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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第三章 任せた先にあるもの
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知らない仕事

 2032年10月。


 株式会社カナメでは、今年も社員が増え続けていた。


 四月には四名の新卒社員が入社し、中途採用も順調に進んでいる。


 開発部では、大型案件を担当する開発一課、小型案件を担当する開発二課、そして基盤運用課が、それぞれの仕事を進めていた。


 以前と比べれば、会社として対応できる仕事は確実に増えている。


 その一方で、金目が直接関わらない仕事も、少しずつ増えていた。


     *


「……あれ?」


 金目は、月次の経営資料を眺めながら、少し首をかしげた。


 十月上旬。


 高瀬から届いた資料には、売上見込みや人件費、案件の進捗状況がまとめられている。


 その中に、見覚えのない顧客名があった。


「高瀬さん、ちょっとええですか?」


「はい。どうされました?」


「この会社って、いつから取引しとったっけ?」


 金目は、資料の一行を指した。


 高瀬が確認する。


「ああ、こちらですね」


「せやねん」


「先月からです」


「……そうなん?」


 金目は、少し笑った。


「知らんかったわ(笑)」


 高瀬も、少し笑った。


「営業部で受注して、現在は開発二課が担当しています」


「なるほどな」


 金目は、案件の概要を確認した。


 既存の業務システムに関する小規模な開発案件。


 契約金額も、特別大きなものではない。


 既定の権限内で受注され、開発部へ引き継がれていた。


「……まあ、別に問題ないんやけどな」


 金目が言った。


「はい」


「俺が知らんところで、新しいお客様が増えとるんやなと思って」


 高瀬がうなずいた。


「そうですね。案件数も増えていますから」


「せやな」


 金目は、資料を見直した。


 以前なら、新しい顧客との取引が始まれば、必ず自分が関わっていた。


 見積もりを確認し、契約内容を整理し、必要であれば開発の相談にも乗っていた。


 しかし、今は違う。


 営業部には小坂や松井がいる。


 開発部には西田がいて、その下には各課長がいる。


 それぞれが、自分たちの責任で仕事を進めている。


 金目が知らないところで、新しい仕事が始まることもある。


「……ええことやな」


 金目は、小さくつぶやいた。


     *


「ただ、ちょっと気になることもあるんよ」


 金目が言った。


「何でしょうか?」


 高瀬が尋ねた。


「別に、全部の案件を俺に報告してほしいわけちゃうねん」


「はい」


「でも、会社として今どんな仕事を抱えとるんかは、わかるようにしときたいなと思って」


 高瀬は、少し考えた。


「なるほど。個別の案件内容ではなく、会社全体の状況ですね」


「そうそう」


 金目がうなずいた。


「売上とか利益の見込みは、今でも確認できるやろ?」


「はい」


「でも、どこに仕事が集中しとるんかとか、何か困っとることがあるんかとか、そういうのは見えにくい気がするんよ」


「なるほど」


 高瀬は、資料を確認した。


「では、既存の案件管理情報から、経営向けに必要な項目をまとめる形がよさそうですね」


「せやな」


「西田さんにも相談してみましょうか」


「お願いします」


     *


 数日後。


 金目は、高瀬、西田とオンラインで話していた。


「……なるほどな」


 西田は、金目の話を聞きながらうなずいた。


「会社全体の案件状況を、もうちょっと見えるようにしたいわけやな」


「せやねん」


 金目が答えた。


「別に、現場の判断に口出したいわけちゃうで」


「わかっとる(笑)」


 西田が笑った。


「ただ、会社として何を抱えとるんかは、知っときたいんよ」


「せやな」


 高瀬が、資料を共有した。


「現在の経営資料では、売上と利益の見込み、部門ごとの人件費などを中心に確認しています」


「うん」


「一方、案件の進行状況については、各部署で管理している情報を個別に確認する必要があります」


「なるほど」


 西田がうなずいた。


「開発部では、課ごとに案件管理表を持っとるからな」


「せやな」


「それを全部まとめて見ようとすると、結構な量になるで」


 金目は、少し笑った。


「……それは見たないな(笑)」


 三人は笑った。


「ほな、何が必要なんやろな」


 西田が尋ねた。


 金目は、少し考えた。


「まず、会社として今どのくらい仕事を抱えとるんか」


