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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第二章 増えていく席
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断る仕事

 2029年11月。


 株式会社カナメに、新しい開発案件の相談が届いた。


 依頼元は、以前から取引のある企業だった。


 複数の拠点で使う在庫管理システムを、新しく構築したいという。


 これまでは拠点ごとにExcelで在庫を管理していたが、拠点間での在庫移動が増え、情報の共有が追いつかなくなっていた。


 各拠点の在庫数。


 入出庫の履歴。


 拠点間の移動。


 発注点の管理。


 それらを一つのシステムで確認できるようにしたいらしい。


 田村は、顧客から届いた資料を確認していた。


 要件は、それなりに整理されている。


 しかし、一つ気になるところがあった。


『希望納期:2030年1月末』


「……なかなか厳しいな」


 田村は、資料を金目と西田へ共有した。


     *


「結構ええ案件やと思うで」


 田村が、オンライン会議で説明した。


 参加しているのは、金目、西田、田村の3人。


「既存のお客さんやし、業務のこともある程度わかっとる。要件も、そこそこ整理されとるしな」


 金目は、資料を確認した。


「なるほど」


「ただ、納期がちょっとな」


「……1月末ですか」


「そうやねん」


 金目は、少し考えた。


「今からやったら、実質2か月ちょっとですね」


「せやな。年末年始もあるし」


 西田が口を開いた。


「これ、全部作るんやったら結構厳しいで」


「そうなん?」


「うん。機能が多いし、拠点間の在庫移動もあるやろ。データの整合性も考えなあかん」


「なるほど」


「それに、今動いとる案件もあるからな」


 金目はうなずいた。


 10月に受注した画面改善案件も、これから本格的な開発が始まる。


 ほかにも、既存顧客向けの開発や保守・運用が進んでいる。


 金目は、資料を見直した。


「……でも、これ、結構ええ商売になるんちゃう?」


 田村が笑った。


「まあ、金額次第やけどな」


「せやな」


 金目も笑った。


「ほな、まずは見積もってみましょうか」


 西田がうなずいた。


「了解。ただ、納期はちゃんと確認させてな」


「もちろん」


     *


 数日後。


 西田は、開発部の稼働状況を整理していた。


 既存案件の開発予定。


 保守・運用。


 画面改善案件。


 そして、新しく相談された在庫管理システム。


 必要な作業を積み上げると、1月末までにすべてを完成させるのは難しい。


 西田は、金目に報告した。


「……正直、今の体制では厳しいな」


「そうですか」


「うん。無理したらできるかもしれんけど、余裕がほとんどない」


 金目は、少し考えた。


「人を増やしたら間に合う?」


 西田は、少し首を振った。


「今から人入れても、すぐ戦力になるわけちゃうからな」


「なるほど」


「設計の共有も必要やし、既存の仕組みを理解してもらう時間もかかる」


「そうやね」


「人数だけ増やしても、かえって調整が増える可能性もあるで」


 金目はうなずいた。


 人を増やせば、仕事が早く終わる。


 そんな単純な話ではない。


 まして、納期が迫っている案件ならなおさらだった。


「……ほな、別の方法を考えましょうか」


「そうやな」


     *


 11月の半ば。


 金目、西田、田村、高瀬の4人は、新しい案件について話し合っていた。


 高瀬は、想定される開発費用と契約条件を確認していた。


「採算としては、成立する可能性があります」


 高瀬が説明した。


「ただし、予定どおりに進むことが前提です」


「なるほど」


 金目は、資料を見直した。


「……それ、ちょっと怖いですね」


「そうですね。余裕がほとんどありません」


 西田が続けた。


「特に、拠点間の在庫移動は慎重に作らなあかん。データが合わんようになったら、現場の仕事に影響するからな」


「そうやね」


「テストも、それなりに時間が必要やと思う」


 金目はうなずいた。


 売上としては魅力的だった。


 しかし、予定どおりに進まなければ、追加の費用が発生する。


 納期が遅れれば、顧客にも迷惑がかかる。


