↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第二章 増えていく席
PR
41/172

任せるための仕事

 2029年9月。


 株式会社カナメに、また一人、新しい社員が加わった。


 高瀬欣也。


 45歳。


 これまで複数の企業で、人事、総務、労務、採用など、管理部門の仕事に携わってきた人物だった。


 社員番号は12。


 7月に発足した業務部に、初めて専任のマネージャーが着任することになった。


     *


 入社初日。


 オンラインの会議室には、金目と三宅、そして高瀬の3人が集まっていた。


「高瀬さん、本日からよろしくお願いします」


 金目が挨拶した。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 高瀬は、落ち着いた声で答えた。


「これまで管理部門の仕事を中心にやってきましたが、会社によって仕事の進め方も違いますので、まずは皆さんがどういう形で進めているのか、教えていただければと思っています」


 三宅がうなずいた。


「承知しました。現在の業務一覧と、手順書を用意しています」


「ありがとうございます」


 金目は、少し笑った。


「うちは、まだまだ小さい会社ですから、整っていないところもあると思います」


「そうですね。ただ、小さい会社だからこそ、柔軟にできることも多いと思います」


「なるほど」


「まずは、今のやり方を理解してから考えたいですね」


 金目はうなずいた。


 その言葉を聞いて、以前の面接を思い出した。


     *


 高瀬の採用を決めた面接には、金目と三宅が同席していた。


 オンラインの会議室。


 画面の向こうには、落ち着いた雰囲気の男性が座っている。


「高瀬さん、今日はよろしくお願いします」


 金目が挨拶した。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「まず、うちに応募してくださった理由を聞かせてもらえますか?」