「うん」


「ほんで、それが順調に進んどるんか」


「せやな」


「あと、何か大きな問題が起きそうなところはないか」


 高瀬が、メモを取った。


「売上と粗利の見込み、案件の進捗、重要なリスクですね」


「そういうことやな」


 金目は、少し考えた。


「それと、お客様ごとの取引状況も見たいな」


「顧客別の売上ですね」


「せやな」


「承知しました」


 西田が、少し笑った。


「ほな、今ある情報から拾えるか確認してみようか」


「お願いします」


     *


 十月中旬。


 西田は、開発部の課長たちと、案件情報の集約について相談していた。


 田村洋介。


 尾崎達也。


 井上修一。


 それぞれが、担当する課の仕事を管理している。


「今日は、案件の報告について相談したいんよ」


 西田が言った。


「報告?」


 尾崎が尋ねた。


「せやねん。会社全体の状況を、もうちょっと見えるようにしたいらしくてな」


「なるほど」


 田村がうなずいた。


「……また報告資料増えるん?」


 尾崎が、少し苦笑した。


 西田は笑った。


「いや、増やしたくはないねん」


「そら助かるわ(笑)」


「今ある管理表から、必要な情報だけ拾えへんかなと思っとる」


 田村が、少し考えた。


「それなら、できるんちゃう?」


「そうなん?」


「大型案件の進捗とか、予定からのずれは、今でも管理しとるし」


「なるほど」


 尾崎もうなずいた。


「小型案件も、件数と進捗は一覧で見られるで」


「そらええな」


 井上が口を開いた。


「運用の方は、案件いうより、障害とか改善項目の状況になると思うけど」


「せやな」


 西田がうなずいた。


「そこは、無理に同じ形にせんでもええと思う」


「なるほど」


「必要な情報だけ、経営向けにまとめたいねん」


 田村は、少し笑った。


「ほな、現場の資料を増やさんで済みそうやな」


「せやな」


 西田もうなずいた。


「報告のために仕事増やしても、しゃあないからな」


     *


 同じ頃。


 金目は、営業部の案件状況を確認していた。


 小坂千尋と松井慎吾が、現在の取引状況を説明している。


「今月の売上見込みは、今のところ順調です」


 小坂が言った。


「そらよかった」


 金目がうなずいた。


「ただ、少し気になるところもあります」


「ほう?」


 小坂は、資料を切り替えた。


「こちらのお客様なんですが、最近、追加のご相談が増えているんです」


「……ええことちゃうの?」


 金目が尋ねた。


「そうですね。売上としてはありがたいです」


 小坂は、少し考えた。


「ただ、開発部の予定も、結構このお客様に寄ってきているんですよね」


「なるほどな」


 金目は、資料を確認した。


 確かに、その顧客からの売上は、以前よりも増えていた。


 継続的な保守契約に加え、追加開発の相談も増えている。


 会社にとって、重要な取引先になりつつあった。


「……まあ、仕事もろえるんはありがたいけどな」


 金目が言った。


「はい」


 松井がうなずいた。


「ただ、ほかのお客様の案件との調整も必要になってきています」


「せやな」


 金目は、少し考えた。


「ちなみに、今どのくらいの割合になっとる?」


「顧客別の売上比率は、高瀬さんの資料と照合して確認します」


 小坂が答えた。


「了解」


 金目は、うなずいた。


「ほな、そこは一回見とこうか」


「承知しました」


     *


 会議を終えた金目は、経営資料を見直していた。


 売上は順調に増えている。


 社員も増え、会社として対応できる仕事も広がっている。


 それ自体は、喜ばしいことだった。


 しかし、会社が大きくなれば、以前とは違う情報も必要になる。


 どの案件が進んでいるのか。


 どこに仕事が集中しているのか。


 そして、何か問題が起きたとき、会社全体へどのような影響があるのか。


 以前なら、自分が直接仕事を見ていたため、自然に把握できていたことも多かった。


 今は、そうではない。


 だからこそ、必要な情報を整理して確認できるようにする必要があった。


「……まあ、全部知る必要はないんやけどな」


 金目は、少し笑った。


 知らない仕事が増えることは、悪いことではない。


 むしろ、社員たちが自分の判断で仕事を進められるようになった証拠でもある。


 ただ、経営者として知っておくべきことまで、知らないままでよいわけではない。


 金目は、資料を閉じた。


 会社の仕事を、すべて自分で把握する時代は終わりつつある。


 その代わりに、会社全体を見渡すための、新しい仕組みが必要になっていた。


     *


 十月下旬。