 そして、既存案件の進行にも影響するかもしれない。


「……これ、全部1月末に作らなあかんのかな」


 金目がつぶやいた。


 田村が顔を上げた。


「どういうこと?」


「いや、全部の機能が、ほんまに1月末から必要なんかなと思って」


「なるほど」


「例えば、最初に必要な機能だけ先に作って、残りは後からでもええんちゃう?」


 西田が、少し考えた。


「……それなら、可能性はあるな」


「そうなん?」


「うん。機能を分けられるなら、段階的に納品する方法はあると思う」


 金目は、少し笑った。


「ほな、ちょっと整理してみましょうか」


     *


 田村は、顧客へ追加の確認を行った。


 1月末までに、何を実現したいのか。


 なぜ、その時期なのか。


 どの機能が必須なのか。


 そして、どこまでなら後から対応できるのか。


 顧客の担当者は、少し考えて答えた。


「実は、2月から一部の拠点で新しい運用を始める予定なんです」


「なるほど」


「そのため、1月末までにシステムを使えるようにしたくて」


「全部の拠点で使う予定なんですか?」


「いえ。最初は二つの拠点だけです」


 田村は、少し考えた。


「でしたら、最初に必要な機能だけを先に用意する方法もあるかもしれませんね」


「そうなんですか?」


「はい。技術的な確認は必要ですが、段階的に導入する方法も考えられます」


 担当者は、少し安心した様子だった。


「それなら、助かるかもしれません」


「ありがとうございます。社内で整理して、改めてご提案します」


 田村は、打ち合わせを終えた。


     *


 翌日。


 田村が確認した内容をもとに、西田は開発範囲を整理していた。


 1月末までに必要なもの。


 在庫の登録。


 入出庫の記録。


 二拠点間の在庫移動。


 基本的な在庫照会。


 それ以外の機能は、3月末までに追加する。


 全拠点への展開。


 発注点の管理。


 集計機能。


 運用上の細かな改善。


 西田は、資料を金目へ共有した。


「これなら、現実的な計画にできそうやで」


「ほんま?」


「うん。ただし、最初の二拠点で使う機能は、ちゃんとテストする必要がある」


「もちろん」


「あと、拠点間の在庫移動は、最初から設計を考えとかんとあかん」


「なるほど」


「後から拠点を増やすことを前提にして、最初の段階を作る形やな」


 金目はうなずいた。


「ええと思います」


 そして、少し笑った。


「……ほな、最初から全部1月末に作る必要ないやん」


 西田も笑った。


「まあ、お客さんがそれでええならな」


「せやな」


 金目は、田村に連絡した。


『段階納品の案で、一度お客さんに相談しましょうか』


『了解。日程調整するわ』


 金目は、資料を閉じた。


 仕事を断るのは、簡単だった。


 しかし、断る前にできることはある。


 条件を整理する。


 必要なものを見極める。


 そして、実現できる方法を提案する。


 金目は、少し笑った。


「……まだ、商売になるかもしれんな」


     *


 11月の下旬。


 金目と田村は、顧客とのオンライン商談に参加していた。


 画面の向こうには、先日から調整を続けている担当者と、その上司がいる。


「本日は、開発範囲と納期について、改めてご提案させていただきます」


 金目が挨拶した。


「よろしくお願いします」


 顧客の上司が答えた。


 金目は、資料を共有した。


『在庫管理システム開発 ご提案』


 そこには、三つの案が並んでいた。


 A案。


 すべての機能を開発し、3月末までに納品する。


 B案。


 1月末までに必要な機能だけを開発し、対象を二拠点に限定する。


 C案。


 1月末に二拠点向けの基本機能を先行提供し、3月末までに残りの機能と全拠点への展開を行う。


「今回、三つの案を用意しました」


 金目が説明した。


「どれも、開発部で必要な作業と確認を整理したうえで、実現可能性を検討したものです」


 顧客の上司は、資料を確認していた。


「なるほど」


「まず、A案は当初ご希望いただいた機能をすべて実装するものです。ただし、納期は3月末になります」


「そうですか」


「B案は、1月末までに必要な機能へ絞る案です。対象も、最初に利用される二拠点に限定します」


「なるほど」


「C案は、その両方を組み合わせたものです。1月末に基本機能を先行提供し、残りを3月末までに追加します」


 田村が補足した。


