では、別の会話が流れていた。


「教会で、ああ言っているらしい」


「何を」


「森の仕事は、感情に訴えるだけだと」


「外科は、危険を煽るだけだと」


外科医は、無言で手を洗っていた。


水が流れ、血が落ちる。


「……語りが来たな」


薬剤師が言う。


「仕事より先に」


「いつもだ」


エメリクは壁にもたれ、話を聞いていた。


「彼らは、事実を否定していない」


「否定しているのは?」


「位置だ」


「位置?」


「どこに置くか」


エメリクは帳簿を開く。


供給、外科、内科。

項目は並んでいる。


「上下を決めたいだけだ」


「上は語り、下は手」


「逆だ」


エメリクは静かに言った。


「手がなければ、語りは空だ」


そこへ、若い母親が来た。


「……診てもらえますか」


「どうした」


「昨日、教会では順番が回らなくて」


子どもは熱を出している。


「証は?」


「持っていません」


「ここでは要らない」


外科医が言う。


「すぐ来い」


母親の肩が、わずかに落ちた。


「……ありがとうございます」


その背中を、エメリクは見送った。


夜、町では噂が回る。


「教会は正しいらしい」


「でも、癒院は助けてくれた」


「どっちが正しいんだ」


「分からない」


その「分からない」が、広がっていく。


教会は語る。

癒院は働く。


語りは速く、

仕事は遅い。


だが、遅い方が、

確実に人の身体に残る。


エメリクは灯を見た。


まだ弱い。

だが、消えていない。


「……語りは、先に行く」


彼は呟く。


「だが、最後に残るのは、手だ」


外で、風が吹いた。


高いところから、

低いところへ。


見えない圧が、

静かに動き始めていた。

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