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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第三章 任せた先にあるもの
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初めての賞与

 2032年4月。


 株式会社カナメでは、新年度が始まっていた。


 四月一日には、四名の新卒社員が入社した。


 開発部も新しい組織体制へ移行し、開発一課、開発二課、基盤運用課の三課体制となっている。


 社員たちは、新しい年度の仕事を始めていた。


 しかし、今年の四月には、もう一つ大きな出来事が控えていた。


 昨年、金目が創設を発表した賞与制度。


 その初めての支給日が、近づいていた。


     *


「……これで、ひととおり確認できましたね」


 福原奈央は、賞与の算定資料を見直していた。


 四月上旬。


 高瀬とともに、初回賞与の支給準備を進めている。


 評価対象期間は、昨年四月から今年三月までの一年間。


 基準となる金額は、月額基本給の一か月分。


 そこへ個人評価と会社業績による係数を反映し、支給額を決定する。


 ただし、すべての社員が同じ条件ではない。


 昨年途中に入社した社員については、入社前の期間を算定対象から除外する。


 休職期間がある場合も、規程に従って控除する。


 そして、支給日に在籍していることも条件となっていた。


「福原さん、対象者の確認は終わりましたか?」


 高瀬が尋ねた。


「はい。四月二十日時点の在籍予定者を確認しています」


「ありがとうございます」


 高瀬は、資料を確認した。


「今年四月に入社した新卒社員の方々は、今回の算定期間には含まれませんね」


「はい。来年度から対象になります」


「承知しました」


 福原は、チェック欄を一つずつ確認した。


 初めて運用する制度だからこそ、間違いがないようにしたかった。


 評価結果。


 対象期間。


 控除。


 そして、支給額。


 数字を確認する作業が続く。


「……思っていたより、確認することが多いですね」


 福原が言った。


 高瀬は、少し笑った。


「そうですね。制度を作ることと、実際に運用することは違いますから」


「はい」


「特に、給与や賞与は社員の生活に直接関わるものです」


 福原は、うなずいた。


「間違えないようにしないといけませんね」


「そうですね」


 高瀬は、資料を保存した。


「では、最終確認を終えたら、金目さんへ決裁をお願いしましょう」


「承知しました」


     *


 数日後。


 金目は、高瀬と福原から賞与支給について報告を受けていた。


「今回の賞与について、算定結果がまとまりました」


 高瀬が言った。


「ありがとうございます」


 金目は、資料を開いた。


 社員ごとの支給額。


 評価係数。


 そして、会社全体の支給総額。


「……なるほどな」


 金目は、画面を見直した。


「改めて見ると、結構な金額やな(笑)」


 高瀬が、少し笑った。


「そうですね。ただ、今年度の予算には織り込んであります」


「せやな」


「資金繰りについても、問題ありません」


「そらよかった」


 金目は、資料を確認した。


 昨年四月。


 社員たちへ、初めて賞与制度を創設すると発表した。


 それまでの月額給与は減らさない。


 新しく、一か月分を基準とする賞与を追加する。


 社員たちからは、驚きや喜び、そして少しの戸惑いもあった。


 あれから一年。


 その約束を、ようやく実行する日が近づいていた。


「……ほな、予定どおり二十日に支給できそうやな」


「はい」


 高瀬が答えた。


「振込準備も進めています」


「了解」


 金目は、少し考えた。


「ちなみに、今月の給料日は?」


「二十五日ですが、今年は日曜日ですので、二十三日の金曜日に繰り上げます」


「……ああ、そうか」


 金目は、少し笑った。


「賞与の三日後に給料か」


「そうですね」


「……社員からしたら、うれしいやろな(笑)」


 高瀬も笑った。


「そうかもしれませんね」


 金目は、もう一度支給総額を確認した。


「ほな、これでお願いします」


「承知しました」


 こうして、初回賞与の支給が正式に決定した。


     *


 四月中旬。


 大本恭平と柴崎真帆は、昼休みにオンラインで話していた。


「……そういや、もうすぐボーナスやな」


 大本が言った。


「そうだね」


 柴崎が答えた。


「なんか、まだ実感ないわ」


「私も」


 大本は、少し考えた。


「去年、社長がボーナス作るって発表したとき、結構ざわついとったよな」


「うん。みんな驚いてたね」


「月の給料減るんちゃうかって、心配しとった人もおったし」


