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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第四章 それぞれの場所で
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92/146

三人の部長

 2033年9月。


 大阪・本町。


 株式会社カナメでは、夏の暑さが少しずつ和らぎ始めていた。


 四月に移転した新事務所にも、社員たちはすっかり慣れている。


 社員数は三十六名。


 八月末には、初めて一人の社員を送り出した。


 しかし、会社の仕事は変わらず続いている。


 開発部では、三つの課がそれぞれの仕事を進めていた。


 営業部では、新しい案件の相談が続いている。


 業務部では、日々の経理や人事の仕事が進められていた。


 そんな九月のある日。


 高瀬は、会社の組織図を見ながら、一つのことを考えていた。


     *


「金目さん、少しご相談してもよろしいでしょうか?」


 高瀬が声をかけた。


「ええですよ。どうしました?」


 金目が答えた。


「現在の役職名称についてなんですが」


「役職名称?」


「はい」


 高瀬は、組織図を共有した。


 開発部。


 業務部。


 営業部。


 三つの部門が並んでいる。


 開発部には、開発一課、開発二課、基盤運用課が設けられていた。


 それぞれの課には、責任者がいる。


 しかし、部門全体を率いる西田の役職名は、以前から変わらずマネージャーだった。


「……ああ、なるほどな」


 金目が言った。


「現在、開発部と業務部では、マネージャーという役職名を使っています」


「せやな」


「ただ、開発部には、すでに三つの課があります」


「そうやな」


「組織の構造を考えると、部長という名称に統一してもよいのではないかと思いまして」


 金目は、少し考えた。


「……確かにな」


     *


「最初は、課長すらおらんかったもんな(笑)」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬が、少し笑った。