「先日お話を伺ったところ、2月から運用を始めるのは、まず二つの拠点とのことでしたので」


 担当者がうなずいた。


「はい。その予定です」


 金目は、少し笑った。


「でしたら、最初からすべての機能を完成させる必要はないかもしれません」


     *


 顧客の上司は、しばらく資料を眺めていた。


「……内容は、よくわかりました」


「ありがとうございます」


「ただ、価格の方はどうなりますか?」


 金目は、次の資料を表示した。


 三つの案について、それぞれの開発範囲と見積もり条件が整理されている。


「B案については、開発範囲を絞るため、当初より金額を抑えられる見込みです」


「なるほど」


「一方、A案とC案は、最終的に実装する機能が同じですので、大きな価格差はありません」


「そうなんですね」


「ただし、C案は二段階での確認や導入調整が必要になりますので、その分の作業も見込んでいます」


 顧客の上司はうなずいた。


「できれば、もう少し費用も抑えたいところなんですが……」


「もちろん、ご予算の事情もあると思います」


 金目は答えた。


「ただ、費用を抑える場合は、開発する範囲も見直す必要があります」


「なるほど」


「必要な確認やテストまで省いてしまうと、かえって運用開始後に問題が起きる可能性がありますので」


 田村も続けた。


「在庫管理は、実際の数量とシステム上の数量が合っていることが大事ですからね」


 担当者がうなずいた。


「そこは、確かに困りますね」


 金目は、少し考えた。


「それと、もう一つ確認させていただいてもよろしいですか?」


「はい」


「今回のシステムを、実際に使われる方々には、もうお話をされていますか?」


 顧客の上司は、少し考えた。


「導入すること自体は伝えています」


「なるほど」


「ただ、具体的な操作や切り替えの手順までは、まだ説明していません」


「そうなんですね」


 金目はうなずいた。


「でしたら、そこも確認させていただきたいんです」


「といいますと?」


「仮に1月末にシステムが完成したとしても、2月1日から現場の方が問題なく使えるとは限りませんよね」


 顧客の上司は、少し考えた。


「……そうですね」


「操作に慣れる時間も必要ですし、今のExcelからデータを移す作業もあります」


「なるほど」


「場合によっては、しばらく並行して運用する必要もあるかもしれません」


 田村が補足した。


「特に在庫管理の場合、切り替えの途中で数量が合わなくなると、現場の業務に影響しますからね」


「確かに……」


 金目は続けた。


「私たちとしては、1月末に納品して終わり、という仕事にはしたくないんです」


 顧客の上司が顔を上げた。


「……なるほど」


「せっかく費用をかけていただくので、実際に使われる方が安心して仕事を続けられる形にしたいと思っています」


 金目は、少し笑った。


「そのためにも、一度、現場の方のお話を聞かせていただけませんか?」


 顧客の上司は、少し考えた。


「……わかりました。現場の責任者にも確認してみます」


「ありがとうございます」


     *


 数日後。


 田村を通じて、顧客の現場責任者との打ち合わせが行われた。


 現場責任者は、二拠点の在庫管理を取りまとめている人物だった。


 金目は、まず普段の業務について尋ねた。


「現在、在庫の確認はどのようにされていますか?」


「基本的にはExcelですね。拠点ごとに管理しています」


「なるほど」


「拠点間で在庫を移動するときは、電話やメールで確認しています」


「それは、結構手間がかかりますね」


「そうですね。特に忙しいときは、どちらの拠点に何があるのか、確認するだけでも時間がかかります」


 金目はうなずいた。


「今回のシステムで、一番改善したいところはそこですか?」


「はい。まずは、在庫の状況がすぐにわかるようになれば助かります」


「なるほど」


「ただ、正直なところ、少し心配もあります」


「何でしょう?」


「新しいシステムに切り替えるとなると、現場の人間が慣れるまで時間がかかると思うんです」


「そうですよね」


「今のExcelは使いにくいところもありますけど、みんな慣れていますから」


 金目は、少し考えた。


「ちなみに、2月から新しい運用を始めるというお話ですが、現場としてはどうでしょう?」


 責任者は、少し困ったように笑った。


「……できれば、もう少し準備する時間が欲しいですね」


「なるほど」


「データの移行もありますし、操作を覚えてもらう必要もありますので」


