知らない約束
2032年9月。
株式会社カナメでは、今年も新しい社員が少しずつ加わっていた。
四月に入社した新卒社員たちは、それぞれの部署で仕事を覚え始めている。
中途採用も続いており、開発部では経験者が既存の案件に参加するようになっていた。
社員が増えれば、会社としてできる仕事も増える。
しかし、経験者だからといって、最初からカナメの仕事の進め方をすべて知っているわけではない。
前の会社では当たり前だったことが、今の会社では違う。
そんな小さな違いが、ときには思わぬ問題につながることもあった。
*
「……あ、それなら対応できますよ」
九月上旬。
開発二課の中途社員は、既存顧客とのオンライン会議でそう答えた。
今回の打ち合わせは、現在進めている小規模案件の仕様確認だった。
顧客側から、画面の表示項目について追加の相談があったのである。
「こちらの項目も表示できるようにしたいんですが」
顧客の担当者が尋ねた。
「はい。その程度の変更でしたら、技術的には難しくありません」
「そうなんですね」
「はい。すぐ対応できると思います」
顧客の担当者は、安心したようにうなずいた。
「ありがとうございます。では、来週の確認会では、そちらも見られるということでよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫だと思います」
中途社員は、特に迷うことなく答えた。
技術的には、確かに難しい変更ではなかった。
既存の画面に項目を一つ追加するだけ。
必要なデータも、すでにシステム内に存在している。
前職でも、こうした小さな変更は開発担当者が顧客と直接調整していた。
そのため、今回も同じ感覚で答えたのだった。
しかし、同席していた上田拓海は、少し気になっていた。
「……すみません、一点よろしいでしょうか」
上田が口を開いた。
「はい」
顧客の担当者が答えた。
「今回の追加変更については、まだ作業量と日程の確認ができておりません」
「そうなんですか?」
「はい。技術的には対応可能だと思いますが、実施時期については社内で確認させてください」
顧客の担当者は、少し戸惑った様子だった。
「……先ほど、来週には対応できると伺ったのですが」
「申し訳ありません。正式な日程については、改めてご連絡させていただきます」
「わかりました」
会議は、そのまま終了した。
*
「……ちょっとええですか?」
会議を終えたあと、上田が中途社員へ声をかけた。
「はい。何でしょうか?」
「さっきの追加変更の件なんですけど」
「ああ、あれですか」
「まだ、正式な対応可否を確認していませんよね?」
中途社員は、少し不思議そうな顔をした。
「そうですね。でも、技術的には難しくないと思いますよ」
「それは、そうかもしれません」
上田は、少し考えた。
「ただ、来週までに対応できるかどうかは、別の話ですよね」
「……ああ」
中途社員は、少し考えた。
「確かに、ほかの案件の予定までは確認していませんでした」
「そうなんです」
「でも、変更自体はすぐ終わると思うんですが」
「実装だけなら、そうかもしれません」
上田は、資料を開いた。
「ただ、テストも必要ですし、今の案件の予定もありますから」
「なるほど……」
「一度、尾崎さんに相談しましょう」
「わかりました」
*
「……なるほどな」
尾崎達也は、上田から報告を受けていた。
オンライン会議には、中途社員も参加している。
「ほな、まず確認させてな」
尾崎が言った。
「はい」
「今回の変更、技術的には対応できるんやな?」
「はい。実装自体は難しくありません」
「なるほど」
尾崎は、資料を確認した。
「でも、来週までに対応できるかは、まだ確認してへんわけやな」
「……はい」
中途社員は、少し申し訳なさそうに答えた。
「そこまでは確認できていませんでした」
「了解」
尾崎は、少し考えた。
「ちなみに、今の案件の予定はどうなっとる?」
上田が、案件管理表を共有した。
「今週は、別の機能のテストが予定されています」
「うん」
「来週は、顧客確認の準備があります」
「なるほど」
「今回の変更を追加すると、テスト範囲も増えると思います」
尾崎は、うなずいた。
「せやな」
中途社員が口を開いた。
「……すみません。そこまで考えられていませんでした」
「まあ、まずは状況を整理しようか」
尾崎が答えた。
「はい」
「技術的にできることと、会社として引き受けられることは、別の話やからな」
「……そうですね」
「実装できるからいうて、今すぐ対応できるとは限らんやろ?」
「はい」
尾崎は、少し笑った。
「ほな、まず作業量を確認して、いつなら対応できるか整理しよう」
「わかりました」