「当時は、部門ごとに責任者がいれば十分でしたから」


「せやな」


「それが、今では課も増えています」


「ほんまやな」


 金目は、組織図を眺めた。


 開発部では、西田が部門全体を統括している。


 田村、尾崎、井上が、それぞれの課を率いている。


 日常的な案件の判断は、課長たちが進める。


 西田は、開発部全体の方針や人員配置、部門をまたぐ調整を担っていた。


 すでに、実態としては部長に近い役割だった。


「……ほな、部長に変えてもええんちゃうかな」


 金目が言った。


「ありがとうございます」


「ただ、名前変えるだけやんな?」


「はい。西田さんと私については、職務権限を大きく変更する予定はありません」


「了解」


 金目は、うなずいた。


     *


「それと、もう一つ」


 高瀬が続けた。


「営業部の責任者についても、整理したいと思っています」


「……ああ」


 金目は、少し笑った。


「俺か(笑)」


「はい(笑)」


「せやなあ」


 金目は、資料を確認した。


 営業部の責任者は、現在も金目が兼任している。


 会社が小さかった頃は、それで問題なかった。


 顧客との打ち合わせ。


 案件の見積もり。


 契約条件の確認。


 そして、開発部との調整。


 以前は、金目自身が多くの仕事に関わっていた。


 しかし、今は違う。


 小坂千尋と松井慎吾が営業部の仕事を支え、大本恭平も経験を積んでいる。


 日常的な判断は、営業部の中で進められるようになっていた。


「……そろそろ、任せてもええかもしれんな」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


「実際、営業部の通常業務については、すでに小坂さんを中心に進められていますから」


「せやな」


     *


 その日の午後。


 金目は、西田へ声をかけた。


「西田、ちょっとええ?」


「ええで。どうしたん?」


「営業部のことなんやけど」


「うん」


「そろそろ、責任者をちゃんと置こうかと思ってな」


「……ああ」


 西田は、少し笑った。


「ようやくか(笑)」


「……ようやく言うな(笑)」


 二人は笑った。


「でも、もう普段の仕事は任せとるやろ?」


 西田が言った。


「せやな」


「ほな、責任者もちゃんと決めたらええんちゃう?」


「そう思っとる」


 金目は、うなずいた。


「小坂さんがええかなと思っとるんやけど、どうやろ?」


 西田は、少し考えた。


「ええと思うで」


「ほう」


「開発部との調整も、ようやってくれとるしな」


「せやな」


「何より、無理な納期をそのまま持ってくるようなこともない」


 金目が笑った。


「……そこ、大事やな(笑)」


「大事やで(笑)」


 二人は笑った。


     *


「ただ、本人がやりたいかは別やな」


 金目が言った。


「せやな」


 西田がうなずいた。


「部長になるいうたら、仕事も変わるしな」


「そうやな」


「今までみたいに、自分の担当案件だけ見とったらええわけちゃうし」


「せやな」


 金目は、少し考えた。


「ほな、一回話してみようか」


「それがええと思うで」


     *


 九月中旬。


 金目は、高瀬と西田を交えて、営業部長候補について確認していた。


「候補としては、小坂さんを考えとります」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


「これまでの営業部での役割を考えても、適任だと思います」


「せやな」


 西田も、うなずいた。


「開発部との調整も、ようやってくれとるで」


「なるほど」


 金目は、資料を確認した。


 小坂は、既存顧客との関係を維持しながら、新しい案件の相談にも対応してきた。


 顧客が何を必要としているのかを確認し、開発部と実現方法を整理する。


 そして、会社として引き受けられる条件を考える。


 営業部の中心的な役割を担っていた。


     *


「松井さんも、ようやってくれとるけどな」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬が答えた。


「松井さんは、営業実務の安定性と若手の育成に強みがあります」


「せやな」


「大本さんの指導も、継続して担当されています」


「そうやな」


 西田が、少し考えた。


「どっちが優秀かいう話やなくて、誰が部門全体を見るかやな」


「ほんま、それやな」


 金目は、うなずいた。


「ほな、小坂さんに打診してみようか」


「承知しました」


     *


 数日後。


「小坂さん、少しお時間いただけますか?」


 金目が連絡した。


「はい。大丈夫です」


 小坂千尋が答えた。


 新事務所の小会議室。


 金目は、小坂と向かい合って座っていた。


「……実は、営業部の体制について相談がありまして」


「はい」


「十月から、営業部長をお願いできへんかなと思っとるんです」


 小坂は、少し驚いた様子だった。


「……私ですか?」


「はい」


 金目は、うなずいた。


「これまでも、営業部をよう支えてくれとるし」


「ありがとうございます」


「今後は、部門全体の判断も任せたいと思っとります」


 小坂は、少し考えた。


「……なるほど」