 株式会社カナメの業務部では、高瀬が新しい経営資料の確認を進めていた。


 といっても、各部署へ新たな報告書の提出を求めたわけではない。


 営業部が管理している契約情報。


 開発部が管理している案件の進捗。


 そして、業務部が把握している売上や費用の見込み。


 それらを、経営判断に必要な形でまとめ直していた。


「……こんなところでしょうか」


 高瀬は、資料を見直した。


 案件ごとの細かな作業内容までは載せていない。


 会社全体として、どのくらいの仕事を抱えているのか。


 予定どおり進んでいるのか。


 利益は確保できそうなのか。


 そして、注意しておくべきことは何か。


 そうした情報を、一覧で確認できるようにしていた。


     *


「金目さん、西田さん。少しお時間よろしいでしょうか?」


 高瀬が連絡した。


「ええですよ」


 金目が答えた。


「了解」


 西田も会議に参加した。


「先日ご相談いただいた経営資料について、ひととおり整理できました」


「ありがとうございます」


 高瀬は、画面を共有した。


 最初に表示されたのは、会社全体の状況だった。


 当月の売上見込み。


 粗利の見込み。


 進行中の案件数。


 そして、各部門の状況。


「……おお」


 金目が、少し笑った。


「だいぶ見やすなったな」


「ありがとうございます」


 高瀬は、次の項目を指した。


「こちらでは、案件の進捗を大きく三つに分けています」


「ほう?」


「予定どおり進んでいる案件、確認事項が残っている案件、そして対応が必要な案件です」


「なるほどな」


「細かな作業内容までは表示していませんが、必要であれば元の管理情報を確認できるようにしています」


 金目は、うなずいた。


「それでええと思う」


 西田も資料を確認した。


「開発部の方は、各課の管理表から拾っとるんやな?」


「はい」


「ほな、現場で新しい報告資料を作る必要はないわけやな」


「そうですね。既存の情報を利用しています」


「そら助かるわ」


 西田が、少し笑った。


「報告のために仕事増やしたら、何しとるかわからんからな(笑)」


 金目も笑った。


「ほんま、それやな」


     *


「ただ、一つ確認しておきたいことがあります」


 高瀬が言った。


「何でしょう?」


 金目が尋ねた。


「案件の進捗については、各課で管理方法が少し異なっています」


「せやろな」


 西田がうなずいた。


「大型案件と小型案件では、見とるものが違うからな」


「はい」


 高瀬は、資料を切り替えた。


「そのため、すべての案件を同じ指標で比較するのではなく、それぞれの進行状況を共通の区分へ整理しています」


「なるほど」


「例えば、大型案件では、現在の工程や今後の重要な判断事項を中心に確認します」


「うん」


「小型案件では、対応件数や納期、確認待ちの状況を中心にしています」


 西田がうなずいた。


「それでええと思うで」


「そうですね」


 高瀬は続けた。


「基盤運用課については、案件数ではなく、障害や改善項目の状況を確認する形にしています」


「なるほどな」


 金目は、少し考えた。


「無理に全部同じ形にせんでもええいうことやな」


「はい」


「それぞれの仕事に合った情報を見られたらええわけや」


「そうですね」


 高瀬がうなずいた。


 会社の仕事は、すべて同じ形をしているわけではない。


 だからこそ、同じ数字だけで比較しても、実際の状況が見えなくなることがある。


 必要なのは、仕事の違いをなくすことではなく、その違いを踏まえて全体を把握することだった。


     *


「それと、顧客別の取引状況も整理しています」


 高瀬が、次の資料を表示した。


「こちらですね」


 金目は、画面を確認した。


 顧客ごとの売上。


 継続契約の状況。


 そして、今後の受注見込み。


「……なるほどな」


 金目は、少し考えた。


「このお客様、結構増えとるな」


「そうですね」


 高瀬が答えた。


「ここ一年ほどで、追加開発のご相談が増えています」


「せやな」


 西田もうなずいた。


「開発一課でも、関連する案件をいくつか担当しとるで」


「そうなんやな」


 金目は、資料を見直した。


 以前から取引のある顧客だった。


 保守契約を継続しながら、少しずつ追加開発を受注してきた。


 最近では、比較的大きな案件の相談も増えている。


 会社としては、ありがたい取引先だった。


「……売上としては、ええ感じやな」


 金目が言った。


「はい」


 高瀬がうなずいた。


「ただ、顧客別の売上比率も上がってきています」


「なるほど」