*
その日の午後。
尾崎は、営業部の松井慎吾へ連絡した。
「松井さん、ちょっと相談があるんやけど」
「はい。どうされました?」
「今進めとる案件で、お客様から追加変更の相談があってな」
「はい」
「その場で、来週には対応できるような話をしてしもたんよ」
松井は、少し考えた。
「なるほど。正式な日程は、まだ確認できていないということですね」
「せやねん」
「承知しました」
松井は、顧客とのやり取りを確認した。
「実は、お客様からも連絡をいただいています」
「そうなん?」
「はい。来週の確認会で、追加した項目も見られると伺ったのですが、というお問い合わせでした」
「……ああ、やっぱりそう受け取られとったか」
尾崎は、少し考えた。
「すまんな。こっちの説明が足らんかった」
「いえ。まずは状況を整理しましょう」
松井は、少し笑った。
「技術的には、対応できそうなんですよね?」
「せやな」
「では、実施可能な日程を確認していただけますか?」
「了解」
「そのうえで、こちらからお客様へ改めてご説明します」
「助かるわ」
尾崎は、うなずいた。
「よろしくお願いします」
*
翌日。
尾崎は、上田と中途社員を交えて、今回の追加変更について確認していた。
「ほな、作業量はどうや?」
尾崎が尋ねた。
「実装は、半日程度で終わると思います」
中途社員が答えた。
「なるほど」
「ただ、テストについては、もう少し時間が必要です」
上田が続けた。
「今回の項目追加によって、画面の表示とデータ取得の確認が増えます」
「せやな」
「それと、今週予定している別の機能のテストもあるので、来週の確認会までに全部終わらせるのは厳しいと思います」
「なるほど」
尾崎は、案件一覧を確認した。
今回の変更そのものは、小さい。
しかし、既存の作業予定を動かさずに対応するには、時間が足りなかった。
「……ほな、来週は難しいな」
尾崎が言った。
「そうですね」
上田がうなずいた。
「再来週であれば、対応できると思います」
「了解」
尾崎は、少し考えた。
「ほな、その日程で松井さんに相談しようか」
「わかりました」
中途社員は、少し申し訳なさそうにしていた。
「……ご迷惑をおかけしました」
尾崎は、首を横に振った。
「まあ、今回は早めに気づけたからな」
「はい」
「ただ、次からは気をつけよう」
「わかりました」
*
打ち合わせを終えたあと。
尾崎は、中途社員へ声をかけた。
「ちょっとええ?」
「はい」
「今回の件なんやけど、前の会社ではどうしとった?」
中途社員は、少し考えた。
「前職では、開発担当者が直接お客様と調整することも多かったんです」
「なるほど」
「小さな変更なら、その場で対応を決めることもありました」
「そうなんやな」
尾崎は、うなずいた。
「それ自体が悪いわけちゃうと思うで」
「はい」
「会社によって、仕事の進め方は違うからな」
「そうですね」
尾崎は、少し考えた。
「ただ、うちは営業部が契約や納期の調整を担当しとるんよ」
「はい」
「開発側が技術的にできるかを確認して、営業側が会社として約束する」
「なるほど」
「もちろん、開発側と営業側で相談しながら決めるんやけどな」
「はい」
中途社員は、うなずいた。
「……その違いを、ちゃんと理解できていませんでした」
「まあ、入ったばっかりやしな」
尾崎は、少し笑った。
「でも、今回はええ機会やと思うで」
「そうでしょうか?」
「せやで。俺らも、当たり前やと思っとることを、ちゃんと説明できてへんかったんかもしれんし」
中途社員は、少し考えた。
「……ありがとうございます」
尾崎は、うなずいた。
「ほな、今回の対応が終わったら、手順も一回見直そうか」
「わかりました」
*
尾崎は、会議を終えたあと、案件管理表を開いた。
技術的には、対応できる。
しかし、会社としていつ対応するのかは、まだ決まっていない。
その違いを、顧客へ正しく伝える必要があった。
今回の中途社員は、決して仕事ができないわけではない。
むしろ、技術的な経験は十分にある。
ただ、カナメの仕事の進め方を、まだ知らなかった。
そして、知らないことがあるのは、本人だけの問題ではない。
会社として、必要なことを伝えられていたのか。
そこも考える必要があった。
「……まあ、次からやな」
尾崎は、少し笑った。
顧客への説明は、これから松井が進めることになる。
そして、今回の出来事を踏まえて、社内の手順も見直す予定だった。
株式会社カナメでは、今日も新しい社員が仕事を覚えている。
経験者であっても、知らないことはある。
その違いを、一つずつ埋めていくことも、組織を大きくしていくために必要な仕事だった。
*
九月中旬。