     *


「ただ、もちろん無理にとは言わへんで」


 金目が続けた。


「はい」


「部長になるいうたら、今までと仕事も変わるやろうし」


「そうですね」


「自分の案件だけやなくて、営業部全体を見てもらうことになる」


「はい」


「せやから、本人の考えも聞いておきたいんです」


 小坂は、うなずいた。


「ありがとうございます」


 そして、少し考えた。


「……少し、考える時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


 金目が答えた。


「急いで返事せんでもええですよ」


「ありがとうございます」


「ただ、十月からの体制を考えとるので、今月中には決めたいと思っています」


「承知しました」


     *


 面談を終えたあと。


 小坂は、自分の席へ戻った。


 営業部長。


 これまでも、営業部の仕事を中心となって進めてきた。


 顧客との打ち合わせ。


 案件の調整。


 開発部との連携。


 そして、若手社員への助言。


 しかし、部長になれば、それだけでは済まない。


 営業部全体の業績。


 案件の優先順位。


 人員の配置。


 そして、社員の育成。


 自分が直接担当していない仕事についても、責任を持つことになる。


「……部長か」


 小坂は、小さくつぶやいた。


 責任は増える。


 しかし、それと同時に、営業部を自分の判断で動かせる範囲も広がる。


 小坂は、少し考えた。


 これまで、営業部の仕事を進める中で、改善したいと思っていたこともある。


 顧客との情報共有。


 案件の優先順位。


 そして、若手社員が経験を積める仕事の任せ方。


 それらを、部門全体の方針として考えることができるかもしれない。


「……悪くないかもしれないわね」


 小坂は、少し笑った。


 そして、営業部の案件一覧を開いた。


 今すぐ返事をする必要はない。


 ただ、引き受けるのであれば、どのような営業部にしたいのか。


 それを、少し考えてみようと思った。


     *


 九月中旬。


 金目は、小坂との面談結果を高瀬へ共有していた。


「小坂さん、少し考えたいそうです」


「そうですか」


 高瀬がうなずいた。


「それがよいと思います」


「せやな」


「部門責任者になるというのは、大きな変化ですから」


「そうですね」


 金目は、少し笑った。


「……まあ、俺としては引き受けてもろたら助かるんやけどな(笑)」


 高瀬も笑った。


「そうですね(笑)」


「でも、無理にお願いするもんでもないしな」


「はい」


 金目は、うなずいた。


「ほな、返事を待とうか」


 高瀬も、うなずいた。


 カナメの組織は、少しずつ変わろうとしていた。


 マネージャーから部長へ。


 そして、社長が兼任していた営業部の責任者を、新しい部長へ。


 ただし、その役職を引き受けるのは、そこにいる一人の社員だった。


 小坂がどのような答えを出すのか。


 金目たちは、その返事を待つことにした。


     *


 九月下旬。


 株式会社カナメの営業部では、いつもどおりの仕事が進められていた。


 顧客との打ち合わせ。


 新しい案件の相談。


 そして、開発部との調整。


 小坂千尋は、それらの仕事を進めながら、数日前に金目から受けた話について考えていた。


 営業部長への就任。


 これまでも、営業部の中心となって仕事を進めてきた。


 しかし、正式に部長となれば、営業部全体の責任を持つことになる。


 自分の担当案件だけではない。


 松井や大本が担当する案件も含めて、部門全体を見なければならない。


 そして、必要なときには、自分が判断することになる。


 小坂は、営業部の案件一覧を見直した。


「……やることは増えるわね」


 少し笑った。


 ただ、それは必ずしも悪いことではなかった。


     *


「小坂さん、少しよろしいですか?」


 松井慎吾が声をかけた。


「はい。どうしました?」


「来月からの案件配分について、確認したいことがありまして」


「そうですね」


 小坂は、資料を開いた。


「大本さんの担当を、少し増やしてもよいかもしれませんね」


「私も、そう考えていました」


 松井がうなずいた。


「最近は、お客様との打ち合わせも、以前より落ち着いて進められていますから」


「そうですね」


「ただ、まだ契約条件の確認については、少し支援が必要だと思います」


「そうですね」


 小坂は、少し考えた。


「では、担当案件は増やしても、最終的な条件確認は松井さんにも入っていただきましょうか」


「承知しました」


「本人にも、一度相談してみます」


「お願いします」


     *


 松井が戻ったあと。


 小坂は、資料を見直した。


 誰に、どの仕事を任せるのか。


 どこまで本人に判断してもらうのか。


 そして、どの部分を周囲が支えるのか。


 これまでも、そうしたことを考えてきた。


 しかし、最終的な部門責任者は金目だった。


 これからは、自分がその立場になる。


「……そういうことなのね」


 小坂は、小さくつぶやいた。


 部長になるということは、自分が偉くなることではない。


 営業部の仕事が、無理なく進むようにすること。


