↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第四章 それぞれの場所で
PR
94/172

来年の数字

 2033年11月。


 大阪・本町。


 株式会社カナメでは、翌年の事業計画を考える時期を迎えていた。


 四月に新しい事務所へ移転し、十月には組織の役職体系を見直した。


 開発部長、西田。


 業務部長、高瀬。


 営業部長、小坂。


 三つの部門に、それぞれ責任者が置かれている。


 社員数は三十六名。


 年内の中途採用も、当初の計画に沿って進められていた。


 そんな十一月。


 業務部では、来年の数字を整理する仕事が始まっていた。


     *


「……来年も、採用は続ける予定ですよね」


 福原奈央が、資料を確認しながら尋ねた。


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


「現在の事業計画では、その予定です」


「なるほど」


 福原は、採用計画を開いた。


 今年四月には、新卒社員二名が入社した。


 八月には、初めて一名が退職した。


 その後も、中途採用の活動は続いている。


 採用計画は、退職者が出たからといって変更していない。


 必要な仕事と、今後の事業の見通しを踏まえて、当初の計画どおり進めていた。


「……今年も、いろいろありましたね」


 福原が言った。


「そうですね」


 高瀬は、少し笑った。


「ただ、まだ十一月ですからね」


「……そうでした(笑)」


 二人は笑った。


     *


「来年の採用人数については、どうしましょうか?」


 福原が尋ねた。


「まずは、各部門の人員計画を確認しましょう」


「承知しました」


「必要な役割と、採用する時期を整理したいと思います」


「はい」


 福原は、メモを取った。


「開発部は、西田さんに確認ですね」


「そうですね」


「営業部は、小坂さん」


「はい」


「業務部については、高瀬さんですね」


「そうなりますね」


 福原は、少し笑った。


「……三部長体制になって、確認先がわかりやすくなりましたね」


「そうですね」


 高瀬もうなずいた。


「ただ、役職名が変わっただけで、皆さんの仕事が突然変わったわけではありませんから」


「はい」


「これまでどおり、必要な情報を整理していきましょう」


「承知しました」


     *


 数日後。


 高瀬は、金目へ翌年度の収支見通しを共有していた。


「金目さん、来年の事業計画について、現在の数字を整理しました」


「ありがとうございます」


 金目が答えた。


「どうですか?」


「売上については、今年も計画を上回る見込みです」


「おお、そらよかった」


 金目は、少し笑った。


「ただし、費用も増えています」


「せやな」


 高瀬は、資料を切り替えた。


「まず、人件費です」


「はい」


「社員数が増えていますので、給与や賞与、社会保険料などの負担も増加しています」


「なるほど」


「それから、新事務所の賃料や設備費用です」


「ああ、そっちもあるな」


「はい。以前の事務所より、固定費が増えています」


 金目は、うなずいた。


「……まあ、広なったしな(笑)」


 高瀬も、少し笑った。


「そうですね(笑)」


     *


「でも、今のところ問題ないんやろ?」


 金目が尋ねた。


「はい。現在の売上と利益の見通しでは、予定の範囲内です」


「そらよかった」


「ただ、来年も採用を続けるのであれば、さらに人件費が増えます」


「せやな」


「そのため、売上だけでなく、利益と資金繰りも確認しておきたいと思っています」


「もちろんです」


 金目は、人件費と賃料の欄から、支払い後に残る資金へ目を移した。


「ほな、部門の予定が揃ったら、そこも合わせて見せてもらえますか」


「はい。その形でまとめます」


     *


 十一月中旬。


 カナメでは、翌年度の事業計画について、経営会議が開かれていた。


 参加しているのは、金目、西田、高瀬、小坂。


 十月からの新体制になって、三人の部長が揃って翌年度の計画を検討するのは、今回が初めてだった。


「ほな、来年の見通しを確認しようか」


 金目が言った。


「はい」


 高瀬が資料を共有した。


「まず、現在の収支状況です」


 画面には、今年の売上見込みと、来年の費用計画が並んでいる。


「今年の売上は、計画を上回る見込みです」


「そらよかった」


「ただし、人件費と固定費も増えていますので、利益率については継続して確認が必要です」


「せやな」


 金目は、うなずいた。


     *


「営業部の方はどうですか?」


 金目が尋ねた。


「来年も、受注は増える見込みです」


 小坂が答えた。


「ほう」


「既存のお客様からの追加相談もありますし、新規のお客様との商談も進んでいます」


「なるほど」


「ただ、すべてが正式な契約になっているわけではありませんので」


「せやな」


「受注見込みについては、確度を分けて整理しています」


「ええと思います」


 金目は、うなずいた。


「開発部の方はどうや?」


「今の体制なら、来年も対応できる案件は増やせると思うで」


 西田が答えた。


「ほう」


「ただ、無理に詰め込むんは避けたいな」


「せやな」


「既存案件もあるし、社員の育成も続けなあかん」


「なるほど」


「人が増えたからいうて、すぐにその人数分だけ仕事増やせるわけちゃうからな」


「ほんま、それやな」