 金目は、少し考えた。


「……ほかのお客様との割合も見といた方がええな」


「そうですね」


 西田が答えた。


「仕事が一つのお客様に寄りすぎると、ほかの案件との調整も難しなるしな」


「せやな」


 金目は、資料を確認した。


「別に、今すぐ何か問題があるわけちゃうんやろ?」


「はい」


 高瀬が答えた。


「現時点で、特別な問題が確認されているわけではありません」


「了解」


 金目は、うなずいた。


「ほな、今後の推移を見とこうか」


「承知しました」


     *


 会議を終えたあと。


 西田は、金目へ声をかけた。


「……どうや、新しい資料は?」


「ええと思うで」


 金目は、少し笑った。


「今までより、会社全体の状況がわかりやすなったわ」


「そらよかった」


「しかも、現場の仕事を増やさんで済んどるんやろ?」


「せやな」


 西田がうなずいた。


「今ある管理表を使っとるからな」


「それがええわ」


 金目は、少し考えた。


「俺が安心するためだけに、みんなの仕事増やしてもしゃあないしな」


「ほんま、それやな」


 二人は笑った。


「ただ、こうして見ると、知らん仕事も結構あるな」


 金目が言った。


「そらそうやろ」


 西田が答えた。


「もう、全部の案件を社長が見る規模ちゃうからな」


「せやな」


 金目は、うなずいた。


「でも、知らんでも仕事が進んどるんやな」


「そういうことや」


 西田は、少し笑った。


「それぞれの課で判断できるようにしとるんやから」


「……せやったな(笑)」


     *


 金目は、新しい経営資料をもう一度開いた。


 以前は、会社の仕事をほとんど自分で把握していた。


 誰が、どのお客様と話しているのか。


 どの案件が進んでいるのか。


 何か問題が起きていないか。


 それらを、自分が直接確認することも多かった。


 しかし、今は違う。


 営業部が顧客と話し、開発部が仕事を進め、業務部が会社の数字を管理している。


 その中には、自分が一度も関わっていない案件もある。


 それでも、会社は動いていた。


「……知らん仕事が増えたなあ」


 金目が、少し笑った。


 西田がうなずいた。


「ええことやと思うで」


「せやな」


「全部知っとかなあかんかったら、いつまで経っても楽にならへんやろ(笑)」


「……それは困るな(笑)」


 二人は笑った。


     *


「でも、会社として何が起きとるかは、知っとかなあかんな」


 金目が言った。


「せやな」


 西田が答えた。


「案件の細かい進め方まで、社長が決める必要はないと思う」


「うん」


「でも、売上とか利益とか、大きなリスクは、経営として見とかなあかんやろ」


「そういうことやな」


 金目は、うなずいた。


「知らんでもええことと、知っとかなあかんことは違うんよな」


「せやな」


 西田は、少し笑った。


「そこが、今の社長の仕事なんちゃう?」


 金目は、少し考えた。


「……なるほどな」


 以前は、目の前の仕事をどう進めるかを考えていた。


 今は、その仕事を任せる人がいる。


 そして、自分は会社全体がどこへ向かっているのかを考える立場になっている。


 金目は、経営資料を閉じた。


「……まあ、ええ感じやな」


 西田が笑った。


「せやな」


     *


 十月末。


 高瀬は、翌月の経営資料を更新する準備を進めていた。


 今回作成した一覧は、今後も継続して利用する予定だった。


 売上と粗利の見込み。


 案件の進行状況。


 重要な確認事項。


 そして、顧客別の取引状況。


 これまで各部署で管理していた情報を、経営の視点から確認できるようにする。


 その仕組みが、少しずつ整い始めていた。


 一方、金目は、いつもどおり自分の仕事を進めていた。


 営業部長としての仕事。


 経営者としての判断。


 そして、各部門から届く相談。


 まだまだ、やることは多い。


 それでも、以前とは少し違っていた。


 自分が知らないところで、新しい仕事が始まる。


 自分が知らないところで、問題が解決する。


 そして、その結果が、会社全体の数字として見えるようになってきた。


 知らない仕事が増えたことは、会社が成長した証拠でもあった。


 ただし、知らないままでよいことと、知っておくべきことは違う。


 その境界を考えることも、今の金目に任されている仕事だった。


 株式会社カナメは、社員たちがそれぞれの判断で動く会社へと、少しずつ変わり続けていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、金目が自分の知らない仕事に気づくところから始まるお話でした。