 そして、そこで働く人たちが、それぞれの役割を果たせるようにすること。


 そのために、必要な判断を引き受けることだった。


     *


 数日後。


「金目さん、先日のお話ですが」


 小坂から連絡が入った。


「はい。どうされました?」


「営業部長の件、お引き受けしたいと思います」


「……おお!」


 金目は、少し笑った。


「ありがとうございます」


「こちらこそ、お声がけいただきありがとうございます」


「いやあ、助かりますわ」


 金目は、うなずいた。


「ただ、一つお願いがあります」


「何でしょう?」


 小坂は、少し考えた。


「営業部の判断は、私に任せていただけますか?」


「もちろんです」


 金目が答えた。


「そのためにお願いしとるわけですし」


「ありがとうございます」


「ただ、具体的には、どういうところを考えとります?」


     *


「例えば、案件の優先順位や担当者の配置です」


 小坂が答えた。


「なるほど」


「営業部の中で判断できることは、私の責任で進めたいと思っています」


「ええと思います」


「もちろん、会社全体に影響する契約や、大きな経営判断については、これまでどおりご相談します」


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「そこは、ちゃんと分けといた方がええな」


「はい」


「あと、金目さん」


「はい?」


「金目さんが直接お客様とお話しされることもあると思います」


「……ああ、せやな」


「その際には、営業部にも内容を共有していただきたいんです」


 金目は、少し考えた。


「……なるほどな」


「私が営業部の責任を持つ以上、知らないところで話が決まっているのは困りますので」


「……そらそうやな」


 金目は、うなずいた。


「それは、俺が気をつけなあかんな」


「ありがとうございます」


     *


「……そういや、こないだも似たようなこと言われたな(笑)」


 金目が言った。


「そうなんですか?」


 小坂が尋ねた。


「社内チャットの書き方について、福原さんから改善してほしい言われてな」


「ああ」


 小坂は、少し笑った。


「そうだったんですね」


「思いつきで書いたことが、正式な指示やと思われとったらしくて」


「なるほど」


「……俺、知らんうちに仕事増やしとったんよ(笑)」


 小坂が笑った。


「それは、気をつけていただきたいですね(笑)」


「……ほんま、それや(笑)」


 二人は笑った。


     *


「ほな、営業部の権限については、高瀬さんとも整理しときます」


 金目が言った。


「ありがとうございます」


「部長として必要な判断は、小坂さんに任せる」


「はい」


「ただし、決裁範囲を超える案件は、これまでどおり経営側で確認する」


「承知しました」


「それと、待遇の方も正式に見直しますので」


「ありがとうございます」


 小坂は、うなずいた。


「では、十月からよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


     *


 九月下旬。


 金目は、西田、高瀬とともに、十月一日付の人事発令を確認していた。


 組織図には、三つの部門が並んでいる。


 開発部。


 業務部。


 営業部。


 それぞれの部門に、新しい役職名が記載されていた。


「……ほな、これでええな」


 金目が言った。


「はい」


 高瀬がうなずいた。


「西田さんと私については、マネージャーから部長への名称変更です」


「せやな」


「職務権限と待遇については、原則として従来どおりです」


「了解」


「小坂さんについては、新たに営業部長へ就任されますので、権限と待遇を正式に設定します」


「ありがとうございます」


     *


「……ほな、俺も部長になるんか」


 西田が言った。


「せやで」


 金目が答えた。


「取締役兼開発部長やな」


「なるほど」


 西田は、少し考えた。


「……役員報酬は上がるん?(笑)」


 金目が笑った。


「肩書変わるだけやで?(笑)」


「……夢がないなあ(笑)」


 高瀬も、少し笑った。


「役員報酬は、肩書の変更だけで決めるものではありませんからね(笑)」


「……ほら、怒られた(笑)」


 金目が言った。


 西田も笑った。


「……まあ、わかっとるけどな(笑)」


 三人は笑った。


     *


「しかし、これで部長が三人になるんやな」


 金目が言った。


「そうですね」


 高瀬が答えた。


「開発部長が西田さん」


「うん」


「業務部長が私」


「せやな」


「そして、営業部長が小坂さんです」


「……なるほどな」


 金目は、組織図を眺めた。


 以前は、マネージャーという役職で部門を率いていた。


 課長もいなかった。


 しかし、今では開発部に三つの課がある。


 それぞれに責任者がいて、日常的な仕事を進めている。


 そして、三つの部門にも、正式な責任者が置かれることになった。


「……ようけ変わったな」


 金目が言った。


 西田がうなずいた。


「せやな」


「最初は、こんな組織図になると思ってへんかったわ」


「ほんまやな」


     *


 数日後。


 営業部では、十月一日付の人事について共有が行われていた。


