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第34話 静かな広場、重い声

昼前の広場は、奇妙なほど整っていた。


屋台の痕は消え、踏み固められた地面だけが残っている。

いつもなら聞こえるはずの呼び声も、金属の音もない。


「……静かだね」


パン籠を抱えた女が言った。


「洗濯はしやすいけどさ」


別の女がそう返す。


「昨日は子どもが笑ってた」


「今日は泣かないけどね」


言葉が宙に落ちる。


エメリクは井戸のそばで、そのやり取りを聞いていた。


「静かなのが、いい人もいる」


老人が言った。


「毎月あれじゃ、身体がもたん」


「でも」


若い男が口を挟む。


「売り物は増えたし、顔も増えた」


「顔が増えると、厄介も増える」


「厄介じゃなくて、人だろ」


声が重なり、ぶつかり、すぐに引っ込む。


誰も怒鳴らない。

だが、誰も納得していない。


「村長の家の若いのは、どう思ってるんだ」


誰かがエメリクを見る。


「……考えている」


それ以上、言えなかった。


そこへヨハンが現れた。

教会領から戻ったばかりらしく、外套に香が残っている。


「静かでいい」


ヨハンははっきり言った。


「祈りの声が、ようやく届く」


「祈りは、声が多いと届かないのか」


誰かが問う。


「濁る」


ヨハンは即答した。


「人が集まりすぎると、水は濁る」


「じゃあ、教会は?」


別の声が出た。


「人が集まってる」


ヨハンは視線を向ける。


「集めているのではない。

 集まる者だけが残っている」


その言い方に、何人かが黙った。


「来たい者が来る。

 去りたい者は去る」


「でも」


エメリクが口を開いた。


「去った者は、次に戻る場所がない」


「それが選択だ」


ヨハンは一歩も引かない。


「選ばれなかった者は?」


「神の秤は、常に公平だ」


沈黙。


「……公平って、なんだろうね」


先ほどの老人が、独り言のように言った。


ヨハンは答えなかった。


そのまま向きを変え、教会領の方を指す。


「次の月、祈念の催しを増やす」


「増やす?」


「川沿いで行う。

 場はすでに整っている」


「それ、また人が集まる」


「信を持つ者だけだ」


エメリクは理解した。


広場ではなく、教会領。

村全体ではなく、選ばれた場。


「……静かになるな」


エメリクが呟く。


「整理される」


ヨハンはそう言い残し、去っていった。


残された村人たちは、誰も追わなかった。


風が吹き、砂が少し舞う。


「静かだね」


さっきと同じ言葉が、もう一度落ちた。


今度は、誰も返さなかった。

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