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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第三章 任せた先にあるもの
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増えた仲間

 2031年11月。


 株式会社カナメでは、春から続けてきた中途採用によって、新しい社員が少しずつ加わっていた。


 今年の採用方針は、開発部の強化だった。


 開発課に四名。


 基盤運用課に一名。


 営業部長候補の募集は続けているものの、一般営業職と業務部の増員は予定していない。


 仕事を取ってくる力よりも、引き受けた仕事を確実に進める力を増やす。


 それが、今のカナメの判断だった。


     *


「……アカウントの準備は完了していますね」


 福原奈央は、入社者の受け入れ管理表を確認していた。


 貸与するパソコン。


 社内システムへのアクセス権限。


 必要な書類。


 そして、各部署での受け入れ予定。


「福原さん、進捗はどうですか?」


 三宅が声をかけた。


「はい。今週入社される方の準備は、ひととおり終わっています」


「ありがとうございます」


 三宅は、管理表を確認した。


「開発部の受け入れも、だいぶ慣れてきましたね」


「そうですね」


 福原は、少し笑った。


「ただ、入社手続きが終わったら、それで完了というわけではないんですよね」


「そうですね」


「現場で仕事を始められるところまで、確認しておきたいと思っています」


 三宅がうなずいた。


「いいと思います。開発環境の準備や、最初の担当業務についても、各部署と連携しておきましょう」


「はい」


 福原は、管理表に新しい項目を追加していた。


 入社手続き完了。


 環境構築完了。


 業務説明完了。


 そして、担当業務への参加状況。


 採用した人数だけでは、会社の力がどれだけ増えたのかはわからない。


 福原は、少しずつそのことを理解し始めていた。


     *


 数日後。


 開発課では、新しく入社した中途社員への業務説明が行われていた。


 田村洋介と尾崎達也が、オンライン会議に参加している。


「改めて、よろしくお願いします」


 田村が言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 新しく加わった社員は、前職でも業務システムの開発に携わっていた。


