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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第三章 任せた先にあるもの
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83/143

次の場所

 2033年1月。


 大阪・本町。


 新しい年を迎えた株式会社カナメでは、いつもどおりの仕事が始まっていた。


 昨年末、社員数は三十五名に達した。


 四月には新卒社員二名が入社し、年末には四十名体制を目指している。


 そして、今年はもう一つ、大きな予定があった。


 事務所の移転である。


 現在の本町事業所から、それほど離れていない場所へ。


 四月一日の開設を目指し、前年から準備が進められていた。


     *


「金目さん、事務所移転の件ですが」


 一月上旬。


 高瀬が、年明け最初の経営会議で報告した。


「はい。どうなりました?」


「第一候補の物件について、契約条件の最終調整を進めています」


「ありがとうございます」


 金目は、資料を開いた。


 昨年十二月に選んだ第一候補。


 現在の事務所から徒歩圏内にあり、社員の通勤経路も大きく変わらない。


 会議室を複数設けることができ、今後の社員数にも対応できる見込みだった。


「四月一日には間に合いそう?」


 金目が尋ねた。


「現時点では、予定どおり進められる見込みです」


「そらよかった」


「ただし、内装工事と通信回線の手配については、早めに確定する必要があります」


「なるほどな」


 金目は、少し考えた。


「通信回線は、時間かかることあるもんな」


「そうですね」


「そこは西田さんとも確認してもらえる?」


「はい。すでに相談を進めています」


「了解」


 高瀬は、次の資料を表示した。


「それと、契約条件の最終確認に合わせて、事務所のレイアウトも固めたいと考えています」


「せやな」


「福原さんが、各部署の要望を整理しています」


「ありがとうございます」


 金目は、少し笑った。


「……みんな、いろいろ欲しいもんありそうやな(笑)」


 高瀬も笑った。


「そうかもしれませんね」


     *


 数日後。


 福原奈央は、開発部の課長たちと、新事務所のレイアウトについて話していた。


 西田のほか、田村洋介、尾崎達也、井上修一が参加している。


「今日は、新しい事務所について、必要な設備を確認させてください」


 福原が言った。


「了解」


 西田が答えた。


「まず、執務席についてなんですが」


 福原は、資料を共有した。


「現在は、およそ十五席です」


「せやな」


「新事務所では、四十名体制を想定していますが、全員分の固定席を設ける必要はないと考えています」


 田村がうなずいた。


「普段はリモートで仕事しとる人も多いからな」


「そうですね」


 福原は、続けた。


「ただ、出社日が重なる場合もありますので、どのくらいの席が必要か確認したいんです」


「なるほど」


 尾崎が、少し考えた。


「小さい案件やと、担当者同士で集まって確認したいときもあるからな」


「はい」


「でも、毎日全員が出社するわけちゃうし」


「そうですね」


 田村も口を開いた。


「大型案件の方は、設計の相談とかで出社日を合わせることがあるで」


「なるほど」


「そのときに席が足らんかったら困るけど、普段はそこまで必要ないと思う」


「はい」


 福原は、メモを取った。


「では、固定席を増やすより、出社状況に応じて使える席を確保する形がよさそうですね」


「せやな」


 西田がうなずいた。


「フリーアドレスにした方が使いやすいかもしれんな」


「そうですね」


     *


「井上さんのところは、いかがでしょうか?」


 福原が尋ねた。


「運用の方は、ちょっと事情が違うかな」


 井上が答えた。


「どういうことでしょうか?」


「普段はリモートでも対応できるんやけど、障害が起きたときに、複数人で確認したいことがあるんよ」


「なるほど」