「そうだったね」


 柴崎は、少し笑った。


「でも、今までのお給料は減らさないって説明してくれたよね」


「せやせや」


 大本がうなずいた。


「最初、一か月分って聞いて、ちょっと少ないんかなと思ったんよ」


「うん」


「でも、今までの給料に追加やって聞いて、めっちゃうれしかったわ」


「そうだね」


 柴崎も笑った。


「今年は、実際にもらえるんだね」


「せやな」


 大本は、少し考えた。


「……何に使おうかな」


「もう考えてるの?」


「そら考えるやろ(笑)」


 柴崎が笑った。


「まだ金額も確認してないのに」


「……それはそうやな(笑)」


 二人は笑った。


 社会人になって、ちょうど一年。


 昨年の四月には、仕事の進め方も、会社の仕組みも、ほとんどわからなかった。


 今では、それぞれの部署で少しずつ仕事を任されるようになっている。


 そして、初めての賞与を受け取ろうとしていた。


     *


 四月二十日、火曜日。


 朝。


 大本は、いつものように仕事を始める準備をしていた。


 パソコンを起動し、予定表を確認する。


 そこで、ふと思い出した。


「……あ、今日や」


 スマートフォンを手に取り、銀行のアプリを開いた。


 入出金明細を確認する。


 そこには、いつもとは違う振込が記録されていた。


「……おおっ!」


 思わず、声が出た。


「ほんまに入っとる!」


 大本は、もう一度画面を確認した。


 賞与。


 初めて受け取る、会社からの追加の報酬だった。


「……すごいな」


 少し笑った。


 昨年、金目が発表したときには、まだ先の話だと思っていた。


 しかし、今は実際に振り込まれている。


 大本は、同期の柴崎へ連絡した。


     *


「柴崎さん、ちょっとええ?」


「うん。どうしたの?」


「ボーナス、入っとるで!」


 柴崎が笑った。


「うん。私も確認したよ」


「ほんまに入っとるなあ」


「そうだね(笑)」


 大本は、少し興奮した様子で続けた。


「……そういや、給料日って二十五日やんな?」


「うん」


「ほな、また五日後に給料入るん?」


「今年は二十五日が日曜日だから、二十三日の金曜日だよ」


「……え?」


 大本は、少し考えた。


「……三日後?」


「うん(笑)」


「三日後に、また給料入るん?」


「そうなるね」


 大本は、思わず笑った。


「なんやそれ!」


「どうしたの(笑)」


「今週、二回も給料日あるやん!(笑)」


 柴崎も笑った。


「片方は賞与だけどね(笑)」


「いや、わかっとるで?」


 大本は、笑いながら続けた。


「でも、火曜日にボーナスもろて、金曜日に給料やろ?」


「うん」


「……めっちゃええ週やな(笑)」


「それはそうだね(笑)」


 二人は笑った。


「柴崎さんは、何に使うん?」


 大本が尋ねた。


「少し貯金して、あとは欲しかったものを買おうかな」


「堅実やなあ」


「大本君は?」


「……まだ考え中(笑)」


「さっきから、ずっとそれ言ってるね(笑)」


「せやねん。急に選択肢が増えてしもた(笑)」


 柴崎は、また笑った。


     *


 同じ頃。


 開発一課では、岩田健太が賞与明細を確認していた。


「……なるほどな」


 金額を確認し、少しうなずいた。


 今年度は、担当案件の開発だけでなく、複数の案件で技術レビューを行ってきた。


 新しく入社した社員の設計や実装を確認し、不具合につながりそうな問題を事前に見つけたこともある。


 成果物としては、なかなか目立たない仕事だった。


 しかし、三月の評価では、そうした貢献についても確認されていた。


「……ちゃんと見てくれとったんやな」


 岩田は、少し笑った。


 そこへ、中野航平から連絡が入った。


「岩田、ボーナス確認した?」


「したで」


「今週、二回も振込あるんやな(笑)」


「せやな」


「なんか得した気分になるわ」


 岩田が笑った。


「得した気分やなくて、実際に増えとるんやで」


「……それもそうやな(笑)」


 二人は笑った。


     *


 一方、昨年途中に入社した中途社員たちも、それぞれ賞与を確認していた。


 今回の算定期間は、昨年四月から今年三月まで。


 そのため、入社前の期間については控除されている。


 満額ではない社員もいた。


 それでも、制度に基づいて計算された賞与が支給されていた。


「……今年は途中入社やから、こんなもんか」


 ある社員は、明細を確認してうなずいた。


 来年度は、一年間を通して仕事に取り組むことになる。


 その成果が、次の賞与にどう反映されるのか。


 そんなことを考えながら、社員はいつもの仕事へ戻っていった。


     *


 その日の午後。


 田村洋介は、尾崎達也とオンラインで話していた。