 設計から実装まで、一通りの経験がある。


 ただし、カナメの顧客や業務については、まだ知らないことが多かった。


「まずは、今動いとる案件の一つに入ってもらおうと思っとる」


 田村が、案件一覧を共有した。


「はい」


「技術的には、経験を生かしてもらえると思う。ただ、お客様の業務については、最初に覚えてもらう必要があるからな」


「承知しました」


 尾崎が、資料を開いた。


「この案件は、既存システムへの機能追加が中心やねん」


「なるほど」


「開発自体はそこまで複雑ちゃうけど、既存の業務に影響するところがあるから、最初にその辺を確認してほしい」


「わかりました」


 新入社員は、構成図を確認した。


「技術的には対応できそうですが、こちらのお客様の業務は、まだ十分に理解できていなくて」


「そら、最初からわからんで当然やで」


 尾崎が笑った。


「そこは、こっちで説明するわ」


「ありがとうございます」


 田村もうなずいた。


「技術は頼りにしとるけど、うちの仕事の進め方は少しずつ覚えてもらったらええ」


「はい」


「最初から全部任せるつもりはないし、わからんことがあったら聞いてな」


「承知しました」


 尾崎は、担当する作業と確認事項を整理した。


 まずは、既存機能の理解。


 次に、影響範囲の確認。


 そして、小さな変更から担当してもらう。


 経験者であっても、新しい会社では覚えることがある。


 そのことは、受け入れる側も理解していた。


     *


 十一月中旬。


 開発課では、複数の案件が並行して進んでいた。


 新しく加わった社員たちも、少しずつ実装を担当するようになっている。


 しかし、人が増えたことで、別の仕事も増えていた。


「……レビュー、結構たまっとるな」


 岩田健太が、依頼一覧を確認していた。


 新しい社員が書いたコード。


 既存社員が担当している機能追加。


 そして、複数の案件で必要になっている設計確認。


 実装を進める人が増えれば、確認する仕事も増える。


 岩田は、田村へ連絡した。


「田村さん、ちょっとええ?」


「どうした?」


「レビューの依頼が増えとるんやけど、少し分担できへんかな」


「なるほど」


 田村は、一覧を確認した。


「確かに増えとるな」


「全部俺が見る必要はないと思うんよ」


「せやな」


 田村は、少し考えた。


「上條さんにも相談してみようか」


     *


「レビューの分担ですか?」


 上條亮介が尋ねた。


「せやねん」


 田村が答えた。


「岩田に依頼が集中しとるから、案件によって分けたいと思っとる」


「わかりました」


 上條は、一覧を確認した。


「この辺りなら、僕の方でも対応できると思います」


「助かるわ」


 岩田が言った。


「ただ、柴崎さんの指導もあるやろ?」


「はい。でも、そちらも少しずつ自分で進められるようになってきていますので」


「なるほど」


 田村は、担当一覧を更新した。


 技術的な難易度が高いものは、岩田が中心となって確認する。


 比較的小さな変更や、上條が内容を把握している案件は、上條もレビューを担当する。


 必要に応じて、ほかの経験者にも確認を依頼する。


「これで、少しは分散できそうやな」


 田村が言った。


「そうですね」


 上條がうなずいた。


 岩田も、少し笑った。


「助かるわ」


 田村は、更新した一覧を見直した。


 固定のチームを作ったわけではない。


 案件ごとに、必要な人を組み合わせる。


 今の開発課では、その方法を続けていた。


     *


 一方、基盤運用課でも、新しい社員の受け入れが進んでいた。


 井上修一と藤井直人が、運用手順について説明している。


「この確認作業、毎朝実施されているんですね」


 新しく加わった社員が尋ねた。


「せやで」


 井上が答えた。


「今のところ、手作業で確認しとる」


「なるほど」


 新入社員は、手順書を見直した。


「この部分、自動化できそうですね」


 井上が、少し笑った。


「せやな。前から考えとったんやけど、なかなか手が回らんかって」


 藤井もうなずいた。


「ただ、いきなり全部変えるのは避けたいですね」


「そうですね」


 新入社員が答えた。


「まずは、影響の少ない確認作業から試してみたいと思います」


「それがええな」


 井上は、少し考えた。


「今の運用を理解してもらってから、改善できるところを一緒に考えようか」


「はい」


 藤井は、手順書を開いた。


「では、まず現在の確認項目を整理しましょう」


「お願いします」


 新しい社員が加わったことで、これまで手をつけられなかった改善にも、少しずつ取り組めるようになっていた。


 ただし、すぐにすべてを任せられるわけではない。


 今の仕組みを理解し、問題が起きたときに対応できるようになること。


 それが、最初の仕事だった。


     *


 十一月下旬。


 田村洋介は、開発課の案件一覧を確認していた。


 新しく加わった社員たちも、少しずつ仕事を担当するようになっている。


 設計から実装まで経験のある社員。


 小規模な案件を一人で進めた経験のある社員。


 それぞれの得意分野を生かしながら、既存の案件へ参加していた。


 以前と比べれば、仕事を任せられる相手は確実に増えている。