株式会社カナメの営業部では、既存顧客からの追加変更について、対応方針の確認が進んでいた。
開発二課で作業量を確認した結果、技術的には対応可能だった。
しかし、顧客が希望していた翌週の確認会には間に合わない。
実装そのものは半日程度で終わる見込みだったが、テストや既存案件との調整を含めると、もう少し時間が必要だった。
松井慎吾は、開発二課から届いた資料を確認していた。
「……なるほど」
対応可能な日程。
追加変更の内容。
そして、現在の作業予定への影響。
必要な情報は揃っている。
あとは、顧客へ事情を説明し、改めて合意を得る必要があった。
*
「それでは、今回の追加変更について、ご説明させていただきます」
松井が言った。
オンライン会議には、顧客の担当者と、尾崎達也、今回の中途社員も参加している。
「先日の打ち合わせでは、来週の確認会までに対応できるようなご説明となってしまい、申し訳ありませんでした」
松井は、頭を下げた。
「その後、開発部で作業内容と日程を確認しましたところ、品質確認を含めると、もう少しお時間をいただく必要があることがわかりました」
顧客の担当者が、少し考えた。
「そうだったんですね」
「はい」
「先日は、すぐに対応できると伺ったので、来週には確認できるものと思っていました」
「申し訳ありません」
松井は、もう一度頭を下げた。
「技術的には対応可能なのですが、実施時期についての確認が不足していました」
尾崎も口を開いた。
「開発側からの説明が不十分でした。申し訳ありません」
顧客の担当者は、うなずいた。
「事情はわかりました」
松井は、資料を共有した。
「改めて確認したところ、再来週であれば、実装とテストを終えた状態でご確認いただける見込みです」
「なるほど」
「現在進めているほかの作業にも影響が出ないよう、日程を調整しています」
顧客の担当者は、少し考えた。
「……わかりました。では、再来週でお願いします」
「ありがとうございます」
松井が答えた。
「正式な日程については、改めて書面でもご案内いたします」
「よろしくお願いします」
こうして、追加変更の実施時期について、改めて合意が得られた。
*
会議を終えたあと。
中途社員は、しばらく画面を見つめていた。
先日の打ち合わせでは、技術的に対応できることを伝えただけのつもりだった。
しかし、顧客はそれを、来週までに対応してもらえるという約束として受け取っていた。
そして、その認識を修正するために、松井や尾崎が説明することになった。
「……申し訳ありませんでした」
中途社員が言った。
尾崎は、首を横に振った。
「まあ、今回は早めに気づけたからな」
「はい」
「ただ、お客様からしたら、うちの誰が言うたかは関係ないからな」
「……そうですね」
「カナメの社員が言うたことやから、会社としての約束やと思われてもおかしくない」
中途社員は、うなずいた。
「はい」
松井も口を開いた。
「今回、お客様は事情を理解してくださいましたが、毎回そうとは限りません」
「そうですね」
「特に、社内で予定を組まれている場合は、日程が変わることで影響が出ることもあります」
「はい」
中途社員は、少し考えた。
「……今後は、技術的に対応できることと、正式に引き受けることを分けて説明します」
尾崎がうなずいた。
「それでええと思うで」
*
数日後。
開発二課では、今回の出来事を踏まえて、顧客とのやり取りについて確認していた。
尾崎は、上田拓海と今回の中途社員を交えて、社内の手順を見直している。
「今回の件なんやけど、ちょっと整理しときたいと思っとる」
尾崎が言った。
「はい」
上田が答えた。
「今までも、顧客との約束は営業部を通して決めることになっとったやろ?」
「そうですね」
「でも、それが新しく入った人にもちゃんと伝わっとったかというと、ちょっと怪しいなと思ってな」
中途社員が、少し申し訳なさそうにした。
「……私も、入社時に説明は受けていたと思うんですが」
「うん」
「実際の打ち合わせで、どこまで答えてよいのかは、あまり意識できていませんでした」
「なるほどな」
尾崎は、うなずいた。
「ほな、そこをもうちょっとわかりやすくしようか」
上田が、少し考えた。
「技術的な質問には、開発担当が答えてもええんですよね?」
「もちろんや」
尾崎が答えた。
「お客様から技術的なことを聞かれて、全部営業部へ回す必要はないと思う」
「そうですね」
「ただ、納期や費用、追加作業の引き受けについては、会社として確認してから返事せなあかん」
「なるほど」
中途社員がうなずいた。
「つまり、対応できるかどうかと、対応するかどうかを分けるということですね」
「そういうことやな」