「……賞与、ちゃんと出たな」


 田村が言った。


「せやな」


 尾崎が答えた。


「去年発表されたときは、まだ先の話やと思っとったけど」


「ほんまやな」


 田村は、少し考えた。


「でも、実際に支給されると、なんか違うな」


「何が?」


「今年は、俺が評価をまとめたやろ?」


「せやな」


「その結果が、こうして報酬に反映されるんやなと思って」


 尾崎は、うなずいた。


「……なるほどな」


「もちろん、最終的な金額は会社が決めとるけどな」


「せやな」


 田村は、少し笑った。


「でも、評価する側としては、ちゃんと根拠を持たなあかんと改めて思ったわ」


「そうやな」


 尾崎は、少し考えた。


「……来年は、俺も評価する側なんやな」


「せやで」


「今までは、案件の進行を見とったけど」


「うん」


「これからは、課の社員がどんな仕事をしとるか、ちゃんと見なあかんわけやな」


 田村がうなずいた。


「せやな」


「……ちょっと責任感じるな(笑)」


「そら、課長やからな(笑)」


 尾崎が笑った。


「……便利な言葉やな、それ(笑)」


 二人は笑った。


 賞与が支給された日。


 社員たちは、それぞれの立場で、その意味を受け止めていた。


 そして、三日後には、いつもどおりの給与支給日が待っていた。


     *


 四月二十三日、金曜日。


 株式会社カナメでは、いつもどおりの業務が始まっていた。


 この日は、通常給与の支給日だった。


 本来の給与支給日は毎月二十五日。


 しかし、今年の四月二十五日は日曜日に当たるため、前営業日の二十三日に繰り上げられていた。


 そして、今週の火曜日には、初めての賞与が支給されたばかりだった。


     *


「……また入っとる」


 大本恭平は、スマートフォンの画面を見ながらつぶやいた。


 銀行の入出金明細には、三日前の賞与に続いて、今日の給与が記録されている。


 もちろん、毎月の給与が振り込まれることはわかっている。


 それでも、今週は少し特別だった。


「……ほんまに、二回入ったな(笑)」


 大本は、思わず笑った。


 火曜日に賞与。


 金曜日に給与。


 わずか三日間で、二度の振込。


 金額を見比べながら、少し考えた。


「……なんか、めっちゃ働いた気分になるわ」


 実際には、今週だけ特別に仕事をしたわけではない。


 賞与は、昨年度一年間の成果に対して支給されたものだった。


 しかし、そんなことはわかっていても、うれしいものはうれしい。


 大本は、柴崎真帆へ連絡した。


     *


「柴崎さん、ちょっとええ?」


「うん。どうしたの?」


「……また入っとるで(笑)」


 柴崎が笑った。


「そりゃ、お給料日だからね」


「いや、わかっとるんやけどな」


 大本は、少し笑った。


「火曜日にボーナスもろて、金曜日に給料やろ?」


「うん」


「……今週、めっちゃ働いた気分になるわ(笑)」


「今週働いた分じゃないけどね(笑)」


「それもわかっとる(笑)」


 二人は笑った。


「でも、なんか不思議な感じやな」


 大本が言った。


「何が?」


「去年まで、毎月の給料だけやったやろ?」


「そうだね」


「それが、今年はボーナスもあるわけやん」


「うん」


「……なんか、社会人っぽいなあと思って」


 柴崎は、少し笑った。


「去年から社会人だけどね(笑)」


「……せやったな(笑)」


 二人は、また笑った。


     *


 昼休み。


 営業部では、松井慎吾と小坂千尋、大本がオンラインで雑談していた。


「大本君、今日はなんだか機嫌がいいね」


 小坂が言った。


「そうですか?」


「うん。朝からずっと楽しそう」


 大本は、少し笑った。


「いや、今週二回も振込あったんで」


「ああ、賞与と給与ね」


「そうなんです」


 松井も笑った。


「確かに、今年は特別な感じがしますね」


「ですよね!」


 大本は、うなずいた。


「火曜日にボーナスもろて、今日また給料ですから」


 小坂が笑った。


「そんなにうれしい?」


「そら、うれしいですよ!」


「まあ、そうだよね(笑)」


 松井は、少し考えた。


「でも、去年の制度発表のときは、毎月の給与が減るんじゃないかって心配していた人もいましたよね」


「そうでしたね」


 小坂がうなずいた。


「それが、実際には今までの給与を減らさずに、賞与が追加されたわけですから」


「そうなんですよ!」


 大本が、少し身を乗り出した。


「ほんまに増えたんやなって、今週めっちゃ実感しました」


 松井が、少し笑った。


「それはよかったですね」


 小坂も、うなずいた。


「来年も楽しみだね」


「はい!」


 大本は、少し考えた。


「……来年は、もっともらえるように頑張りたいです」


「いいね」


 小坂が笑った。