 しかし、田村の予定表は、以前よりも埋まっていた。


 案件の進捗確認。


 担当者の調整。


 新しく入社した社員との面談。


 既存社員の育成。


 そして、年末に向けた評価の準備。


「……人が増えたら、楽になると思っとったんやけどな」


 田村は、少し笑った。


 もちろん、開発の仕事そのものは進めやすくなっている。


 ただ、その仕事を誰に任せるのか。


 どの案件を優先するのか。


 誰がどこまで対応できるのか。


 そうした判断は、以前よりも増えていた。


     *


「田村、ちょっとええか?」


 西田から連絡が入った。


「ええで」


「新しい人ら、どうや?」


「順調やと思うで」


 田村は、案件一覧を共有した。


「経験者やし、実装の方は助かっとる」


「そらよかった」


「ただ、うちの仕事の進め方を覚えてもらうには、もうちょっと時間かかりそうやな」


「せやろな」


 西田は、資料を確認した。


「案件の進行は、尾崎にも任せとるんやろ?」


「せやで。そこはかなり助かっとる」


「岩田のレビューも、分担できるようになったんやな」


「上條にも一部お願いしとる。今のところ、それで回せそうや」


「なるほど」


 西田は、少し考えた。


「田村自身の負担はどうや?」


 田村は、予定表を見直した。


「……まあ、増えとるな(笑)」


「せやろ?」


「人が増えた分、確認することも増えたしな」


 西田は、うなずいた。


「無理はせんといてな」


「わかっとる」


「必要やったら、仕事の分け方も考えよう」


「せやな」


 田村は、少し笑った。


「でも、まだ今のやり方で回せとるで」


「了解」


「もうちょっと様子見させて」


「わかった」


 西田は、それ以上踏み込まなかった。


 田村が課の仕事を把握し、案件ごとの担当を調整できているうちは、無理に組織を変える必要はない。


 ただ、人が増えれば、今までと同じ方法がいつまでも通用するとは限らない。


 そのことは、二人とも理解していた。


     *


 同じ頃。


 福原奈央は、中途入社者の受け入れ状況を確認していた。


 入社手続き。


 開発環境の準備。


 業務説明。


 そして、担当案件への参加。


 管理表には、それぞれの進捗が記録されている。


 福原は、開発課の受け入れ担当者へ連絡した。


「新しく入社された方の状況について、少し確認させてください」


 担当者は、現在の様子を説明した。


 技術的な作業には問題なく取り組めている。


 ただし、顧客の業務知識については、まだ確認しながら進めているという。


「ありがとうございます」


 福原は、管理表を更新した。


 続いて、基盤運用課の状況も確認する。


 こちらでは、既存の運用手順を理解しながら、一部の確認作業の自動化を検討しているところだった。


 福原は、少し安心した。


 入社した社員たちは、それぞれの部署で仕事を始めている。


 しかし、すべてを一人で任せられる段階ではない。


 それでも、少しずつできることは増えていた。


     *


「福原さん、受け入れ状況はいかがですか?」


 三宅が尋ねた。


「はい。各部署で順調に進んでいるようです」


「それはよかったです」


 福原は、少し考えた。


「ただ、入社した方だけでなく、受け入れる側の負担も確認した方がよさそうですね」


「そうですね」


 三宅がうなずいた。


「特に開発課は、人数が増えていますから」


「はい」


「田村さんも、かなり忙しそうですし」


 福原は、管理表を見直した。


 新しい社員の立ち上がり状況。


 指導担当者。


 そして、今後の確認予定。


「……受け入れる側の状況も、項目に追加しておきます」


「いいと思います」


 三宅は、少し笑った。


「福原さん、だいぶ仕事の見方が変わりましたね」


「そうでしょうか?」


「はい。以前は、手続きが終わったかどうかを中心に確認していましたから」


 福原は、少し笑った。


「……確かに、そうかもしれません」


「今は、その後のことまで考えてくれていますね」


「ありがとうございます」


 福原は、少し照れたように笑った。


     *


 十一月末。


 福原は、金目へ採用状況を報告していた。


「今年の採用について、現在の状況をご報告します」


「お願いします」


 金目が答えた。


「開発部へ新しく入社された方々は、少しずつ担当業務に参加しています」


「それはよかった」


「ただ、入社直後ですので、まだすべての仕事を一人で進められるわけではありません」


「せやろな」


 金目はうなずいた。


「経験者でも、うちの仕事は初めてやもんな」


「はい」


「そこは焦らんでええと思うで」


「承知しました」


 福原は、次の資料を表示した。


「また、受け入れ側の負荷についても確認を進めています」


「なるほど」


「特に開発課では、レビューや担当者の調整が増えているようです」


「せやろな」


 金目は、少し考えた。


「人が増えたら、その分、仕事を任せる準備も必要になるからな」


「はい」


「田村さんのところは、どうや?」


「現時点では、案件ごとの担当編成で対応できているそうです」


「そうか」