「そのときに、落ち着いて作業できる場所があると助かるな」


 福原は、うなずいた。


「専用の部屋が必要でしょうか?」


「いや、そこまではいらんと思う」


 井上は、少し考えた。


「必要なときに使える場所があればええんよ」


「なるほど」


「ただ、機材とか資料を置く場所は、ちゃんと確保したいな」


「そうですね」


 西田がうなずいた。


「そこはセキュリティも考えなあかんしな」


「せやな」


 井上も、うなずいた。


 福原は、資料へ項目を追加した。


 障害対応時に利用できる作業場所。


 機材の保管場所。


 そして、必要な設備の管理。


「ありがとうございます。そこも含めて検討します」


     *


「ちなみに、会議室についてはどうでしょうか?」


 福原が尋ねた。


 田村が、少し笑った。


「そこが一番欲しいところやな」


「そうですね」


 福原もうなずいた。


「今は一室しかありませんので」


「大型案件の設計相談で、何人か集まって画面を見ながら話したいことがあるんよ」


 田村が言った。


「なるほど」


「オンラインでもできるけど、対面の方が進めやすいこともあるからな」


「はい」


 尾崎も口を開いた。


「こっちは、そこまで大きい部屋はいらんかな」


「そうなんですか?」


「せやな。二、三人でちょっと相談できる場所があったら助かるわ」


「なるほど」


「大きい会議室を使うほどでもない話も多いしな」


 福原は、メモを取った。


「では、大きい会議室と、小さい会議室の両方が必要そうですね」


「そうやな」


 西田がうなずいた。


「あと、研修にも使える場所があるとええな」


「はい。そこは業務部としても必要だと考えています」


 福原が答えた。


「新卒研修や採用面接もありますので」


「せやな」


 田村が、少し考えた。


「……しかし、全部用意しようとしたら、結構な広さになるな」


「そうですね」


 福原も、少し笑った。


     *


 一月中旬。


 西田は、田村、尾崎、井上とともに、各課の要望を整理していた。


「……こうして並べると、結構あるな」


 西田が言った。


 画面には、新事務所で必要とされている設備が並んでいる。


 執務席。


 大型案件の設計相談スペース。


 小型案件の打ち合わせ場所。


 障害対応時の作業場所。


 研修スペース。


 採用面接用の会議室。


 そして、機材の保管場所。


「……全部別の部屋作っとったら、えらいことになるな(笑)」


 西田が、少し笑った。


「せやな」


 田村もうなずいた。


「でも、全部同時に使うわけでもないやろ?」


「そうなんよ」


 西田は、資料を確認した。


「例えば、大型案件の設計相談と、研修やったら、同じ場所を使えるかもしれん」


「なるほど」


 尾崎がうなずいた。


「小さい打ち合わせも、専用の部屋が必要いうわけちゃうしな」


「せやな」


 井上も口を開いた。


「運用の方も、障害が起きたときに使えたらええから、普段は別の用途でも問題ないで」


「なるほど」


 西田は、少し考えた。


「ほな、必要な部屋の数を増やすんやなくて、どう使い回せるか考えようか」


「せやな」


 田村がうなずいた。


「ただ、使いたいときに全部埋まっとったら意味ないけどな(笑)」


「……それはそうやな(笑)」


 四人は笑った。


     *


 その日の午後。


 西田は、福原へ整理した内容を共有した。


「福原さん、ちょっとええ?」


「はい。どうされました?」


「さっき、各課の要望を整理してみたんやけど」


「ありがとうございます」


 西田は、資料を共有した。


「専用の部屋が必要なものと、兼用できるものを分けてみたんよ」


「なるほど」


「設計相談とか、研修とか、短時間の打ち合わせとかやな」


「はい」


「全部別の部屋にする必要はないと思う」


 福原は、資料を確認した。


「確かに、用途を兼ねられる場所もありそうですね」


「せやろ?」


「ただ、採用面接と研修が重なる場合もありますので、そこは注意したいですね」


「せやな」


 西田がうなずいた。


「必要なときに使えるように、ある程度余裕は持たせたいな」


