第100話 森へ向かう道
牛舎を離れると、道はすぐに細くなった。
土の道だ。
踏み固められてはいるが、ところどころ石が浮き、馬車の車輪の跡が深く残っている。
遠くに森が見える。
昼の光を受けて、緑がゆっくり揺れていた。
エメリクは歩きながら地面を見る。
「この道は誰が作った」
エアリスが聞く。
クレアが答える。
「村の仕事」
「税?」
「冬の仕事」
エメリクは足を止めた。
「農家が?」
「そう」
エアリスが言う。
「でも市場の道は狭い」
クレアが肩をすくめる。
「新しい道は許可がいる」
「誰の」
「大公」
沈黙。
エメリクは山の方を見る。
「森から町へ運ぶには」
「遠回り」
クレアは指で道をなぞる。
「ここは別の村の領地」
「通れない?」
「通れるけど金」
「関所」
エアリスが書く。
「道はあるのに流れない」
エメリクは笑った。
「川みたいだ」
歩き出す。
風が少し強くなる。
森に近づくほど、空気が冷たくなる。
途中、倒れた木があった。
切られた跡。
年輪が見える。
エメリクはそれを触る。
乾いている。
「早いな」
クレアが言う。
「切ってすぐ運ぶ」
「乾燥は」
「待たない」
エメリクは年輪を見つめる。
「急ぐ木は弱い」
遠くで斧の音がする。
コン、コン。
ゆっくり、規則的。
エアリスが耳を傾ける。
「木こり?」
クレアが頷く。
「エーグルか、コルボー」
「違いは?」
「切り方」
エメリクは歩き出す。
斧の音が大きくなる。
森の入口に近づく。
地面には木屑が散っていた。
乾いた匂い。
そして少し、焦げた匂い。
エメリクは立ち止まる。
「火?」
クレアも気づく。
「昨日の小火」
エアリスが顔を上げる。
「山火事?」
「小さい」
クレアは言う。
「でも増えてる」
エメリクは森の奥を見る。
光が斑に落ちる。
その間に、黒く焼けた跡が見える。
「乾いている」
誰かが近づいてきた。
背の高い男。
斧を肩に担いでいる。
顎には灰色の髭。
エーグルだった。
「村長」
男は笑う。
「森の見物か」
エメリクは焼けた地面を指す。
「火か」
エーグルは頷く。
「小さい」
「原因」
「乾き」
エメリクは言う。
「木が減っている」
エーグルは少し笑う。
「減らしている」
その言葉の向こうで、もう一つの斧の音が聞こえる。
速い。
荒い。
コン、コン、コン。
エーグルが目を細める。
「コルボーだ」
エメリクは森の奥を見た。
木が一本倒れる。
地面が少し揺れる。
森は静かだ。
だが、斧は止まらない。
エーグルが言う。
「森は急がない」
遠くでまた木が倒れる。
「だが人は急ぐ」
風が吹く。
焼けた匂いが少し強くなる。
エメリクは森を見つめた。
「急ぎすぎると燃える」
エーグルは頷く。
「その通りだ」
斧の音が、また響く。
森はまだ静かだ。
だが、その静けさの下で、
何かが乾き始めていた。