「はい。これまで管理部門の仕事を続けてきましたが、今度は仕組みを作るところから関わりたいと思いまして」


「なるほど」


「御社は、これから組織を整えていく段階だと伺っています」


「そうですね」


「これまでの経験を、そういう環境で生かせるのではないかと考えました」


 金目はうなずいた。


 三宅が質問した。


「現在、契約や請求、採用などの実務は私が取りまとめています。高瀬さんには、その管理もお願いすることになります」


「承知しています」


「既に運用している仕組みもありますが、ご自身の経験と異なる場合はどうされますか?」


 高瀬は、少し考えた。


「まず、なぜその方法で運用されているのかを確認します」


「なるほど」


「これまで問題なく運用できているものを、私の経験だけで変える必要はないと思います」


 三宅がうなずいた。


「ただ、人数や業務量が変わって、今の方法が合わなくなっているのであれば、改善を提案します」


「ありがとうございます」


 金目が口を開いた。


「もう一つ、聞いてもええですか?」


「はい」


「もし、私が細かいところまで口を出してきたら、どうします?」


 高瀬は、少し笑った。


「必要であれば、控えていただくようお願いすると思います」


 金目は、思わず笑った。


「……はっきり言いますね」


「管理職として仕事を任せていただくのであれば、私自身も判断に責任を持つ必要がありますので」


「なるほど」


「もちろん、重要な事項はご相談します。ただ、日常的な判断まで社長にお願いしていては、私がいる意味がありません」


 金目は、静かにうなずいた。


「……確かに、そうですね」


 三宅も、少し笑っていた。


 金目が尋ねた。


「三宅さん、ほかに確認しておきたいことあります?」


「いえ。十分にお話を伺えました」


「ありがとうございます」


 金目は、高瀬へ向き直った。


「高瀬さん、今日はありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとうございました」


 面接が終わり、高瀬が退出した。


 金目は、三宅に尋ねた。


「……どう思いました?」


 三宅は、少し考えた。


「経験も十分ですし、今ある仕事を理解しようとしてくださる方だと思います」


「そうですね」


「それに、必要なことを社長にはっきり言っていただけそうです」


 金目は笑った。


「……それ、そんなに大事ですか?」


「大事だと思いますよ」


「……なるほど」


 金目は、少し考えた。


 仕事を任せるために採用する。


 それなら、自分の判断を持っている人でなければ意味がない。


「……ええ人やと思います」


 三宅もうなずいた。


「私もそう思います」


 二人の意見は、一致していた。


     *


 入社初日の午後。


 三宅は、高瀬に業務部の仕事を説明していた。


 画面には、業務一覧が表示されている。


 契約管理。


 請求書の発行。


 入金確認。


 経費精算。


 採用。


 労務管理。


 給与テーブルと人事評価制度の運用。


 高瀬は、資料を確認しながらメモを取っていた。


「……結構、幅広いですね」


「そうですね」


「これ、今はどなたが担当されているんですか?」


「基本的には私が取りまとめています」


「なるほど」


「必要に応じて、社長に確認していただく形です」


 高瀬は、少し考えた。


「……ほとんど三宅さんがお一人で?」


「そうですね。もちろん、外部にお願いしている業務もありますが」


「なるほど」


 高瀬は、業務一覧をもう一度見直した。


 業務の種類が多い。


 しかし、それ以上に気になったことがあった。


 多くの仕事が、三宅の確認を経て金目へ届くようになっている。


 少額の経費精算。


 定型的な契約更新。


 採用関連の事務手続き。


 それぞれの仕事に、判断が必要な場面はある。


 しかし、すべてを社長が確認する必要があるのだろうか。


「三宅さん、一つ確認してもよろしいですか?」


「はい」


「この経費精算は、毎回社長の承認をいただいているんですか?」


「そうですね」


「なるほど」


「金額が大きいものはもちろんですが、小さいものも一応確認していただいています」


 高瀬は、少し考えた。


「それは、何か理由があるんでしょうか?」


 三宅は、少し笑った。


「最初は人数が少なかったので、その方が早かったんです」


「なるほど」


「そのまま続けていたら、いつの間にか今の形になっていました」


 高瀬はうなずいた。


 よくあることだった。


 小さい会社では、社長が直接判断した方が早い。


 しかし、人が増えても同じやり方を続けていると、確認する仕事だけが増えていく。


 高瀬は、資料に一つメモを追加した。


『承認基準の整理』


 ただし、その場で変更を指示することはしなかった。


 まだ、会社の事情を十分に理解していない。


 まずは、現在の業務がどのように進んでいるのかを確認する必要があった。


     *


 入社から一週間。


 高瀬は、三宅と一緒に業務の流れを整理していた。