「そうですね」


「それに、もし在庫数が合わなくなったら、結局Excelと両方確認することになります」


 金目はうなずいた。


「それは、かえって仕事が増えてしまいますね」


「そうなんです」


 田村が尋ねた。


「最初に二拠点だけで試して、問題がなければほかの拠点へ広げる方法なら、どうでしょう?」


 責任者は、少し考えた。


「それなら、現場としても進めやすいと思います」


「なるほど」


「ただ、最初の二拠点についても、事前に操作を確認する時間は欲しいですね」


 金目はうなずいた。


「もちろんです」


 そして、少し笑った。


「私たちも、そこは大事にしたいと思っています」


     *


 打ち合わせのあと。


 金目と田村は、現場から聞いた内容を整理していた。


「……やっぱり、現場の人は心配しとったな」


 田村が言った。


「そうやな」


「上の人らは、1月末に完成することを気にしとるけど」


「うん」


「現場の人は、2月からちゃんと使えるかを気にしとる」


 金目はうなずいた。


「そら、そうやろな」


 田村は、資料を見直した。


「どうする?」


「まずは、現場の意見も含めて、もう一回提案しようか」


「了解」


 金目は、少し考えた。


「……しかし、システムって完成したら終わりちゃうからな」


「せやな」


「使う人が困っとったら、何のために作ったんかわからんようになる」


 田村もうなずいた。


「ほんま、それやな」


     *


 11月末。


 金目と田村は、顧客の上司と改めて話していた。


 金目は、現場責任者から聞いた内容を整理して説明した。


 新しいシステムへの期待。


 データ移行の負担。


 操作に慣れるための時間。


 そして、段階的な導入への希望。


 顧客の上司は、資料を確認していた。


「……なるほど。現場では、そういう話になっているんですね」


「はい」


「確かに、そこまでは十分に確認できていませんでした」


 金目はうなずいた。


「今回のシステムは、実際に使われる方の仕事を支えるものですから」


「そうですね」


「ですので、私たちとしては、段階的な導入をおすすめしたいと考えています」


 顧客の上司は、少し考えた。


「ただ、社内では1月末にすべて完成するという前提で話を進めてしまっていまして……」


「なるほど」


「今から変更するとなると、改めて説明が必要になるんです」


 金目は、少し笑った。


「それは、そうですよね」


「何とか、当初の条件でお願いできないでしょうか」


 金目は、少し考えた。


 大きな売上になる案件だった。


 できれば、受注したい。


 しかし、開発部の稼働状況は確認している。


 現場の事情も聞いた。


 そして、実現できる方法も提案した。


 金目は、静かに答えた。


「申し訳ありませんが、その条件ではお引き受けできません」


 顧客の上司は、少し黙った。


「……そうですか」


「はい。今の体制で、すべてを1月末までに完成させるとお約束することは難しいです」


「なるほど……」


「もちろん、条件を調整いただけるのであれば、ぜひお引き受けしたいと考えています」


 金目は続けた。


「ただ、できるかどうかわからないことを、できるとお伝えするわけにはいきません」


 顧客の上司は、少し考えた。


「……わかりました」


「ありがとうございます」


「一度、社内で持ち帰らせてください」


「もちろんです」


 金目は、軽く頭を下げた。


「ご検討いただければ幸いです」


 商談は、そこで終了した。


     *


 商談が終わった。


 金目は、しばらく画面に表示された見積書を眺めていた。


「……惜しいなあ」


 西田が尋ねた。


「何が?」


「いや、あの売上や。結構ええ金額やったのにな」


「ほな、受けたらよかったやん」


「いや、それはあかん」


 金目は、即答した。


 西田が少し笑った。


「……即答やな」


「そらそうやろ」


 金目は、資料を閉じた。


「金は大事やで。会社やっとる以上、利益は出さなあかん」


「せやな」


「でもな、社員も大事やし、今まで仕事任せてくれとるお客さんも大事やねん」


 西田は、黙って聞いていた。


「今回の仕事を無理して受けたら、開発部のみんなにしわ寄せがいくやろ?」


「まあ、そうなるな」


「ほんで、今ある案件の納期まで危なくなったら、どうするん?」


 西田はうなずいた。


「……そうやな」


