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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第四章 それぞれの場所で
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入金を待つ仕事

 2034年2月。


 大阪・本町。


 株式会社カナメの業務部では、月初の仕事が進められていた。


 社員数は三十九名。


 昨年十月からは、高瀬が業務部長として、人事や経理、総務の仕事を統括している。


 業務部の執務スペースは、ほかの部署から少し離れた場所に設けられていた。


 給与や人事情報、経理関係の資料を扱うことが多いためだ。


 その一角で、福原奈央は、請求書の発行状況を確認していた。


     *


「高瀬さん、今月の請求書ですが、発行予定分はすべて確認できました」


 福原が報告した。


「ありがとうございます」


 高瀬が答えた。


「では、入金予定との照合もお願いします」


「承知しました」


 福原は、管理表を開いた。


 請求先。


 請求金額。


 支払期日。


 そして、入金確認の状況。


 それぞれの項目が並んでいる。


 請求書を発行したからといって、その日にお金が入るわけではない。


 契約で決められた期日に、顧客から支払いが行われる。


 業務部では、その予定と実際の入金を照らし合わせていた。


     *


「……あれ?」


 福原が、小さく声を上げた。


「どうしました?」


 高瀬が尋ねた。


「こちらのお客様、まだ入金されていませんね」


 福原は、管理表の一行を示した。


 高瀬が画面を確認する。


「……こちらは、支払期日が来週ですね」


「あ」


 福原は、もう一度日付を見た。


「……そうでした」


 高瀬が、少し笑った。


「まだ期日前ですから、問題ありませんよ」


「すみません。確認が足りませんでした」


「いえいえ」


 高瀬は、うなずいた。


「気づいたときに確認するのは、よいことですから」


「ありがとうございます」


「ただ、期日前と期日を過ぎたものは、分けて考えましょう」


「はい」


     *


 福原は、管理表を見直した。


 入金済み。


 入金予定。


 確認が必要なもの。


 それぞれ、状態がわかるように整理されている。


「……こうして見ると、わかりやすいですね」


 福原が言った。


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


「担当者が変わっても、状況がわかるようにしておきたいですから」


「はい」


「何を確認したのか、次にいつ確認するのか。それがわかれば、同じことを何度も調べずに済みます」


「なるほど」


 福原は、少し笑った。


「……金目さんが好きそうな仕組みですね(笑)」


 高瀬も笑った。


「そうですね(笑)」


     *


 数日後。


 高瀬は、月次の資金繰り見通しをまとめていた。


 売上は、おおむね計画どおり。


 利益についても、現時点では大きな問題はない。


 ただし、実際にお金が入ってくる時期と、会社から支払う時期は必ずしも一致しない。


 給与。


 社会保険料。


 外注費。


 事務所の賃料。


 それぞれ、支払う日が決まっている。


 高瀬は、今後の入金予定と支払予定を照らし合わせていた。


     *


「金目さん、今月の資金繰りについてご報告します」


 高瀬が連絡した。


「ありがとうございます」


 金目が答えた。


「どうですか?」


「現在のところ、収支はおおむね計画どおりです」


「そらよかった」


「入金予定と支払予定についても、確認しています」


「了解です」


 高瀬は、資料を共有した。


「今月は、こちらの日程で入金が予定されています」


「なるほど」


「一方、給与や外注費などの支払いは、こちらになります」


「せやな」


 金目は、資料を確認した。


     *


「……こうして見ると、入る日と出る日が結構違うな」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬が答えた。