 それぞれの仕事について、誰が担当し、誰が確認し、誰が最終的に判断するのか。


 業務ごとに整理していく。


 契約更新。


 請求書発行。


 入金確認。


 経費精算。


 採用手続き。


 労務管理。


 そして、人事評価制度の運用。


 高瀬は、一覧を眺めた。


「……なるほど」


 三宅が尋ねた。


「何か気になるところがありますか?」


「いえ。全体として、よく整理されていると思います」


「ありがとうございます」


「ただ、承認のところは、少し見直せるかもしれませんね」


「承認ですか?」


「はい」


 高瀬は、資料を示した。


「例えば、少額の経費精算や、条件が変わらない契約更新などです」


「なるほど」


「こうしたものは、一定の基準を決めて、業務部内で完結できるようにしてもいいかもしれません」


 三宅は、少し考えた。


「確かに、その方が社長の確認は減りますね」


「そうですね」


「ただ、どこまで任せていただけるかは、確認が必要ですね」


「もちろんです」


 高瀬はうなずいた。


「重要な契約や、大きな支出まで業務部だけで決めるつもりはありません」


「はい」


「金額やリスクに応じて、承認する人を分ける形がよいと思っています」


 三宅は、資料を確認した。


「それなら、今の仕組みを生かしながら進められそうですね」


「そうですね」


 高瀬は、少し笑った。


「今までのやり方で、うまくいっているところは残しましょう」


 三宅もうなずいた。


「ありがとうございます」


 これまで一人で取りまとめてきた仕事を、誰かと一緒に考えられる。


 三宅にとっても、それは新しい経験だった。


     *


 9月の半ば。


 高瀬は、金目との打ち合わせで、業務部の承認基準について提案していた。


「社長、少しご相談があります」


「はい。何でしょう?」


「業務部の承認について、整理したいと考えています」


 金目は、資料を開いた。


 高瀬がまとめた一覧には、業務ごとの承認者が整理されていた。


 少額の経費精算。


 定型的な契約更新。


 請求書の発行。


 採用に関する事務手続き。


 そして、重要な契約や大きな支出。


「なるほど」


 金目は、資料を見直した。


「これ、今まで俺が確認してたやつですね」


「はい」


「……結構ありますね」


「そうですね」


 高瀬は、少し笑った。


「ただ、すべて社長に確認していただく必要はないと思っています」


「そうですね」


「一定の基準を決めて、通常の業務は業務部内で判断できるようにしたいと考えています」


 金目はうなずいた。


「それは、ええと思います」


「ありがとうございます」


「ただ、どこまで任せてええのかは、ちゃんと決めたいですね」


「もちろんです」


 高瀬は、資料の次のページを表示した。


『承認基準案』


 通常の経費精算は、一定金額まで業務部で承認。


 契約条件が変わらない定型更新は、業務部で確認。


 重要な契約変更や大きな支出は、金目が承認。


 例外的な案件は、事前に相談する。


 金目は、資料を確認した。


「……なるほど。これならわかりやすいですね」


「はい」


「ただ、判断に迷うものが出てきたら、どうしましょう?」


「その場合は、私からご相談します」


「なるほど」


「通常の判断は業務部で引き受けます。ただし、重要なことはきちんと報告します」


 金目は、少し考えた。


 これまでは、自分が直接確認していた。


 それが、会社の仕事を把握する方法でもあった。


 しかし、すべてを自分で確認しなくても、必要な情報が届けばいい。


 そして、判断できる人がいるなら、任せればいい。


 高瀬が口を開いた。


「社長、そこは私たちに任せていただけませんか」


 金目は、少し笑った。


「……そうですね」


 高瀬は、静かに待っていた。


「そのために、来てもらったんですもんね」


「ありがとうございます」


「ほな、通常の業務はお任せします。重要なところだけ、相談してください」


「承知しました」


 高瀬は、軽く頭を下げた。


 金目も、少し安心した。


 業務部を任せられる人が来てくれた。


 それは、会社にとって大きな変化だった。


     *


 9月の下旬。


 株式会社カナメの業務部では、新しい承認基準の運用が始まっていた。


 高瀬と三宅は、オンラインの会議室で業務一覧を確認していた。


「では、今週の分から、この基準で進めてみましょうか」


 高瀬が言うと、三宅がうなずいた。


「はい。経費精算と定型的な契約更新については、こちらで確認する形ですね」


「そうです。ただ、最初のうちは判断に迷うものもあると思いますので、その場合は一緒に確認しましょう」


「承知しました」


 高瀬は、画面に表示された一覧を確認した。


 業務名。


 担当者。


 承認者。


 判断基準。


 例外時の相談先。


 以前から三宅が管理していた一覧に、承認の範囲が追加されている。


 仕組みそのものを大きく変えたわけではない。


 誰が何を判断するのか。


 そこを明確にしただけだった。