*
尾崎は、手順書の修正案を開いた。
そこには、顧客から追加要望を受けた場合の対応が整理されていた。
まず、要望の内容を確認する。
技術的な実現可能性については、開発担当者が説明してよい。
ただし、作業の実施、納期、費用については、その場で確約しない。
必要な作業量と影響範囲を確認し、営業部と調整する。
そして、正式な対応方針を顧客へ伝える。
「……こんな感じでどうやろ?」
尾崎が尋ねた。
上田は、資料を確認した。
「ええと思います」
「そうか」
「ただ、具体的な言い方も載せた方がわかりやすいかもしれませんね」
「なるほど」
中途社員も、うなずいた。
「確かに、どう答えればよいのか例があると助かります」
「せやな」
尾崎は、少し考えた。
「ほな、例えば……」
資料へ、一文を追加した。
『技術的には対応可能と考えていますが、実施時期や費用については社内確認のうえ、改めてご回答します。』
「……これならどうや?」
「わかりやすいと思います」
中途社員が答えた。
上田もうなずいた。
「これなら、技術的な説明をしながら、正式な約束とは分けられますね」
「せやな」
尾崎は、資料を保存した。
*
「ただ、手順書を作っただけではあかんな」
尾崎が言った。
「そうですね」
上田がうなずいた。
「新しく入った人にも、ちゃんと説明する必要がありますね」
「せやな」
尾崎は、少し考えた。
「福原さんにも相談して、入社時の説明に入れてもらおうか」
「それがよさそうですね」
中途社員も、少し笑った。
「私も、最初に具体例を聞いていれば、もう少し意識できたと思います」
「なるほどな」
尾崎は、うなずいた。
「ほな、今後の受け入れにも反映していこう」
今回の出来事は、個人の注意不足だけで終わらせることもできた。
しかし、それでは次に入社した社員が、同じところで迷うかもしれない。
必要なことを、必要なときに伝えられるようにする。
その仕組みを整えることも、課長の仕事だった。
*
九月下旬。
顧客から依頼されていた追加変更は、改めて合意した日程に沿って進められていた。
中途社員が実装を担当し、上田が内容を確認している。
今回の変更は、当初の見込みどおり、それほど難しいものではなかった。
ただし、実装が終わったあとには、必要なテストを行い、既存機能への影響も確認した。
「……確認終わりました」
上田が言った。
「問題なさそう?」
尾崎が尋ねた。
「はい。追加した項目も正しく表示されていますし、既存の画面にも影響はありません」
「そらよかった」
尾崎は、確認結果を見直した。
「ほな、松井さんへ報告しようか」
「わかりました」
中途社員も、少し安心したように笑った。
「ありがとうございました」
尾崎が、少し笑った。
「お疲れさん」
*
その日の夕方。
尾崎は、今回の対応記録を整理していた。
追加変更そのものは、小さな仕事だった。
実装にかかった時間も、それほど長くない。
しかし、その前には、顧客との認識を揃えるための仕事があった。
そして、今回の出来事を踏まえて、社内の手順も見直すことになった。
「……小さい仕事でも、いろいろあるな」
尾崎は、少し笑った。
以前なら、今回の件を担当者の注意不足として片づけていたかもしれない。
しかし、今は課長として、同じ問題が繰り返されないようにすることも考えなければならない。
経験者であっても、新しい会社では知らないことがある。
それは、本人が学ぶべきことでもあり、会社が伝えるべきことでもあった。
尾崎は、更新した手順書を開いた。
顧客から追加要望を受けたときの対応。
技術的な説明と、会社としての約束の違い。
そして、正式な回答までの流れ。
以前から、カナメでは当たり前のように行われていたことだった。
しかし、その理由まで、誰もが理解していたわけではない。
「……ほな、これでええな」
尾崎は、資料を保存した。
株式会社カナメでは、今年も新しい社員が増えている。
人数が増えれば、仕事の進め方を知らない人も増える。
だからこそ、今まで当たり前だったことを、改めて言葉にする必要があった。
知らなかった約束を、誰もが理解できる約束へ。
その小さな改善もまた、会社が成長していくために必要な仕事だった。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、開発二課で起きた、ちょっとした行き違いのお話でした。
お客様から追加の機能変更について相談を受けた中途社員。
技術的には難しくない変更だったため、その場で対応できると答えました。
ところが、お客様はそれを、来週までに対応してもらえるという約束として受け取ってしまったわけです。