「売上が計上されても、すぐに入金されるわけではありませんので」


「せやな」


「そのため、資金残高と今後の支払予定を合わせて確認しています」


「ありがとうございます」


 金目は、少し笑った。


「……給料は入金待ってくれへんしな(笑)」


 高瀬も、少し笑った。


「そうですね(笑)」


「まあ、そこはちゃんと用意しとかんとな」


「はい」


 高瀬は、うなずいた。


「現在の見通しでは、必要な資金は確保できています」


「そらよかった」


     *


「ちなみに、今後の入金予定について、気になるところはありますか?」


 金目が尋ねた。


「現時点では、特に大きな問題はありません」


 高瀬が答えた。


「了解です」


「ただ、顧客ごとに支払条件が異なりますので、営業部とも確認を進めています」


「なるほど」


「契約内容と、実際の請求条件に違いがないかを確認しておきたいと思っています」


「ええと思います」


 金目は、うなずいた。


「ほな、引き続きお願いします」


「承知しました」


     *


 二月中旬。


 業務部では、営業部との確認が行われていた。


 参加しているのは、高瀬、福原、そして営業部長の小坂千尋。


「本日は、請求条件について確認させてください」


 高瀬が言った。


「承知しました」


 小坂が答えた。


 福原は、顧客ごとの請求一覧を共有した。


「こちらのお客様は、月末締め、翌月末払いですね」


 小坂が確認した。


「はい」


 福原が答えた。


「契約書の条件とも一致しています」


「ありがとうございます」


「こちらは、検収後の請求になっていますね」


「そうですね」


 小坂がうなずいた。


「開発部から検収状況を確認したうえで、請求する形です」


「承知しました」


     *


「……こうして見ると、お客様によって結構違いますね」


 福原が言った。


「そうですね」


 小坂が答えた。


「契約内容によって、請求の時期も変わりますから」


「なるほど」


「そのため、営業部で契約条件を確認していただけると助かります」


 高瀬が言った。


「もちろんです」


 小坂がうなずいた。


「契約内容に変更があった場合も、業務部へ共有するようにします」


「ありがとうございます」


     *


「ちなみに、こちらの案件なんですが」


 福原が、別の資料を示した。


「検収予定日が少し変更になっています」


「そうですね」


 小坂が答えた。


「お客様との調整で、日程が変更になりました」


「なるほど」


「そのため、請求時期も変わる可能性があります」


「承知しました」


 高瀬がうなずいた。


「では、開発部の状況も確認したうえで、入金予定を更新しましょう」


「お願いします」


     *


 会議を終えたあと。


 福原は、入金予定の管理表を更新していた。


 契約条件。


 検収予定日。


 請求予定日。


 そして、入金予定日。


 それぞれの情報を整理する。


 営業部が把握している顧客との契約。


 開発部が把握している案件の進捗。


 業務部が管理している請求と入金。


 どれか一つだけでは、正確な予定を立てることはできない。


 必要な情報を共有することで、会社のお金の動きが見えるようになる。


     *


「……高瀬さん」


 福原が声をかけた。


「はい?」


「今回、営業部と確認できてよかったです」


「そうですね」


「請求予定が変わる理由も、わかりましたし」


「はい」


「これまでは、管理表の日付を更新することばかり考えていた気がします」


 高瀬は、少し笑った。


「日付が変わる理由も、把握しておくとよいですね」


「そうですね」


「ただ、すべての案件を業務部だけで把握する必要はありません」


「はい」


「必要なときに、担当部署へ確認できればよいと思います」


 福原は、うなずいた。


     *


 二月中旬。


 株式会社カナメでは、今月も請求と入金の管理が進められていた。


 特別な問題が起きているわけではない。


 顧客との取引も、予定どおり続いている。


 それでも、会社のお金がいつ入ってきて、いつ出ていくのかを確認する仕事は必要だった。


 高瀬と福原は、その仕事を日々進めている。


 会社が仕事を続けるために。


 そして、社員たちが安心して自分の仕事に取り組めるように。


 業務部では、いつもどおりの確認作業が続いていた。


     *


 二月下旬。


 株式会社カナメの業務部では、月末に向けた入金確認が進められていた。


 福原奈央は、銀行口座の入出金明細と、請求管理表を照らし合わせていた。