「そうですね」


 福原は、少し考えた。


「では、利用頻度と同時利用の可能性を整理して、レイアウト案を作ってみます」


「お願いします」


     *


 福原は、資料を更新した。


 最初は、各部署が必要としている設備を、そのまま一覧にしていた。


 しかし、話を聞いていくうちに、少し違うことが見えてきた。


 必要なのは、必ずしも専用の部屋ではない。


 複数人で相談できる場所。


 集中して作業できる場所。


 新人を迎え、仕事を教えられる場所。


 そして、必要な機材を安全に管理できる場所。


 そうした機能があれば、必ずしも用途ごとに部屋を分ける必要はなかった。


「……なるほど」


 福原は、少し笑った。


 事務所のレイアウトを考えることは、単に机や会議室を並べることではない。


 社員たちが、どのように仕事を進めているのか。


 そして、これからどのように働きたいのか。


 それを整理する仕事でもあった。


 福原は、まとめた資料を保存した。


 次は、この要望をもとに、実際のレイアウト案を確認する予定だった。


     *


 一月中旬。


「……これ、結構部屋あるな(笑)」


 金目は、福原から共有された新事務所のレイアウト案を眺めていた。


 画面には、各部署から集めた要望が並んでいる。


 大型案件の設計相談に使う会議室。


 小規模案件の打ち合わせ場所。


 採用面接用の部屋。


 新卒研修のためのスペース。


 そして、障害対応時に利用する作業場所。


 それぞれの要望を、そのまま形にしようとすると、かなりの広さが必要になりそうだった。


「各部署からいただいた要望を、いったん整理してみました」


 福原奈央が説明した。


「なるほどな」


 金目は、資料を確認した。


「ちなみに、これ全部同時に使うんかな?」


「そこなんですが」


 福原は、次の資料を表示した。


「西田さんたちとも相談して、用途を兼ねられる場所を整理してみました」


「ほう」


「例えば、大型案件の設計相談と、新卒研修は、同じスペースを利用できる場合があります」


「なるほど」


「短時間の打ち合わせについても、専用の部屋をそれぞれ用意する必要はなさそうです」


 金目は、うなずいた。


「それでええと思うで」


 高瀬も、資料を確認した。


「利用頻度を考えると、専用の部屋を増やすより、兼用できる構成の方が費用も抑えられそうですね」


「せやな」


 金目は、少し笑った。


「部屋が多い方が立派には見えるかもしれんけど、使わへん部屋ばっかりあってもしゃあないしな(笑)」


     *


「では、基本の構成をご説明します」


 福原が、修正したレイアウト案を表示した。


「まず、一般の執務エリアです」


「はい」


「こちらは、二十四席のフリーアドレスを想定しています」


「二十四席か」


 金目は、少し考えた。


「今年末には四十人になる予定やけど、足りそう?」


「はい。普段の出社状況を考えると、対応できる見込みです」


「なるほど」


「ただし、出社が重なる日については、事前に調整する必要があります」


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「まあ、全員が毎日出社するわけちゃうしな」


「そうですね」


 福原は、次の項目を示した。


「会議室は、八名用を一室、四名用を二室です」


「なるほど」


「それと、個室ブースを二室設けます」


「ほう」


「オンライン会議や、集中して作業したいときに使えるようにしたいと考えています」


「ええやん」


 金目は、少し笑った。


「今より、だいぶ使いやすなりそうやな」


「はい」


「オープンスペースについては、研修や交流会にも利用できる構成にしています」


「なるほどな」


 福原は、少し考えた。


「ただ、全社員が出社する場合には、少し工夫が必要になります」


「そうなん?」


「はい。常設席だけでは、全員が同時に座れませんので」


 金目は、少し考えた。


「……ちなみに、全員出社するんって、年に何回くらいやったっけ?」


「年に二回程度ですね」


「……二回か」


 金目は、少し笑った。