     *


「では、営業部の受注見込みと、開発部の対応能力を照らし合わせましょう」


 高瀬が言った。


「そうですね」


 小坂がうなずいた。


「契約の見込み時期も含めて整理します」


「頼むで」


 西田が答えた。


「開発部の方も、案件ごとの対応可能時期をまとめとくわ」


「ありがとうございます」


 高瀬は、資料を確認した。


「そのうえで、必要な人員と費用を整理したいと思います」


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「数字だけ先に決めてもしゃあないしな」


「そうですね」


     *


 高瀬は、営業の受注見込みと、開発が返せる時期を並べた。


 小坂が示したものには、まだ契約になっていない商談も含まれている。費用と比べるときに、その違いが見えるよう、確度の区分を残した。


「これ、全部決まった仕事として足すわけやないな」


 金目が確かめると、小坂がうなずいた。


「はい。時期と確度を分けて、高瀬さんへ渡します」


「開発の予定も、それに合わせて並べるわ」


 西田が答えた。高瀬は、受け取る数字の区分を資料へ書き留めた。


     *


「金目さん、何か気になるところがありますか?」


 高瀬が尋ねた。


「いや、大丈夫です」


 金目は、少し笑った。


「ただ、前とだいぶ変わったなと思って」


「そうですね」


「昔は、俺があれこれ数字見とった気がするわ」


 西田が笑った。


「今も見とるやろ(笑)」


「……まあ、そうやけどな(笑)」


 小坂も、少し笑った。


「でも、各部門で整理してから確認できるようになりましたね」


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「そら、助かるわ」


     *


 数字を合わせる先が揃うと、高瀬は次の資料を開いた。


 計画はまだ検討の途中だった。営業の見込み、開発の対応時期、業務部の支払いを、ここから同じ案へ合わせていく。


「……ほな、次は売上の内訳を見ようか」


 金目が言った。


「はい」


 高瀬が資料を切り替えた。


 画面には、顧客ごとの売上見込みが並んでいる。


     *


「こちらが、現在の主要取引先別の売上構成です」


 高瀬が説明した。


「なるほど」


 金目は、資料を確認した。


 長く取引を続けている顧客。


 最近、新しく契約した顧客。


 そして、今後の追加受注が見込まれる顧客。


 それぞれ、売上への貢献度は異なっていた。


「……やっぱり、こちらのお客様は大きいですね」


 高瀬が言った。


「せやな」


 金目がうなずいた。


「長い付き合いやしな」


 小坂も、資料を確認した。


「現在も、継続して案件をいただいています」


「そらありがたいな」


「はい。来年についても、現時点では契約継続の見込みです」


「なるほど」


     *


「ただ、売上の構成としては、少し偏りがありますね」


 高瀬が言った。


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「特定のお客様の比率が大きいいうことやな」


「はい」


「まあ、そこは前からわかっとったことやけどな」


「そうですね」


 高瀬は、資料を確認した。


「今後も、ほかのお客様との取引を増やしていければと思います」


「せやな」


 小坂がうなずいた。


「営業部でも、新規のお客様との商談は継続しています」


「ええと思います」


 金目は、少し考えた。


「ただ、無理に新しいお客様増やす必要もないで」


「はい」


「ちゃんと対応できる範囲で、少しずつ増やしていけたらええと思う」


「承知しました」


     *


「開発部としても、その方が助かるな」


 西田が言った。


「せやな」


 金目が答えた。


「急に案件増えても、対応する人がおらんかったら困るしな」


「ほんま、それや」


 西田は、少し笑った。


「新しい人が入ってきても、すぐ全部任せられるわけちゃうし」


「そうですね」


 小坂もうなずいた。


「営業部としても、受注できることと、対応できることは分けて考えたいと思っています」


「ええと思います」


 金目は、うなずいた。


     *


 会議では、主要取引先との関係についても確認が行われた。


 現在の契約状況。


 進行中の案件。


 そして、来年の受注見込み。


 いずれも、現時点では大きな問題は確認されていなかった。


 取引先との関係も良好だった。


 金目たちは、通常の経営管理として売上構成を確認し、今後も顧客基盤を広げていく方針を共有した。


 それ以上に、特別な対応が必要だと判断する材料はなかった。


     *


「……ほな、次は費用の方やな」


 金目が言った。


「はい」


 高瀬が資料を切り替えた。


「こちらが、来年の固定費の見込みです」


 画面には、人件費や事務所費用などが並んでいる。


「まず、人件費については、採用計画に沿って増加する見込みです」


「せやな」


「それから、新事務所の賃料については、来年は一年を通して発生します」


「ああ、そうか」


 金目がうなずいた。


「今年は四月からやったもんな」


「はい」


「来年は、十二か月分になるわけやな」


「そうですね」


 金目は、少し笑った。


「……そら、増えるわな(笑)」


 高瀬も、少し笑った。


「そうですね(笑)」


     *


「ただ、移転に伴う一時的な費用については、今年でほぼ完了しています」