「三宅さん、この一覧、よくできていますね」


「ありがとうございます」


「これまでの運用が整理されているので、今回も大きく変えずに済みました」


 三宅は、少し笑った。


「必要に迫られて作ってきただけなんですけどね」


「それが大事なんだと思います」


 高瀬は、資料を見ながら続けた。


「実際に使われている仕組みには、それなりの理由がありますから」


 三宅はうなずいた。


 高瀬は、入社してまだ一か月も経っていない。


 それでも、これまでの仕事を否定することなく、必要なところだけを整理してくれていた。


 その姿勢は、三宅にとってもありがたかった。


     *


 新しい承認基準が動き始めて、数日が経った。


 三宅は、経費精算の申請を確認していた。


 開発部から届いた、業務用機材の購入申請だった。


 金額は、業務部で承認できる範囲に収まっている。


 用途も明確だった。


 これまでなら、金目に確認を依頼していた。


 しかし、今は違う。


 三宅は、承認基準を確認した。


 金額。


 用途。


 予算。


 必要な情報は揃っている。


 高瀬に確認する。


「高瀬さん、こちらの申請ですが、業務部で承認して問題ないと思います」


 高瀬は、内容を確認した。


「そうですね。基準も満たしていますし、問題ないと思います」


「では、承認しておきます」


「お願いします」


 三宅は、申請を承認した。


 それだけだった。


 金目に連絡する必要はない。


 返事を待つ必要もない。


 申請した社員も、以前より早く手続きを進められる。


 三宅は、少し笑った。


「……こういうことなんですね」


 高瀬が尋ねた。


「何がですか?」


「仕事を任せるということです」


「なるほど」


「今までも、私が内容を確認していたんです。でも、最後は社長にお願いしていました」


「そうですね」


「今回は、自分たちで最後まで進められました」


 高瀬はうなずいた。


「判断する範囲が明確なら、そういう仕事は増やせると思います」


 三宅は、承認を終えた一覧を閉じた。


     *


 一方、金目のところへ届く連絡にも変化があった。


 以前は、経費精算や契約更新など、細かな確認がいくつも届いていた。


 しかし、最近は少なくなっている。


 代わりに、高瀬から業務部の状況をまとめた報告が届くようになった。


『今週の業務部報告』


 処理した申請件数。


 契約更新の状況。


 入金確認。


 採用関連の進捗。


 そして、判断が必要な事項。


 金目は、資料を確認した。


「……なるほど」


 必要な情報は、きちんと整理されている。


 しかも、通常の業務は既に処理されていた。


 金目は、少し笑った。


「……楽になったな」


 以前は、一つずつ確認していた。


 今は、必要なところだけを確認すればいい。


 もちろん、会社全体の責任がなくなったわけではない。


 しかし、すべての仕事に直接関わる必要はなくなっていた。


 金目は、高瀬に連絡した。


『今週の報告、確認しました。ありがとうございます』


 すぐに返事が届いた。


『こちらこそ、ありがとうございます。通常業務は問題なく進んでいます』


『助かります』


『重要な判断が必要なものは、別途ご相談します』


『よろしくお願いします』


 金目は、画面を閉じた。


 仕事を任せる。


 その意味が、少しずつ実感できるようになっていた。


     *


 数日後。


 高瀬と三宅は、業務部の今後について話し合っていた。


「三宅さん、今のところ、業務量はどうですか?」


 高瀬が尋ねた。


「以前より、確認の待ち時間は減りました」


「そうですか」


「ただ、業務そのものはまだ多いですね」


「そうですね」


 高瀬はうなずいた。


 承認する人を変えたからといって、作業量そのものが減るわけではない。


 契約書を確認する。


 請求書を発行する。


 入金を確認する。


 採用手続きを進める。


 そうした仕事は、引き続き必要だった。


「今後は、業務そのものを減らす方法も考えたいですね」


「そうですね」


「例えば、定型的な作業を自動化したり、手順を整理して誰でも対応できるようにしたり」


 三宅は、少し考えた。


「今も一部は自動化していますが、まだ手作業のところもあります」


「なるほど」


「ただ、全部を自動化するのが正しいとも限りませんね」


 高瀬は、少し笑った。


「そうですね。費用や運用の負担もありますから」


「はい」


「まずは、時間がかかっているところを確認しましょう」


 三宅はうなずいた。


 仕事を任せること。


 そして、仕事そのものを減らすこと。


 似ているようで、少し違う。


 高瀬は、両方を考えていた。


     *


 9月の終わり。


 金目は、月末の業務報告を確認していた。


 開発部。


 業務部。


 二つの部署から、それぞれ報告が届いている。


 開発部では、西田が開発計画や品質管理を取りまとめている。


 業務部では、高瀬が日常的な運営を管理し、三宅が実務を進めている。