……なかなか難しいものですね。
さて、今回の中途社員。
決して技術力が不足していたわけではありません。
むしろ、実装そのものについては、正しく判断できていました。
ただ、技術的に対応できることと、会社として正式に引き受けられることは、必ずしも同じではありません。
実装が簡単でも、テストやリリースの準備が必要になります。
ほかの案件との兼ね合いもありますし、契約や費用について確認しなければならない場合もあります。
そのため、カナメでは開発部が技術的な実現可能性を確認し、営業部が契約や納期について調整する形を取っています。
しかし、今回の中途社員が以前働いていた会社では、開発担当者が直接お客様と調整することも多かったようです。
どちらの方法が絶対に正しい、という話ではありません。
会社の規模や仕事の内容によって、適した進め方は違うでしょう。
問題は、その違いを十分に理解しないまま、以前と同じ感覚で仕事を進めてしまったことでした。
そして、もう一つ。
**カナメの側も、その違いをきちんと伝えられていたのか。**
今回、尾崎が考えたのは、そこでした。
新しく入社した社員にとって、社内で当たり前になっている仕事の進め方は、必ずしも当たり前ではありません。
長く働いている社員なら、説明されなくても自然に理解していることがあります。
しかし、新しく入った人は、そもそも何を確認すべきなのかも知らないかもしれません。
だからこそ、必要なことを言葉にして伝える必要があるのでしょう。
さて、今回の尾崎。
中途社員を一方的に叱るのではなく、まず何が起きたのかを確認していました。
そして、本人が前職ではどのように仕事を進めていたのかも聞いています。
そのうえで、カナメではなぜ営業部と開発部で役割を分けているのかを説明しました。
ここが、今回大切にしたかったところです。
単に「うちのルールだから守ってください」と言うだけなら、簡単かもしれません。
しかし、それでは、なぜそのルールが必要なのかまでは伝わりません。
理由がわからなければ、少し違う状況になったとき、どう判断すればよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。
反対に、目的や背景を理解していれば、状況に応じて適切な判断をしやすくなります。
もちろん、すべての社内ルールについて長々と説明する必要はありません。
ただ、仕事の進め方に関わる重要な約束については、その理由も共有しておきたいものですね。
そして今回は、松井にも頑張ってもらいました。
お客様からすれば、カナメの社員が説明した内容です。
営業担当者が言ったのか、開発担当者が言ったのかは、あまり関係ありません。
会社として約束したものと受け取られても、不思議ではないでしょう。
そのため、松井と尾崎は、事情を説明して謝罪し、改めて現実的な日程を提示しました。
今回は、お客様にも事情を理解していただけました。
しかし、いつも同じように理解していただけるとは限りません。
だからこそ、最初の段階で認識を揃えておくことが大切なのでしょう。
さて、今回もう一つ描きたかったのが、問題が起きたあとの対応です。
尾崎は、中途社員へ注意して終わりにはしませんでした。
顧客から追加要望を受けたとき、どこまで答えてよいのか。
何を確認してから正式な回答をするべきなのか。
そうしたことを、手順書として整理しています。
さらに、新しく入社した社員への説明にも反映することにしました。
同じ問題が起きないようにするには、個人が気をつけるだけでなく、仕組みを整えることも必要です。
もっとも、仕組みを作れば、絶対に失敗しなくなるというわけではありません。
それでも、迷ったときに確認できるものがあるだけで、仕事はずいぶん進めやすくなるはずです。
……何でもかんでも手順書にしてしまうと、今度は読むのが大変になりますけどね(笑)。
大切なのは、必要な情報を、必要なときに確認できるようにしておくことなのでしょう。
さて、カナメでは今年も採用活動が続いています。
新しい社員が増えれば、それだけさまざまな経験や考え方を持つ人が集まることになります。
それは、会社にとって大きな力になる一方で、仕事の進め方を揃える必要も生まれます。
これまで口頭で伝わっていたこと。
長く働いている社員なら、自然に理解していたこと。
そうしたものを、少しずつ整理していく時期なのかもしれません。
そして、今回の尾崎も、また一つ課長としての経験を積みました。
案件を進めるだけでなく、社員が仕事を進めやすい環境を整える。
それも、管理職に求められる仕事なのでしょう。
次回も、引き続きお付き合いいただければ幸いです。




