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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第一章 気づけば、会社になっていた
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二人分の手間

 送るだけのつもりが、一時間かかった。


 二つの店から預かった売上の資料を、金目は画面の上で並べ直していた。


 元の資料。途中まで作った集計表。店主から聞いた話を書き留めたメモ。


 自分では、どこに何があるか分かっている。

 だが、そのまま渡して分かるかと言われると、怪しかった。


 説明を書いては、消した。


 これを書くぐらいなら、自分で続きをやった方が早い。


 時計を見て、金目は椅子の背にもたれた。

 さっきから、同じことを考えている。


 結局、集計表に短い説明を添えて送った。


『二つの店の売上を、まとめて見られるようにしたいという依頼です。集計するところをお願いできればと思ってます』


 少しして、昔の同僚から返信が来た。


『これ、日ごとに見たいん? 月ごと?』


『両方です』


『何を見るために?』


 金目の指が止まった。


 店主には、売上をまとめて見たいと言われた。

 月末の集計に時間がかかるとも聞いた。

 だから、二つの店の数字を一つにまとめればいいと考えていた。


『店ごとの売上を比べたいんやと思います』


『思います?』


 すぐに電話が鳴った。


「そこ、聞いとこうや」


 声は、昔と変わらなかった。


「比べたいんやったら、店ごとに並べる。合計だけ分かればええんやったら、もっと簡単にできるし」


「そうですね」


「あと、こっちの店だけ、現金とカードが分かれてるやろ。もう一軒は合計しかない。これは合計でそろえてええん?」


 金目は、二つの資料を開き直した。


 違うことには気付いていた。

 集計するときに合わせれば済むと思って、そのままにしていた。


「確認します」


「ほな、聞けたら教えて。そこ決まったら、こっちは進められるから」


 電話が切れたあと、金目はメモに二つ書き足した。


 何を比べたいのか。

 支払方法は分けて見るのか。


 渡したら、仕事が一つ減ると思っていた。


 質問が返ってきた。


     *


 翌日の昼休み、金目は店主に電話をかけた。


「店ごとの売上、比べられたらええなとは思ってるんですけどね」


 店主は、少し考えながら答えた。


「ただ、一番困ってるんは、二軒合わせて今どれぐらいなんか、すぐ分からんことなんですわ。月が終わってから計算してるんで」


「月の途中で、合計が分かればええんですね」


「そうそう。去年の同じ月も横にあったら、なおええですけど」


 金目は手帳を開いた。


「現金とカードは、分けて見ます?」


「そこは今のままでええです。経理に渡す方で分かるんで。わしが毎日見るんは、全部でなんぼかだけで」


 電話を終えてから、手帳を見直した。


 二店舗の比較。

 現金とカードの内訳。

 そのために作りかけていた欄を、何本かの線で消した。


 代わりに、今月の累計と前年同月、と書いた。


 作るものは、昨日より少なくなった。


 聞いた内容を送ると、夕方に返事が来た。


『了解。土曜に一回見せるわ』


 金目は、よろしくお願いします、と返した。


 その夜は、集計表を開かなかった。


     *


 土曜日に届いたものは、金目が考えていたものと少し違っていた。


 最初の画面には、二つの店を合わせた今月の売上が大きく出ている。

 その下に店ごとの数字があり、過去の月は別の場所で選ぶようになっていた。


 金目は、何度か画面を切り替えた。


 自分なら、全部を一枚に並べる。

 その方が、一度に見渡せる。


「月を選ばんでも、横に並んでた方が早くないですか」


 電話でそう言うと、相手は笑った。


「金目君はそうやろな」


「僕は?」


「毎日開く人、最初に何見るん?」


 金目は画面に戻った。


 今月の売上。

 その数字は、開いたところに出ていた。


「……今月ですね」


「うん。前の月まで全部並べたら、どこ見るか探さなあかんやろ。必要になったら選べばええかなと思って」


 金目は、また画面を切り替えた。


 操作は一つ増える。

 その代わり、普段見るところは少ない。


「一回、これで見てもらってええですか」


「そのつもりで送ってるよ」


「ああ、そうですね」


 言ってから、自分でも笑った。


 手直しする場所を探しながら見ていた。


     *


 店主の前で開くと、説明するより先に指が伸びた。


「あ、これか」


 今月の合計を見て、店主は手元の紙を確かめた。


「この数字、昨日まで?」


「はい。昨日の分まで入れてます」


「ほな、ええわ。これが見たかったんです」


 金目は、用意してきた説明の紙を裏返した。


 前の月を選ぶところだけ伝えると、店主は自分で操作した。

 一度間違えたが、戻って、もう一度選んだ。


「こっちの店だけでも見られるんやね」


「はい」


「十分ですわ」


 帰りの電車で、金目は短い連絡を送った。


『見てもらいました。これが見たかったそうです』


『よかった。直すとこは?』


『表示の言葉を一か所だけ。あとは、このままで』


『了解』


 そこでやり取りは終わった。


 金目は携帯をしまいかけて、もう一度取り出した。


『助かりました』


 今度の返事は、少し間が空いた。


『請求書も送るから、そっちもよろしく』


 金目は声を立てずに笑った。


『はい。お願いします』


     *


 家に帰って、かかった時間を並べた。


 資料を整理した時間。

 説明を書いた時間。

 質問に答え、店主に確認した時間。

 出来上がったものを確かめた時間。


 思ったほど、減ってはいなかった。

 支払いもある。


 けれど、土曜日の朝、集計表は出来ていた。


 金目が本業へ行っていた間にも、仕事は進んでいた。


 画面の隅には、次の依頼についての連絡が来ている。

 これまでなら、今の仕事が終わるまで返信を延ばしていたかもしれない。


 金目は予定を確かめ、話を聞きに行ける日を二つ書いた。


 送信してから、集計表をもう一度開く。


 自分では選ばなかった形だった。

 店主は、説明する前に数字を見つけた。


 金目は何も直さず、画面を閉じた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


一人でやった方が早い。実際、そういう仕事もあります。

それでも、誰かに任せてみると、自分では選ばなかったやり方に出会うこともあるようです。


金目の仕事に、少しずつ人が加わってきました。

次回もお付き合いいただければ幸いです。


旭月

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