「一回の売上のために、社員に無理させて、今までのお客さんとの約束まで破るんは、割に合わんわ」


 金目は、少し笑った。


「それに、そんな商売してたら、次の仕事もらえへんようになるやろ」


 高瀬が口を開いた。


「短期的な売上だけではなく、継続的な取引への影響も考える必要がありますね」


「そうですね」


 金目はうなずいた。


「もちろん、条件が合うなら受けたいですよ。そらもう、めちゃくちゃ受けたい」


 田村が笑った。


「そこは正直やなあ」


「当たり前やん。売上欲しいもん」


 金目も笑った。


 そして、少し真面目な顔に戻った。


「でも、今回だけ儲かったらええわけちゃうからな」


 西田がうなずいた。


「……せやな」


「来年も、再来年も、ちゃんと仕事できる会社にしとかなあかん」


 金目は、もう一度見積書を見た。


「……まあ、それでも惜しいけどな」


 田村が笑った。


「ほんま、商売人やな」


「そら社長やからな」


 金目も笑った。


     *


 数日後。


 田村のもとに、顧客から連絡が届いた。


『先日は、率直なご提案をありがとうございました』


 田村は、メールを読み進めた。


『社内で改めて協議した結果、段階的な導入について再検討することになりました』


『つきましては、先日ご提示いただいたC案を中心に、改めてお打ち合わせをお願いできればと思います』


 田村は、少し笑った。


「……おっ」


 すぐに金目へ連絡した。


『金目君、例の案件、また相談来たで』


『ほんま?』


『うん。段階導入の案で、もう一回話したいらしい』


『おお、それはありがたいな』


『どうする?』


 金目は、少し考えた。


『もちろん、話は聞きましょう』


『了解』


『ただ、条件はもう一回ちゃんと確認しましょうね』


『せやな』


 金目は、資料を開いた。


 まだ、正式に受注できたわけではない。


 開発部の稼働も、改めて確認する必要がある。


 それでも、話は続いていた。


 金目は、少し笑った。


「……断ったから終わり、とは限らんのやな」


 無理な条件で仕事を引き受けることはしなかった。


 しかし、顧客との関係を断ったわけでもない。


 必要なことを確認し、できる方法を提案する。


 それでも条件が合わなければ、断る。


 そして、条件が変われば、もう一度考える。


 それもまた、商売の一つの形だった。


 株式会社カナメの11月が、静かに終わろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、少し難しい経営判断のお話でした。


前回、金目は「会社やってる以上、1円でも高く売りたい」と言っていました。


ところが今回は、大きな売上が見込める案件を、自ら断ることになりました。


……商売人としては、なかなか悩ましいところですね(笑)。


ただ、金目の考え方が変わったわけではありません。


会社を続けるためには、売上も利益も必要です。


しかし、そのために社員へ無理をさせたり、既存のお客様との約束を犠牲にしたりしては、長く商売を続けることはできません。


そして、今回もう一つ大切にしたかったのが、実際にシステムを使う人たちの存在です。


開発の仕事では、どうしても納期や予算、機能の話が中心になりがちです。


けれど、システムが完成したからといって、翌日から現場の仕事がうまく回るとは限りません。


操作を覚える時間も必要ですし、これまでの業務から切り替える準備も必要です。


何より、使う人が困ってしまっては、せっかく作った意味がありません。


今回の金目は、提示された条件をそのまま受け入れるのではなく、「何のために、いつまでに、何が必要なのか」を確認しました。


そして、できる方法を提案したうえで、それでも無理な条件については断る判断をしました。


結果として、顧客からは再協議の連絡が届きます。


もちろん、まだ受注が決まったわけではありません。


それでも、無理な約束をしなかったことが、次の話し合いにつながったのかもしれません。


仕事を断ることは、必ずしも商売を諦めることではない。


そんなお話になりました。


さて、次回は2029年の締めくくり。


社員12人となったカナメが、この一年を振り返り、次の成長に向けた計画を考えていきます。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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