 請求先、金額、支払期日。


 それぞれを確認し、入金済みのものから記録を更新していく。


「……あ、こちらも入っていますね」


 福原は、管理表の一行を更新した。


 今月上旬に確認した、支払期日が近づいていた請求だった。


 予定どおりの金額が入金されている。


「高瀬さん、こちらの入金を確認できました」


「ありがとうございます」


 高瀬が答えた。


「金額も一致していますか?」


「はい。請求額と一致しています」


「では、入金済みに更新しておきましょう」


「承知しました」


     *


「……よかったです」


 福原が、少し笑った。


 高瀬も笑った。


「予定どおりですね(笑)」


「そうですね(笑)」


 福原は、管理表を見直した。


 入金予定だったものが、入金済みに変わっている。


 特別なことではない。


 契約で決められた期日に、顧客が代金を支払っただけだった。


 それでも、確認を終えると、少し安心する。


「……こういうの、確認できると気持ちいいですね」


 福原が言った。


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


「予定どおり進んでいることを確認できるのも、大切な仕事ですから」


「はい」


     *


 福原は、残りの請求についても確認を進めた。


 その途中で、一つ気になることがあった。


 同じ顧客について、入金予定の確認履歴が複数の場所に残っている。


 請求管理表。


 担当者のメモ。


 そして、営業部との連絡履歴。


 どれも必要な情報ではある。


 しかし、確認するたびに複数の資料を開かなければならない。


「……これ、少し面倒ですね」


 福原は、小さくつぶやいた。


     *


「高瀬さん、少しよろしいでしょうか?」


「はい。どうしました?」


「入金管理の方法について、相談があります」


「もちろんです」


 福原は、現在の管理表を共有した。


「今は、請求額と支払期日、入金日をこちらで管理しています」


「そうですね」


「ただ、確認した内容や、次に確認する予定が、別のメモに残っていることがありまして」


「なるほど」


「そのため、同じ内容を何度も確認してしまうことがあります」


 高瀬は、資料を確認した。


「……確かに、少し手間がかかっていますね」


「はい」


「何か改善案はありますか?」


 福原は、うなずいた。


「管理表に、確認状況と次回確認日を追加したいと思っています」


     *


「なるほど」


 高瀬が言った。


「それなら、確認した内容も一か所で把握できますね」


「はい」


「ただ、営業部とのやり取りをすべて転記する必要はありませんよ」


「そうですね」


「確認結果と、必要な連絡先がわかれば十分だと思います」


「承知しました」


 福原は、少し考えた。


「では、確認状況、次回確認日、担当部署への参照先を追加する形にします」


「よいと思います」


「ありがとうございます」


「まずは、今月分で試してみましょうか」


「はい!」


     *


 福原は、管理表の項目を整理した。


 請求先。


 請求金額。


 支払期日。


 入金日。


 入金額。


 確認状況。


 次回確認日。


 そして、必要な資料への参照先。


 情報を増やしすぎないようにしながら、確認に必要な項目をまとめていく。


 以前のメモは、必要なものだけを管理表から参照できるようにした。


 営業部とのやり取りも、すべてをコピーするのではなく、確認結果と元の記録を結びつける。


「……これなら、だいぶ見やすいですね」


 福原は、少し笑った。


     *


 数日後。


 福原は、試しに更新した管理表を使って、入金確認を進めていた。


 支払期日を迎えた請求。


 すでに入金された請求。


 そして、今後確認が必要な請求。


 それぞれが、一覧でわかるようになっている。


「……あ、これなら」


 福原は、確認状況を更新した。


 次に確認する日付も、同じ場所で確認できる。


 以前のように、別のメモを探す必要はなかった。


「高瀬さん、管理表を使ってみたんですが」


「はい」


「確認作業が、少し楽になりました」


「それはよかったです」


 高瀬は、資料を確認した。


「ほかの方が使っても、わかりやすそうですね」


「はい。確認の手順も、簡単にまとめておこうと思っています」


「お願いします」


     *


「……そういえば、福原さん」


 高瀬が言った。


「はい?」


「今回の改善、金目さんに相談しようとは思わなかったんですか?」


