エピローグ1
卒業後、国の魔法研究員として研究を続けている私。
休みの日には両親と頻繁に会っている。
学園で過ごした日々しか知らなかった私にとって、両親に案内されるさまざまな場所はどれも新鮮だった。
でも今日は、私の方から『住んでいる場所が見たい』とリクエストして、両親の家に初めてお邪魔することになった。
実家と呼べるはずの場所なのに『お邪魔する』と言うのは変な気もするけど。
外から見るとかなり古びたアパートだったけれど、中に入ると想像していたよりもずっと綺麗で少しホッとした。
「お邪魔します」
「何もない狭いところだけど、シエルが帰ってきたいと思うならいつでも歓迎するからね」
「ありがとう」
玄関とキッチンの兼用スペースに、こぢんまりしたリビングダイニング、そして閉まった襖の向こうには寝室があるようだ。
この間取りは、私が幼い頃に過ごした家とどこか似ていて懐かしさを感じる。
ちゃぶ台を囲んで座り、学園での生活や友人のこと、戦地での体験、そしてディオンの話などを話すと、二人とも興味深そうに聞き入ってくれた。
そんな時――
「うわっ!……熱っ!」
お父さんが湯呑みを持ち上げた瞬間、手を滑らせてお茶をこぼしてしまった。
「大丈夫!?」
母と私の声が重なる。
「火傷に火傷重ねて……早く冷やしましょう」
「悪いな。最近また手がひきつってしまってて……」
お父さんが痛そうに手を抑える。
私が負わせた火傷、まだ完治してないんだ。
お母さんが立ち上がり、冷やす準備をしようとした時、私は思わず声をかけた。
「手を出して」
「え……?」
お父さんは驚いたような顔をしつつも、かつて私が魔法で火傷を負わせてしまったあの手を差し出した。
そこにはまだ爛れがあり、その周りを覆うように皮膚が赤くなっていた。
赤くなっている部分は、今出来た新しい火傷のようだ。
私はすぐにお父さんの手に自分の手を重ね、治癒魔法をかけた。
ぽうっと淡い光がお父さんの手のあたりだけを包み込み、ゆっくりと消えていく。
そっと手を離してみると、さっきまであった爛れは跡形もなく消えていた。
「ほら、治ったよ!」
お父さんは目を丸くしながら、自分の手を何度も握ったり開いたりして驚きの声を上げた。
「す……凄いな。ずっと引きつってたのが嘘みたいに楽になってる……」
母は驚きで口元を押さえている。
「すごい……」
背後から聞こえた小さな声に振り返ると、ドアの影から覗いていた私の妹、ノアちゃんとバチっと目が合った。
「こんにちは」と笑顔を送ってみると、ノアちゃんは目を丸くして、すぐにドアをパタンと閉じてしまった。
どうやら隣の寝室に隠れていたようで、心配で様子を見に来たらしい。
「ノア!隠れてないで出ておいでなさい!」
お母さんがそう言っても出てこない。
「もう!あの子は……せっかくシエルが来てるのに」
唯一の姉妹だけど、私は妹ちゃんに嫌われているかもしれないと思う。
もしかして、両親の愛情を独り占め出来なくなるとかなんだろうか?
分からなくないような複雑な思いに、あまり何も言えない。
でも、仲良くしたかったな……
お母さんに苦笑いを浮かべると、ふと壁に飾られた額縁の中にある、シミのついた紙に目が留まった。
すぐに、何か懐かしさを感じる便箋だと思った。
「あ、あれ?あの紙って……」
確か、私が戦争前に会いに来た時に無くしてしまった手紙じゃ!




