↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第一章 気づけば、会社になっていた
PR
4/121

面倒くさいから始めました

 約束の時間まで、あと十分あった。


 金目は料理店の前で、スマートフォンをポケットにしまった。


 別に、張り切っているわけではない。


 遅刻して謝るのが面倒だっただけだ。


 小さな暖簾の奥で、店主らしき男性がカウンターを拭いていた。


「すみません。紹介してもらった金目です」


「ああ、聞いてます。どうぞどうぞ」


 奥の席へ案内される。


「パソコンの先生やって聞いたんですけど」


「いや、先生ではないですね」


「ほな、何屋さんです?」


 金目は少し考えた。


 少し前なら、答えに困っていたかもしれない。


「面倒な仕事を楽にする仕事です」


「……はあ」


 店主は、何とも言えない顔をした。


 言ってみたものの、それだけでは伝わらないらしい。


「とりあえず、困ってることを教えてもらえます?」


「ああ、そうですな」


 店主は奥から一冊のノートを持ってきた。


 予約台帳だった。


 鉛筆で消した跡に、赤い数字が重なっている。余白にも名前と電話番号が書いてあった。


「電話で予約入ったら、ここに書くんですわ」


「はい」


「変更があったら消して書き直して。キャンセルもありますし」


 店主がページをめくる。


「ただ、たまに予約が重なるんです」


「重なる?」


「私が取ったときと、嫁が取ったときで、書く場所が違うたりして」


 金目は、同じ日付が別のページにもあることに気づいた。


「前に一回、満席の日に、もう一組受けてしもたんですわ」


「それは困りますね」


「そうなんです。あとから人数変わってたりしたら、もう、どれが今の人数やったか」


 店主が指した予約は、数字が三度書き直されていた。


「これ、使うのは店主さんと奥さんですか?」


「あと、アルバイトの子も電話取りますな」


「みんなスマホは持ってます?」


「持ってますけど、嫁はあんまり得意やないです」


「パソコンは?」


「ほとんど使いませんな」


 金目は頷き、台帳へ目を戻した。


 まず、同じ日の予約が一か所に並べばいい。


 人数が変わったら、合計も変わるようにする。


 空いているかどうかも、その場でわかる。


 画面の形は、何となく浮かんできた。


「ちょっと作ってみますわ」


「もうできるんですか?」


「いや、まだですけど」


「……大丈夫ですか?」


「たぶん」


 店主の顔に、不安が浮かんだ。


 金目は笑った。


「使えそうなもん作って持ってきます。それ見てもろてから決めましょ」


「それでええんですか?」


「使えへんもんに金払うの、嫌でしょ?」


「そら、まあ」


「僕も怒られるん嫌なんで」


 店主は、ようやく笑った。


     *


 その夜、金目はパソコンに向かっていた。


 日付を選ぶ。


 その日の予約を並べる。


 人数を合計する。


 台帳をめくり直さなくても、一つの画面で確かめられるようになった。


「変更したんも、わかった方がええな」


 変更前の人数を残し、いつ直したかも見られるようにする。


 予約を入れる欄には、名前、電話番号、人数、来店時間。


 料理の希望も書けた方がいい。


 アレルギーも、聞いておいた方がよさそうだ。


 それ以外のことは、備考へ書いてもらえばいい。


 金目は項目を一つ足し、画面を見直した。


「これも、あった方が便利やな」


 書き忘れを防ぐため、必要な欄が空いていれば知らせるようにした。


 人数が多すぎるときの警告も付けた。


 確認用の予約を入れてみる。


 一覧に名前が並び、合計人数が変わった。


 人数を直すと、合計もすぐに変わる。


 金目は椅子にもたれた。


「よし、これでええやろ」


 もう一度、別の日を開く。


 予約の一覧。


 人数の合計。


 余白の小さな字を探すより、ずっと見やすかった。


     *


 翌日、金目は店主に画面を見せた。


「ここで日付を選んでもらうと、その日の予約が出ます」


「ほう」


「人数変わったら、ここを直します」


 確認用の予約を使って見せる。


 店主が身を乗り出した。


「これ、下の数字も変わるんやな」


「合計ですね。勝手に計算します」


「数えんでええんや」


 金目は店主へ操作を代わった。


 日付を選び、予約を一件入れてもらう。


 名前を打つところで少し止まったが、金目が横から説明すると、店主は最後まで入力できた。


 一覧に、新しい一行が増える。


「……入ったな」


「入りましたね」


 店主が、人数の欄と画面の下を見比べた。


「これやったら、見間違いも減りそうやな」


「そうですね」


 金目も頷いた。


「ただ、電話鳴るたびに、これ開くんか?」


 店主が台帳を手に取った。


「店の中、動いてるときもあるしなあ」


「電話のときは、今までみたいに紙に書いてもらったらええと思います」


「ほんで、あとで入れるんか」


「はい。手が空いたときにまとめて入れたら、毎回パソコンの前に来んでも済みますし」


「紙は残しといてええんやな?」


「確認にも使えますから、置いといてください」


 店主は台帳を開き、画面の隣に置いた。


「それやったら、今のやり方からでもできそうや」


 金目はノートを開いた。


 電話を受けた人が、紙に記入する。


 手が空いたら、パソコンへ入力する。


 予約の一覧を確認する。


「まずは、これで一週間使ってみてもらえます?」


「ええで」


「ほんで、もう一回来ます。使いにくかったところ、教えてください」


 次に訪ねる日を決める。


 それから金目は、用意してきた見積もりを出した。


「費用は、こちらでお願いしようと思ってます」


 店主が目を通す間、金目は続けた。


「予約管理のやり方を整えるのと、一週間使ってもろてから確認して直すところまでです」


「この画面作って、終わりやないんやな」


「使われへんかったら困りますから」


 店主は画面へ目を戻した。


「わかった。ほな、それで頼むわ」


「ありがとうございます」


 金目はノートに、話した範囲を書き留めた。


 名前だけだった事務所で、仕事の話が一つまとまった。


     *


 帰り際、店主はもう一度、日付を選んでいた。


 さっき入れた予約が、画面に並ぶ。


「これ、助かりそうやな」


「使ってみて、また教えてください」


「おう」


 金目は頭を下げ、店を出た。


 紹介してもらった相手に会い、困り事を聞いた。


 作ったものを見せて、触ってもらった。


 とりあえず、一つずつ進められている。


 帰宅してから、ノートを開いた。


 料理店の予約管理。


 試用中。


 その横に、次の訪問日を書く。


 金目は、店主が合計人数を確かめていた様子を思い出した。


「これで、何回も数え直さんで済むな」


 小さく頷き、ノートを閉じた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


予約が一覧になって、人数も自動で計算される。

店主に画面を触ってもらい、金目も少し手応えを感じたようです。


何をする仕事なのかと尋ねられたところから、費用と範囲を話して、次に訪ねる約束まで。

カナメ事務所の仕事が、一つ動き始めました。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。