 高瀬が続けた。


「なるほど」


「そのため、来年は通常の運営費用を中心に考えられます」


「そらよかった」


 金目は、資料を確認した。


 社員が増えれば、人件費も増える。


 事務所が広くなれば、賃料も増える。


 しかし、それらは会社が仕事を続けるために必要な費用だった。


「……まあ、必要なもんは必要やしな」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


「そのうえで、無理のない収支計画にしていきたいと思います」


「お願いします」


     *


「ちなみに、採用の方はどうや?」


 金目が尋ねた。


「現在の計画に沿って進んでいます」


 高瀬が答えた。


「なるほど」


「年内の中途採用についても、福原さんが調整を進めています」


「そらよかった」


「来年については、各部門の必要人数を確認したうえで、計画へ反映する予定です」


「了解」


 金目は、うなずいた。


「一人辞めたから一人増やす、いう話でもないしな」


「そうですね」


「必要な仕事があって、必要な人がおったら採用したらええと思う」


「承知しました」


     *


 十一月下旬。


 各部門から提出された資料をもとに、翌年度の事業計画案がまとめられていた。


 売上見込み。


 開発部の対応能力。


 採用計画。


 人件費。


 固定費。


 そして、資金繰り。


 それぞれの数字を照らし合わせながら、無理のない計画を作っていく。


「……ほな、最終確認しようか」


 金目が言った。


「はい」


 高瀬が資料を共有した。


     *


 小坂が整理した受注見込みには、商談の確度と時期が残されていた。その横に、西田が確認した対応可能な時期が並ぶ。


 既存の案件を続け、新しく迎えた社員の育成も行う。その時間を抜かずに、来年の仕事を合わせた案だった。


     *


「業務部としては、各部門の計画を踏まえて、費用と資金繰りを整理しています」


 高瀬が言った。


「ありがとうございます」


「現時点の条件では、来年も安定した運営が見込めます」


「そらよかった」


 金目は、少し笑った。


「ただし、計画はあくまで計画ですので」


「せやな」


 高瀬がうなずいた。


「売上や費用が想定と変わった場合には、必要に応じて見直していきます」


「もちろんです」


     *


「……しかし、こうやって見ると」


 金目が言った。


「はい?」


 高瀬が尋ねた。


「来年も、結構いろいろやることあるな(笑)」


 西田が笑った。


「そらそうやろ(笑)」


「せやな」


 金目も笑った。


「まあ、無理せん程度に進めようか」


「そうですね」


 小坂がうなずいた。


「営業部も、必要な仕事を一つずつ進めていきます」


「頼みます」


     *


 会議を終え、金目は、営業の見込みと開発の時期が並んだ箇所を読み直した。


 どちらかの数字を、そのまま会社の約束にするのではない。三人が合わせたものを、次は自分が確認する番だった。


「金目さん、来年度の計画案についてですが」


 高瀬から連絡が入った。


「はい」


「本日の内容を反映して、最終版をまとめます」


「ありがとうございます」


「その後、改めて確認をお願いします」


「了解です」


 金目は、うなずいた。


 高瀬が最終版へ反映する箇所を確かめ、金目は確認する予定を返した。


     *


 十一月末。


 株式会社カナメでは、2034年の事業計画案がまとまりつつあった。


 売上は順調に伸びている。


 社員数も、年内の採用によって増える見込みだった。


 そして、三人の部長が、それぞれの部門の仕事を管理している。


 来年も、今の仕事を続けていく。


 新しい顧客を増やし、必要な社員を迎え、少しずつ会社を成長させていく。


 そのための計画が、形になろうとしていた。


 もちろん、計画どおりに進むとは限らない。


 それでも、会社を続けるためには、今ある情報をもとに判断する必要がある。


 金目は、資料を保存した。


「……ほな、来年もよろしく頼むで」


 その言葉は、まだ始まっていない2034年へ向けたものだった。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメが翌年の事業計画を考えるお話でした。


社員が増え、新事務所へ移転し、三人の部長が揃ったカナメ。


売上も順調に伸びていますが、その一方で、人件費や事務所の賃料など、毎月必要となる費用も増えています。


会社にとって、売上が増えることはもちろん大切です。


しかし、売上が増えたからといって、その分だけ利益が増えるとは限りません。


そして、利益が出ていても、必要なときに資金がなければ、会社の運営は難しくなります。


**売上、利益、資金繰り。それぞれ違う数字を見る必要があるわけですね。**


さて、今回から三人の部長が、それぞれの部門の数字を持ち寄るようになりました。


営業部は受注見込み、開発部は対応能力、業務部は費用と資金繰り。


金目は、それらをもとに会社全体の判断を行います。


以前は一人で考えていたことも、今では組織として進められるようになりました。


……もっとも、数字を見る仕事そのものがなくなったわけではありませんが(笑)。


さて、カナメは来年に向けた準備を進めています。


その計画がどのような一年につながるのか。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。