「ほな、そのときだけ椅子出したらええんちゃう?」


「椅子、ですか?」


「折りたたみのやつや」


 福原は、少し考えた。


「なるほど。オープンスペースに並べる形ですね」


「せやな」


「全社会議みたいに、座って話を聞くんが中心なら、それで十分ちゃうかな」


 高瀬がうなずいた。


「常設席を増やすより、費用とスペースを抑えられますね」


「せやろ?」


 金目は、少し笑った。


「年二回のために、十席も増やすんはもったいないやん(笑)」


 福原も笑った。


「では、折りたたみ椅子を収納できる場所も確保しておきます」


「お願いします」


「ただし、全員が集まれる広さと、避難経路については確認しますね」


「もちろんや」


 金目がうなずいた。


「安全に使えへんかったら意味ないからな」


     *


「それと、もう一点あります」


 福原が言った。


「業務部の執務席についてなんですが」


「はい」


「一般のフリーアドレスとは、少し分けたいと考えています」


「ほう。何か理由あるん?」


「給与や人事情報を扱いますので、周囲から画面が見える環境は避けたいんです」


「ああ、なるほど」


 金目がうなずいた。


 高瀬も口を開いた。


「経理や契約関連の情報もありますからね」


「せやな」


「書類の保管や、電話でのやり取りについても、一定の機密性を確保したいと考えています」


「なるほど」


 福原は、レイアウト案の一角を示した。


「こちらに、四席ほどの独立した区画を設けたいと思っています」


「ええと思うで」


 金目は、すぐに答えた。


「そこは、ちゃんと分けといた方がええな」


「ありがとうございます」


「ただ、業務部の人がずっと閉じこもっとる必要はないと思うで」


「はい」


 福原がうなずいた。


「普段の相談や打ち合わせは、これまでどおり行えるようにします」


「それならええわ」


 金目は、少し笑った。


「情報を守るために分けるんであって、人を分けたいわけちゃうからな」


「そうですね」


 高瀬も、うなずいた。


     *


「それから、金目さんの席なんですが」


 福原が続けた。


「……俺?」


 金目が聞き返した。


「はい。専用席を一つ用意したいと思っています」


「別に、フリーアドレスでもええで?」


 金目は、少し笑った。


「そうなんですが、金目さんは資料や機材を使う機会も多いですし」


「なるほど」


「それに、社員の方が相談に来られることもありますので」


 金目は、少し考えた。


「……まあ、確かにそうやな」


 高瀬も、少し笑った。


「専用席があった方が、使いやすいと思います」


「ほな、一席だけお願いします」


「承知しました」


「ただ、部屋はいらんで(笑)」


 福原が笑った。


「はい。社長室は設けない予定です」


「それでええわ」


 金目は、うなずいた。


「必要なときは、会議室か個室ブースを使えばええしな」


「そうですね」


     *


 福原は、席数の一覧を確認した。


「では、現在の案では、一般席が二十四席、業務部が四席、金目さんの専用席が一席です」


「……二十九席か」


 金目が、少し笑った。


「なんか、中途半端やな(笑)」


 高瀬が笑った。


「そうですね」


「いや、別に数を揃えたいわけちゃうんやけどな」


 金目は、少し考えた。


「……でも、もう一席あってもええかもしれんな」


 福原が尋ねた。


「どのような用途でしょうか?」


「俺の席の近くに、ちょっと相談できる席を置いたらどうやろ?」


「なるほど」


「誰かと資料を見ながら話すこともあるやろし」


「そうですね」


 福原がうなずいた。


「普段は共用席として利用できるようにしましょうか」


「せやな」


「では、多目的席を一席追加します」


「お願いします」


 高瀬が、資料を確認した。


「これで、常設席は三十席ですね」


「……おお、切りええな(笑)」


 金目が笑った。


 福原も、少し笑った。


「結果的に、そうなりましたね」


「せやな(笑)」


     *


 一月下旬。


 新事務所の基本レイアウト案がまとまった。