「皆さん、少しよろしいでしょうか?」


 小坂が声をかけた。


 松井慎吾と大本恭平が、画面に目を向けた。


「十月一日付で、営業部長を務めることになりました」


「……おお!」


 大本が、少し驚いた。


「小坂さん、部長になるんですか!」


「そういうことになったわ」


 小坂は、少し笑った。


「これからも、よろしくお願いします」


「おめでとうございます」


 松井が言った。


「ありがとうございます」


「今後とも、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


     *


「……ほな、金目さんは?」


 大本が尋ねた。


 小坂が、少し首をかしげた。


「社長でしょ(笑)」


「……あ、せやった(笑)」


 松井が笑った。


「大本さん、金目さんは社長を辞めるわけではありませんよ(笑)」


「いや、そういう意味ちゃうんですけど(笑)」


 大本は、少し照れたように笑った。


 小坂も笑った。


「金目さんは、これから社長の仕事に専念されることになります」


「なるほど」


「営業部の通常業務については、私が責任を持って進めます」


「了解です!」


 大本が答えた。


     *


「ただ、これまでと仕事の進め方が大きく変わるわけではありません」


 小坂が続けた。


「はい」


 松井がうなずいた。


「これまでも、皆さんと相談しながら仕事を進めてきましたから」


「そうですね」


「今後は、営業部として判断する範囲が、より明確になると思います」


「なるほど」


 小坂は、少し考えた。


「それと、大本さん」


「はい?」


「来月から、担当案件を少し増やそうと思っています」


「……おお!」


 大本は、少し驚いた。


「大丈夫そうですか?」


「はい! 頑張ります!」


 小坂が笑った。


「無理に増やすつもりはありませんからね(笑)」


「……了解です(笑)」


 松井も、少し笑った。


     *


 九月末。


 金目は、新しい組織図を確認していた。


 代表取締役社長。


 その下に、三つの部門。


 開発部長、西田。


 業務部長、高瀬。


 営業部長、小坂。


 開発部には、三つの課と、それぞれの課長がいる。


 営業部では、小坂が部門全体を率いる。


 業務部では、高瀬が、引き続き人事や経理、総務を統括する。


 金目は、長く兼任してきた営業部の責任者を手放すことになった。


「……これで、ようやく社長一本やな」


 金目は、少し笑った。


     *


「金目さん、組織図の確認は終わりましたか?」


 高瀬から連絡が入った。


「はい。問題ないと思います」


「ありがとうございます」


「……しかし、これで仕事減るんかな?(笑)」


 金目が言った。


 高瀬は、少し笑った。


「どうでしょうね(笑)」


「……やっぱり?(笑)」


「営業部の通常業務は、小坂さんにお任せできますが」


「うん」


「会社全体の経営については、引き続き金目さんのお仕事ですから」


「……せやな(笑)」


 二人は笑った。


     *


 金目は、もう一度だけ組織図を見直した。


 三人の部長。


 それぞれが、自分の部門を率いる。


 そして、その下には、自分たちの仕事を進める社員たちがいる。


 会社が大きくなったから、肩書を増やしたわけではない。


 すでに変わっていた仕事と責任の形に、正式な名前を与えた。


 それだけのことだった。


 しかし、その変化は、金目にとっても小さなものではなかった。


 これまで自分が担っていた営業部の責任を、正式に人へ任せる。


 その判断を、金目はようやく下した。


 十月一日。


 株式会社カナメは、三人の部長を持つ会社になる。


 金目は、少し笑った。


「……ほな、頼んだで」


 その言葉は、新しい組織図に並ぶ三人へ向けたものだった。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメの役職体系が変わるお話でした。


これまで使ってきた「マネージャー」という役職を「部長」へ改称し、小坂が新たに営業部長へ就任することになりました。


西田と高瀬は、実際の仕事はほとんど変わりません。


一方、小坂は、これまで金目が担っていた営業部全体の責任を引き受けることになります。


さて、今回大切にしたかったのは、**責任を任せるなら、それに必要な権限も渡すこと**です。


責任だけ増えて、判断するたびに上司の承認が必要では、なかなか仕事は進みません。


小坂が金目に求めたのも、まさにその部分でした。


そして金目も、ようやく営業部長の兼任を解消することに。


……これで少しは楽になるのでしょうか(笑)。


もっとも、西田は肩書が変わっても役員報酬はそのまま。


どうやら、こちらも簡単には増えないようです(笑)。


さて、十月からは三人の部長が、それぞれの部門を率いることになります。


会社の規模に合わせて、組織の形も少しずつ変わっていく。


そんなカナメの成長を、これからも描いていきたいと思います。


次回も、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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