「ただ、今後さらに人数が増える場合は、仕事の分け方も検討する必要があるかもしれません」


 金目は、うなずいた。


「せやな。そこは西田さんと田村さんに考えてもらおうか」


「承知しました」


 福原は、メモを取った。


 金目は、少し笑った。


「しかし、採用も大変やな」


「そうですね」


「採ったら終わりちゃうもんな」


「はい」


「福原さんも、よう見てくれとると思うで」


「ありがとうございます」


 福原は、少しうれしそうに笑った。


     *


「……ところで」


 金目が、少し間を置いた。


「営業部長の方は、どうなっとる?」


 福原は、資料を確認した。


「引き続き、募集を継続しています」


「……せやんな(笑)」


 金目は、少し笑った。


「なかなか見つからんなあ」


「申し訳ありません」


「いや、謝らんでええで」


 金目は、うなずいた。


「誰でもええわけちゃうしな」


「はい」


「そこは、引き続きお願いします」


「承知しました」


 福原は、採用管理表を閉じた。


 営業部長候補。


 その項目は、まだ残っていた。


     *


 会議を終えた金目は、開発部の人員一覧を開いた。


 以前より、名前が増えている。


 それぞれに経験があり、得意な仕事がある。


 新しい社員たちが加わったことで、会社として対応できる仕事は、少しずつ増えていくだろう。


 しかし、人を増やすだけでは、会社は強くならない。


 その人たちが仕事を覚え、力を発揮できるようにする必要がある。


 そして、人数が増えれば、仕事の進め方も変えていかなければならない。


「……まあ、ぼちぼちやな」


 金目は、少し笑った。


 開発部には、新しい仲間が増えた。


 営業部長の席は、まだ空いている。


 そして、会社の仕事は、相変わらず続いている。


 株式会社カナメは、増えた仲間たちとともに、少しずつ次の段階へ進もうとしていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、新しい仲間が増えたカナメのお話でした。


今年の採用では、営業部や業務部の人数を増やすのではなく、開発部の強化を優先しています。


仕事を取ってくる人を増やすより、まずは受けた仕事をきちんと進められる体制を整える。


そんな判断から、経験のあるエンジニアたちを迎えることになりました。


さて、人が増えれば仕事が楽になる。


……そう思いたいところですが、なかなかそうはいかないようです(笑)。


新しく入社した人が、どれだけ経験豊富であっても、その会社の仕事を最初からすべて理解しているわけではありません。


使っているシステムも違えば、開発の進め方も違います。


何より、お客様の業務については、一から覚えなければならないこともあるでしょう。


今回、尾崎が中途入社者に説明していたのも、そうした部分でした。


技術的な経験は頼りにする。


けれど、カナメの仕事の進め方については、少しずつ覚えてもらう。


経験者だからといって、入社初日からすべてを任せるわけではありません。


そして、人が増えれば、受け入れる側の仕事も増えます。


岩田にはレビューの依頼が集まり、田村には担当者の調整や育成の仕事が増えていました。


上條も、柴崎の指導を続けながら、レビューの一部を引き受けています。


仕事を進める人が増えれば、その仕事を確認したり、調整したりする人も必要になるわけです。


……田村としては、少々複雑な気分かもしれませんね(笑)。


一方、基盤運用課では、新しい社員が加わったことで、以前から考えていた運用改善にも手をつけられるようになってきました。


日々の業務をこなすだけで手いっぱいだったところに、改善を考える余裕が生まれる。


こうした変化も、増員によって得られる大切な効果なのでしょう。


ただし、新しい人が入ったからといって、すぐに何でも任せられるわけではありません。


その人の経験を生かしながら、会社の仕事を理解してもらう。


受け入れる側にも、そうした準備が必要になります。


さて、今回もう一人、成長していたのが福原です。


前回は、どのような人材を採用するべきかを考えていました。


今回は、採用した人が実際に仕事を始められているか、そして受け入れる側に無理が生じていないかまで確認しています。


採用活動は、内定を出して終わりではありません。


入社した人が仕事を覚え、力を発揮できるようになって初めて、会社としての採用の効果が表れてくるのでしょう。


そして、今回の金目。


開発部には新しい仲間が増えたものの、営業部長候補は相変わらず見つかっていません。


……なかなか思いどおりにはいきませんね(笑)。


もっとも、誰でもよいから採用するというわけにもいきません。


適任者が見つかるまでは、もうしばらく金目に頑張ってもらうことになりそうです。


さて、2031年も残りわずかとなりました。


新しい組織が発足し、賞与制度が始まり、新卒社員や中途社員も加わった一年。


会社としてできることは、確実に増えてきています。


一方で、人が増えたことによって、新しい課題も少しずつ見えてきました。


次回は、そんなカナメの一年を振り返るお話です。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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