 福原は、少し考えた。


「……特には」


「そうですか」


「業務部の中で改善できることでしたので」


 高瀬は、少し笑った。


「そうですね」


「もちろん、会社全体の仕組みに影響するなら、相談が必要だと思いますけど」


「はい」


「今回は、私たちの仕事を少し進めやすくするだけですから」


 高瀬は、うなずいた。


「それでよいと思います」


     *


 二月末。


 高瀬は、月次の入金状況と資金繰り見通しを確認していた。


 予定されていた入金は、おおむね計画どおり。


 給与や外注費などの支払いについても、必要な資金は確保されている。


 福原が更新した管理表も、今月分の確認を終えていた。


「……これで、今月の確認は完了ですね」


 高瀬が言った。


「はい」


 福原がうなずいた。


「お疲れさまでした」


「ありがとうございます」


     *


「ちなみに、来月分についても、同じ方法で進められそうですか?」


 高瀬が尋ねた。


「はい。今月使ってみて、特に問題はありませんでした」


「それはよかったです」


「ただ、確認状況の項目については、もう少し整理できそうなので」


「なるほど」


「来月も使いながら、必要に応じて見直したいと思っています」


 高瀬は、少し笑った。


「そうですね。一度作ったら終わりではありませんから」


「はい」


 福原も笑った。


     *


 その日の午後。


 高瀬は、金目へ月末の状況を報告していた。


「金目さん、今月の入金確認が完了しました」


「ありがとうございます」


 金目が答えた。


「何か問題ありました?」


「いえ。予定されていた入金は、おおむね計画どおりです」


「そらよかった」


「来月の資金繰りについても、現在の見通しでは問題ありません」


「了解です」


 金目は、うなずいた。


     *


「それと、福原さんが入金管理の方法を少し改善してくれました」


 高瀬が続けた。


「ほう?」


「確認状況や次回確認日を、一つの管理表で把握できるようにしています」


「……おお、ええやん」


 金目は、少し笑った。


「今までは、別のメモも確認する必要がありましたので」


「なるほど」


「それが、少し減りました」


「そら助かるな」


 金目は、うなずいた。


「……しかし、よう考えてくれとるな」


「そうですね」


 高瀬も、少し笑った。


「自分たちで改善できるところは、少しずつ進めてもらっています」


「ええことやな」


     *


「……そういや、俺、何もしてへんな(笑)」


 金目が言った。


 高瀬が笑った。


「そうですね(笑)」


「……そこは否定してくれへんの?(笑)」


「今回は、福原さんが考えて進めてくれましたから」


「……せやな(笑)」


 二人は笑った。


「まあ、俺が何もせんでも改善されるんやったら、それが一番やな」


「そうですね」


 高瀬は、うなずいた。


     *


 2034年2月。


 株式会社カナメでは、今月も予定されていた入金が確認され、必要な支払いが進められていた。


 特別な事件は、何も起きなかった。


 ただ、業務部では、毎月の確認作業が少しだけ進めやすくなった。


 福原が気づき、高瀬へ相談し、自分たちで改善した。


 金目が指示したわけではない。


 会社の仕事は、社長が知らないところでも少しずつ変わっていく。


 必要なことを確認し、面倒なところを直し、次の仕事へ進む。


 そんな日常が、今月も続いていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメの業務部で行われている入金管理のお話でした。


請求書を発行し、入金予定を確認し、実際の入金と照らし合わせる。


何事もなければ目立たない仕事ですが、会社を続けるうえでは欠かせません。


そして今回は、福原が日々の仕事の中で小さな改善を行いました。


確認するたびに複数の資料を開くのは面倒だから、一か所で状況を把握できるようにする。


ほんの小さな変更ですが、毎月繰り返す仕事だからこそ、その効果は積み重なっていきます。


**改善は、必ずしも社長や上司が指示するものではありません。**


自分の仕事で不便に感じたことを、自分たちで直していく。


そんな社員が増えてきたことも、カナメの成長なのだと思います。


……もっとも、金目は自分が何もしなくて済んだことを、一番喜んでいそうですが(笑)。


次回も、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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