「でも、賞与のためだけに無理しないでね」


「もちろんです(笑)」


 松井もうなずいた。


「今年は、担当できる仕事も少しずつ増やしていきましょう」


「はい。よろしくお願いします!」


     *


 一方、業務部では、高瀬が給与振込の完了を確認していた。


 四月二十日。


 初回賞与の支給。


 四月二十三日。


 通常給与の支給。


 どちらも、予定どおり処理が完了している。


「……よし」


 高瀬は、確認表を更新した。


 福原からも、連絡が入った。


「高瀬さん、今月の給与支給についても、確認が完了しました」


「ありがとうございます」


「賞与の方も、今のところ大きな問い合わせはありません」


「それはよかったです」


 高瀬は、少し笑った。


「初回でしたので、いろいろ確認することがありましたね」


「そうですね」


 福原もうなずいた。


「でも、無事に支給できて安心しました」


「はい。お疲れさまでした」


「ありがとうございます」


 高瀬は、資金繰り表を開いた。


 賞与の支給総額。


 通常給与の支給総額。


 そして、今後の支払予定。


 いずれも、事前の計画どおりだった。


 資金繰りに問題はない。


 しかし、短期間に二度の大きな支出があったことも事実だった。


「……さて、社長にも報告しておきましょうか」


     *


「金目さん、少しよろしいでしょうか?」


 高瀬が連絡した。


「ええですよ。どうしました?」


「本日分の給与振込も、予定どおり完了しました」


「ありがとうございます」


 金目は、少し笑った。


「これで、今月の賞与と給与、両方終わったわけやな」


「はい」


「そらよかった」


 高瀬は、資料を共有した。


「初回賞与についても、現時点では大きな問題はありません」


「それは何よりやな」


「社員の皆さんも、喜ばれているようです」


「そうなん?」


「はい。福原さんのところにも、何件かお礼の言葉が届いているそうです」


 金目は、少し笑った。


「そら、うれしいな」


 高瀬もうなずいた。


「ただ、今週は支払いが集中しましたね」


「……ああ」


 金目は、資金繰り表を確認した。


「火曜日に賞与で、金曜日に給与やもんな」


「そうですね」


「……ようけお金出ていったなあ(笑)」


 高瀬が、少し笑った。


「社員の皆さんからすると、二回入ってきたわけですけど」


「せやな」


「会社からすると、二回出ていきましたからね」


 金目は、思わず笑った。


「……夢のないこと言わんといて(笑)」


「事実ですから(笑)」


 二人は笑った。


「まあ、資金繰りは問題ないんやろ?」


「はい。賞与分は事前に確保しています」


「ほな、ええやん」


 金目は、少し笑った。


「社員が喜んでくれとるんやったら、出した甲斐もあるわ」


「そうですね」


     *


 少しして、金目は昨年の全社説明会を思い出していた。


 賞与制度を創設すると発表したとき、社員たちは驚いていた。


 毎月の給与が減るのではないか。


 一か月分だけなのか。


 どのくらいもらえるのか。


 さまざまな反応があった。


 そこで金目は、従来の月額給与を減らさず、追加で賞与を支給することを説明した。


 社員たちが喜んでくれたことは、今でも覚えている。


 しかし、あのときは、まだ制度を発表しただけだった。


 実際に支給するのは、一年後。


 会社の業績がどうなるのかも、まだわからなかった。


 そして今、その約束を果たすことができた。


「……まあ、無事に出せてよかったわ」


 金目が言った。


 高瀬がうなずいた。


「そうですね」


「でも、今年一回出せたから終わりちゃうしな」


「はい」


「制度作った以上、ちゃんと続けたいねん」


 高瀬は、少し考えた。


「そのためにも、来年度以降の人件費計画は重要になりますね」


「せやな」


 金目は、資料を確認した。


 今年度も、採用活動は続いている。


 年末には、三十五名体制を目指す。


 そして、翌年末には四十名。


 社員が増えれば、当然ながら人件費も増える。


 賞与の支給総額も、今より大きくなるだろう。


「……会社が大きなるいうんは、そういうことやな」


 金目が言った。


「そうですね」


「仕事を増やすだけやなくて、社員にちゃんと払えるようにせなあかん」


「はい」


 高瀬は、うなずいた。


「採用計画と合わせて、今後の支給見込みも確認していきます」


「お願いします」


     *


 四月下旬。


 大本は、柴崎と再び雑談していた。


「……結局、ボーナス何に使うことにしたん?」


 柴崎が尋ねた。


「まだ迷っとる(笑)」


「まだ決めてないの?」


「せやねん」


 大本は、少し笑った。


「欲しいもんはいろいろあるんやけどな」


「そうなんだ」