 一般執務エリアは、二十四席のフリーアドレス。


 業務部には、四席の独立した執務区画。


 金目の専用席が一席。


 そして、その近くに多目的席が一席。


 常設席は、合計三十席となった。


 会議室は、八名用が一室、四名用が二室。


 個室ブースが二室。


 さらに、研修や交流会にも利用できるオープンスペースを設ける。


 機材や重要書類については、施錠できる場所を確保する。


 全社員が集まる際には、オープンスペースに折りたたみ椅子を並べる。


 普段の仕事に必要な設備を確保しながら、利用頻度の低いものは、必要なときだけ使えるようにする構成だった。


     *


「ほな、最終案を確認しようか」


 金目が言った。


 高瀬、福原、西田が参加する会議で、レイアウト案が共有されていた。


「一般席が二十四、業務部が四、社長席が一、多目的席が一やな」


「はい」


 福原が答えた。


「会議室は三室、個室ブースが二室です」


「なるほど」


 西田が、資料を確認した。


「開発部としても、これなら使いやすそうやな」


「そらよかった」


「運用の機材を置く場所も確保できとるし」


「せやな」


 高瀬も、うなずいた。


「費用についても、当初の想定範囲内です」


「了解」


 金目は、資料を見直した。


 必要な機能は揃っている。


 しかし、使わない部屋を増やしているわけではない。


 社員が集まる場所もある。


 機密情報を扱う場所は、きちんと分けている。


 そして、自分のための専用の部屋はない。


「……ええんちゃうかな」


 金目が言った。


「では、この構成で進めます」


 福原が答えた。


「お願いします」


 高瀬も、資料を確認した。


「契約と内装工事の準備についても、この案をもとに進めます」


「了解」


     *


 会議を終えたあと。


 金目と西田は、現在の本町事業所で話していた。


「……しかし、今の事務所もようけ使ったな」


 金目が言った。


「せやな」


 西田が答えた。


「最初は、ここでも十分やったんやけどな」


「ほんまやな」


 金目は、執務スペースを見渡した。


 十五席ほどの机。


 一つの会議室。


 そして、オープンスペース。


 この場所で、社員たちは仕事を進めてきた。


 新しい仲間を迎え、仕事を覚え、少しずつ担当する範囲を広げてきた。


 しかし、社員は三十五名になった。


 今年末には、四十名を目指している。


「……次の事務所は、だいぶ使いやすなりそうやな」


 西田が言った。


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「仕事しやすなったら、それでええわ」


「ほんま、それやな」


 西田は、少し笑った。


「でも、社長室は作らへんのやな」


「……何に使うん?(笑)」


 金目が聞き返した。


「いや、社長やし(笑)」


「社長やったら、部屋いるん?(笑)」


「……まあ、別にいらんか(笑)」


 二人は笑った。


「必要になったら、そのとき考えるわ」


 金目が言った。


「せやな」


 西田がうなずいた。


「今は、みんなが仕事しやすい場所があればええんやろ?」


「そういうことやな」


     *


 新しい事務所は、まだ完成していない。


 契約や内装工事、通信回線の手配など、これから進める仕事も残っている。


 しかし、そこでどのように働くのかは、少しずつ形になってきた。


 誰かと相談する場所。


 集中して仕事を進める場所。


 新しい社員を迎え、仕事を教える場所。


 そして、大切な情報を守る場所。


 すべてを同じ場所にする必要はない。


 しかし、何でも別々の部屋にする必要もない。


 必要なところは分け、共用できるところは共用する。


 株式会社カナメの新しい事務所は、そんな考え方で作られようとしていた。


 四月一日。


 新しい仲間を迎える日。


 その日から、カナメは新しい場所で仕事を始めることになる。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメの新しい事務所についてのお話でした。