 7月に部署を作ったときは、まだ業務部の責任者がいなかった。


 そのため、金目が暫定的に統括していた。


 しかし、今は違う。


 高瀬が、業務部のマネージャーとして仕事を引き受けている。


 金目は、新しい組織図を開いた。


 代表取締役。


 その下に、二つの部署。


 開発部。


 責任者、西田浩司。


 業務部。


 責任者、高瀬欣也。


 まだ、小さな組織図だった。


 しかし、会社としての形は、少しずつ整ってきている。


 金目は、しばらく画面を眺めていた。


 以前は、仕事が増えるたびに、自分が確認することも増えていた。


 人を採用すれば、その人の仕事を考える必要があった。


 案件が増えれば、優先順位を調整する必要があった。


 しかし、今は少し違う。


 それぞれの部署が、自分たちで判断し、仕事を進めている。


 金目がすべてを決めなくても、会社は動いていた。


     *


 その日の午後。


 金目は、高瀬とオンラインで話していた。


「高瀬さん、今月はありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとうございました」


「入社してすぐ、いろいろお願いしてしまいましたね」


「いえ。まだまだ、これからだと思っています」


 金目は、少し笑った。


「そうですね」


「業務部の仕事も、これから整理していきたいところがありますので」


「ぜひ、お願いします」


 高瀬はうなずいた。


「ただ、社長にもお願いしたいことがあります」


「何でしょう?」


「今後、業務部で判断できることが増えても、会社としての方針は示していただきたいんです」


 金目は、少し考えた。


「方針、ですか」


「はい。何を優先するのか。どこまで費用をかけるのか。どんな会社にしていきたいのか」


「なるほど」


「そうしたことがわかれば、私たちも判断しやすくなります」


 金目はうなずいた。


 細かな判断を任せる。


 しかし、判断の基準になる方針は、経営者が示す必要がある。


 それがなければ、任された側も困ってしまう。


「……確かに、そうですね」


 高瀬は、少し笑った。


「ですので、そこは引き続きお願いします」


「わかりました」


 金目も笑った。


「……これで、ちょっと楽になるんかなと思ってたんですけどね」


「判断する仕事は減ると思います」


「はい」


「ただ、考える仕事は減らないかもしれませんね」


 金目は、思わず笑った。


「……なるほどな」


 高瀬も笑った。


「それが、社長のお仕事なのかもしれません」


「……そうですね」


 金目は、少し考えた。


 自分で仕事をする。


 人に仕事を任せる。


 そして、任せた人たちが判断できるように、会社の方向を示す。


 経営者の仕事は、少しずつ変わっていくのだろう。


     *


 打ち合わせを終えたあと。


 金目は、もう一度組織図を開いた。


 開発部。


 業務部。


 それぞれに責任者がいる。


 仕事を任せられる人が増えた。


 しかし、それは自分の責任が減ったという意味ではない。


 むしろ、会社全体を考えるための時間ができたということなのかもしれない。


 金目は、少し笑った。


「……まだまだ、やることあるな」


 そして、次の資料を開いた。


 株式会社カナメの2029年第三四半期が、静かに終わろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、新しく入社した高瀬欣也のお話でした。


7月に開発部と業務部が発足し、ようやく会社らしい組織ができ始めたカナメ。


そこへ、管理部門の経験豊富な高瀬が加わりました。


これまで三宅が取りまとめ、金目が確認していた仕事も、少しずつ業務部の中で完結できるようになっていきます。


仕事を任せる。


言葉にすると簡単ですが、実際には作業を渡すだけでは足りません。


どこまで自分で判断してよいのか。


何を報告し、何を相談する必要があるのか。


その境界を明確にして初めて、安心して仕事を任せられるのだと思います。


そして、もう一つ大切なのが、これまでの仕事を尊重すること。


高瀬は経験豊富な人物ですが、入社早々に自分のやり方を押しつけることはしませんでした。


三宅が積み上げてきた仕組みを理解し、必要なところだけを見直していく。


新しい人が加わることで、それまでの仕事が否定されるわけではない。


そんな関係を描いてみました。


さて、業務部を任せられるようになった金目。


これで少しは楽になるかと思いきや、今度は会社全体の方針を考える仕事が待っていました。


……どうやら、社長の仕事というものは、そう簡単には減らないようです(笑)。


ただ、目の前の仕事を一つずつ処理することから、会社全体がうまく動く仕組みを考えることへ。


金目の役割は、確実に変わり始めています。


さて、次回は少し趣向を変えて、ここまで増えたカナメの仲間たちを整理する番外編をお届けする予定です。


……そろそろ、筆者自身も人物名鑑が必要になってきましたので(笑)。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。