「でも、なんか使うんがもったいない気もしてきて」


 柴崎が笑った。


「それなら、少し貯金したら?」


「……それもありやな」


「うん」


 大本は、少し考えた。


「……でも、来年もボーナスもらえるんやろ?」


「制度が続けばね」


「せやな」


 少し間を置いた。


「ほな、来年はもっと仕事できるようになりたいな」


 柴崎がうなずいた。


「そうだね」


「今年は、去年よりできること増えたと思うし」


「うん。私も」


 大本は、少し笑った。


「……まあ、まだまだやけどな」


「それは私もだよ」


 二人は笑った。


 一年前。


 二人は、まだ入社したばかりだった。


 わからないことばかりで、先輩たちに教えてもらう日々だった。


 今でも、知らないことは多い。


 しかし、少しずつ自分で考え、仕事を進められるようになってきていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメで初めて賞与が支給されるお話でした。


昨年四月、金目が社員たちへ発表した賞与制度。


それまでの月額給与を減らすことなく、新たに一か月分を基準とする賞与を追加するというものでした。


あれから一年。


ついに、初めての支給日を迎えました。


さて、今回の大本。


……実にわかりやすい喜び方でしたね(笑)。


火曜日に賞与が振り込まれ、金曜日には通常の給与が振り込まれる。


わずか三日間で二度の入金です。


そりゃ、うれしくもなるでしょう。


もっとも、賞与と給与は別のものですし、今週だけ特別に働いたわけでもないのですが。


……そんな細かいことは、喜んでいるときにはどうでもいいのかもしれません(笑)。


実は筆者も、賞与が振り込まれる日は、いつもうれしくなります。


社会人になってから何度も賞与を受け取ってきましたが、あの感覚はなかなか変わりません。


支給されることがわかっていても、実際に口座へ振り込まれているのを見ると、やっぱりうれしいものです。


別に、毎回何か大きな買い物をするわけでもありません。


使い道が決まっていなくても、残高が増えているだけで、ちょっと気分がよくなります。


……我ながら、単純なものですね(笑)。


だからこそ、今回の大本の気持ちは、筆者にもよくわかります。


しかも、三日後にはまた給与が入ってくるわけですから。


これは、なかなか贅沢な一週間だったのではないでしょうか。


さて、一方で、金目と高瀬は少し違う立場でした。


社員たちにとっては、三日間で二度の入金。


会社にとっては、三日間で二度の大きな支出です。


同じ出来事なのに、立場によって見え方がまったく違う。


……経営者というのも、なかなか大変ですね(笑)。


もっとも、今回のカナメでは、賞与の原資をあらかじめ確保していました。


社員への約束を守るために、必要な資金を準備し、評価や支給額を確認していたわけです。


賞与を支給することは、単に銀行口座からお金を振り込めば終わりという話ではありません。


その裏では、高瀬や福原が制度を運用し、田村たち管理職が社員の成果を評価していました。


そうした仕事があって初めて、社員たちは安心して賞与を受け取れるのでしょう。


そして、今回は岩田の反応も描きました。


技術レビューや、ほかの社員への支援。


そうした仕事は、自分の名前がついた成果物として残りにくいこともあります。


しかし、今回の評価では、その貢献も確認されていました。


もちろん、賞与の金額だけで、すべての仕事の価値が決まるわけではありません。


それでも、自分の仕事をきちんと見てもらえていると感じられることには、大きな意味があるのだと思います。


さて、今回の金目。


無事に初回賞与を支給できたことを喜びながらも、すでに来年以降のことを考えていました。


賞与制度を作ることは、一つの決断です。


しかし、それを続けるためには、会社として利益を出し、必要な資金を確保し続けなければなりません。


一度だけ支給できればよいというものではないわけです。


今回、カナメは昨年の約束を果たしました。


ただ、本当に大切なのは、その約束をこれからも守り続けることなのでしょう。


……もっとも、社員が増えれば賞与の総額も増えるわけですが(笑)。


金目には、引き続き頑張ってもらいたいところです。


さて、四月の組織再編と初回賞与支給を終え、カナメの新年度も本格的に動き始めました。


新しい課長が生まれ、新卒社員も四名加わりました。


そして、年末には三十五名体制を目指しています。


人数が増え、任せられる仕事が増えれば、会社の姿も少しずつ変わっていくのでしょう。


次回からは、そんな新しい体制で働く社員たちの日常へ、少し視点を戻していきたいと思います。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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