月次の経営資料を確認していた金目。


そこには、見覚えのない顧客の名前がありました。


調べてみると、営業部が受注し、開発二課が担当している案件だったわけです。


以前なら、新しいお客様との取引が始まれば、金目自身が関わっていたことでしょう。


しかし、今は違います。


営業部が顧客と話し、開発部が仕事を進め、それぞれの責任者が必要な判断を行っています。


金目が知らないところで、新しい仕事が始まるようになったわけですね。


……なんだか、ずいぶん会社らしくなってきました(笑)。


さて、今回描きたかったのは、社長が仕事を知らなくなったことを問題にするお話ではありません。


むしろ、すべての仕事を社長が把握しなければ進まないのであれば、いつまで経っても仕事を任せられません。


社員が増え、部署が増え、それぞれが自分の責任で仕事を進められるようになる。


それは、会社が成長している証拠でもあるのでしょう。


ただし、ここで一つ問題があります。


**仕事を任せることと、会社の状況を把握しなくてよいことは、別の話です。**


例えば、開発案件で誰がどの機能を実装しているのか。


どのような手順でテストを行っているのか。


そうした細かなことまで、社長が毎日確認する必要はないでしょう。


しかし、会社全体としてどのくらいの仕事を抱えているのか。


売上や利益はどうなっているのか。


大きな問題が起きそうなところはないか。


そうした情報は、経営者として把握しておく必要があります。


今回は、金目がその違いを考えることになりました。


さて、そこで登場したのが高瀬です。


営業部や開発部が管理している情報をもとに、経営向けの一覧を作成しました。


売上と粗利の見込み。


案件の進捗。


重要な確認事項。


そして、顧客別の取引状況。


それらを、必要なときに確認できるようにしたわけです。


ここで大切にしたかったのは、**新しい報告書を現場に作らせなかったこと**です。


社長が会社の状況を知りたいからといって、各部署に毎週新しい資料を作ってもらう。


もちろん、必要な報告であれば意味はあります。


しかし、すでに管理している情報をもう一度まとめ直すだけなら、余計な仕事が増えてしまいます。


今回のカナメでは、既存の管理情報を利用することにしました。


……報告するための仕事ばかり増えてしまっては、本末転倒ですからね(笑)。


そして、もう一つ。


今回の資料では、すべての部署を同じ数字で比較することもしませんでした。


大型案件を担当する開発一課。


小型案件を担当する開発二課。


そして、保守・運用を担う基盤運用課。


それぞれ、仕事の性質が違います。


大型案件では、工程や重要な判断事項を確認する必要があります。


小型案件では、対応件数や納期が重要になるでしょう。


基盤運用課では、障害の発生状況や改善活動など、また違った情報が必要になります。


無理に同じ物差しで測ろうとすると、かえって実態が見えなくなることもあります。


大切なのは、数字を揃えることではなく、それぞれの仕事が適切に進んでいるかを理解できることなのでしょう。


さて、今回もう一つ登場したのが、顧客別の売上状況でした。


取引が増え、重要なお客様になっていくことは、会社にとってありがたいことです。


一方で、特定のお客様への売上が集中しすぎると、その取引の変化が会社全体に与える影響も大きくなります。


もちろん、取引が増えていること自体が悪いわけではありません。


重要なのは、会社としてどの程度依存しているのかを把握しておくことです。


今回の金目も、すぐに何かを変えるのではなく、まず今後の推移を確認することにしました。


数字を見て、何でもすぐに対策を始めればよいというわけでもありませんからね。


さて、今回の最後。


金目は、以前とは違う自分の仕事について考えていました。


かつては、自分で顧客と話し、自分で案件を進め、自分で判断していた。


しかし、今はその仕事を任せられる人たちがいます。


そして、金目自身は、会社全体がどこへ向かっているのかを考える立場になってきました。


すべてを知っていることが、優れた経営者の条件とは限りません。


必要な情報を把握し、適切な人へ判断を任せ、会社全体として責任を持つ。


そうした役割へ、少しずつ変わってきたのでしょう。


……もっとも、営業部長の兼任は、まだ続いているようですが(笑)。


金目が本当に楽になる日は、いつになるのでしょうか。


さて、2032年も残り二か月となりました。


カナメでは、今年も採用活動が続き、年末には三十五名体制を目指しています。


人が増え、仕事が増え、金目の知らないところでも会社が動くようになってきました。


これからも、会社が大きくなることで生まれる変化を、社員たちの日常とともに描いていきたいと思います。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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