昨年末、三十五名体制となったカナメ。


今年末には四十名を目指しており、現在の本町事業所では、会議室や研修スペースの不足が目立つようになってきました。


そこで、四月一日の新事務所開設に向けて、具体的な準備が進んでいます。


さて、今回の中心となったのは、新事務所のレイアウトでした。


新しい事務所を用意するとなれば、各部署からさまざまな要望が出てきます。


大きな会議室が欲しい。


少人数で相談できる場所が欲しい。


集中して仕事を進められる場所が欲しい。


研修に使えるスペースも必要。


……こうして並べてみると、いくら広くても足りなくなりそうですね(笑)。


しかし、今回のカナメでは、要望された設備をそのまま全部用意することにはしませんでした。


まず、それぞれの場所で何をしたいのかを確認する。


そのうえで、同じ場所を別の用途にも使えないか考える。


そうして、必要な機能を満たしながら、無駄なスペースを増やさないようにしました。


**欲しいものを全部揃えることと、必要なことができる環境を整えることは、必ずしも同じではありません。**


今回は、そんな考え方を描きたかったわけです。


さて、新事務所の常設席は三十席になりました。


一般社員向けのフリーアドレスが二十四席。


業務部の専用席が四席。


金目の専用席が一席。


そして、多目的席が一席。


今年末には四十名体制を目指しているのに、常設席は三十席しかありません。


……足りないのでは、と思われるかもしれませんね。


しかし、カナメではリモート勤務を併用しています。


全員が毎日出社するわけではありません。


そして、全社員が一度に集まる機会は、年に二回程度。


そのためだけに、普段使わない机や椅子を十席分も常設する必要があるのか。


金目は、そう考えたわけです。


そこで登場したのが、折りたたみ椅子でした。


……実に金目らしい解決方法ですね(笑)。


もちろん、全員が集まれる広さや、安全に利用できることは確認する必要があります。


ただ、全社会議のように短時間座って話を聞くのであれば、必ずしも一人一台の机が必要とは限りません。


普段は必要な席だけを用意し、必要なときだけ増やす。


そんな使い方も、合理的なのではないでしょうか。


そして、今回もう一つ大切にしたかったのが、業務部の執務エリアです。


給与や賞与、人事情報、経理や契約に関する資料。


こうした情報は、誰でも自由に見られてよいものではありません。


そのため、業務部には一般の執務エリアとは分けた、独立した区画を設けることにしました。


ただし、業務部の社員をほかの社員から遠ざけたいわけではありません。


あくまで、扱う情報を適切に守るための区分です。


金目も「情報を守るために分けるんであって、人を分けたいわけちゃう」と話していました。


このあたりは、効率だけでなく、情報の取り扱いにも配慮した判断だったと思います。


さて、今回の金目。


専用席は用意することになりましたが、社長室は作りませんでした。


……社長室、欲しくないんでしょうかね(笑)。


もっとも、金目にとっては、社長だからという理由だけで部屋を用意する必要はないのでしょう。


普段の仕事は一般の執務エリアで進める。


機密性が必要な打ち合わせは、会議室や個室ブースを利用する。


それで仕事に支障がないのであれば、専用の部屋を作る理由もありません。


一方で、専用席については、資料や機材を使うこと、社員が相談に来ることなどを考えて用意することにしました。


つまり、社長だから特別扱いするのではなく、仕事に必要だから席を用意する。


ここにも、金目らしい判断が表れているように思います。


……もっとも、最後には二十九席という中途半端な数字が気になって、三十席にしていましたけどね(笑)。


幸い、追加した一席にも相談用という使い道がありました。


数合わせだけで増やしたわけではない、ということにしておきましょう(笑)。


さて、今回の新事務所。


会議室は三室。


個室ブースは二室。


研修や交流会にも利用できるオープンスペース。


そして、機密情報を扱うための独立した業務部エリア。


以前の事務所と比べると、ずいぶん機能が充実しました。


しかし、単に広く立派になったというだけではありません。


社員がどのように仕事を進めているのか。


誰と相談し、どのような情報を扱い、どんなときに集まるのか。


そうした働き方を考えた結果として、この形になりました。


**事務所のレイアウトを決めることは、働き方を考えることでもある。**


今回は、そんなお話だったと思います。


さて、四月一日の新事務所開設まで、あと二か月ほど。


契約や内装工事、通信回線の準備など、まだまだやることは残っています。


しかも、四月には新卒社員二名も入社する予定です。


新しい場所で、新しい仲間を迎える。


カナメにとって、また一つ大きな節目になりそうですね。


……もっとも、引っ越しの準備をする人たちは、なかなか大変そうですが(笑)。


次回も、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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