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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第二章 増えていく席
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部署を作るということ

 2029年7月。


 株式会社カナメの本町事業所では、金目が案件進行表を確認していた。


 画面には、いくつもの案件が並んでいる。


 進行中の開発。


 保守・運用。


 新しい案件の相談。


 契約の更新。


 社員の採用。


 それぞれの仕事には担当者がいる。


 しかし、確認や相談の連絡は、相変わらず金目のところへ集まっていた。


『こちらの開発スケジュールについて、ご確認をお願いします』


『契約更新の条件について、ご相談です』


『新しい機材の購入について、承認をお願いします』


 金目は、届いた連絡を一つずつ確認した。


「……これ、俺が全部決めなあかんのかな」


 思わず、そんな言葉が出た。


 自分で判断した方が早いこともある。


 しかし、すべてを自分で決めていたら、ほかの仕事が進まなくなる。


 金目は、三宅に連絡した。


『ちょっと相談してもええですか?』


『はい。何でしょう?』


『最近、確認することが増えてきたんですけど』


『そうですね』


『これ、俺が決めんでもええこと、結構ありません?』


 三宅から、少し間を置いて返事が届いた。


『あると思います』


『ですよね』


『ちょうど、以前ご相談した組織体制の件もありますので、一度整理しましょうか』


『お願いします』


 金目は、少し笑った。


 そういえば、春にも同じような話をしていた。


 開発部。


 業務部。


 二つの部署を作る案だった。


 しかし、名前を決めるだけでは仕事は減らない。


 誰が何を担当し、どこまで判断するのか。


 そこを決める必要があった。


     *


 数日後。


 金目、西田、田村、三宅の4人は、組織体制について話し合っていた。


 三宅が、画面に資料を表示した。


『組織体制案』


 その下に、二つの部署名が並んでいる。


『開発部』


『業務部』


「まず、現在の業務を大きく二つに分ける案です」


 三宅が説明した。


「開発部では、設計、実装、テスト、保守・運用、インフラなどを担当します」


「なるほど」


「業務部では、経理、総務、労務、契約、請求入金管理など、会社の運営に関する業務を担当します」


 金目はうなずいた。


「わかりやすいですね」


 西田が口を開いた。


「開発部の方は、俺が見る形でええんやな?」


「はい」


 三宅が答えた。


「開発計画や技術的な判断、品質管理などをお願いしたいと考えています」


「それなら、今やっとることと大きくは変わらんな」


「そうですね。ただ、判断する範囲を明確にしたいと思っています」


 西田はうなずいた。


「なるほど」


 金目が尋ねた。


「業務部は、どうするんです?」


「当面は、社長に統括していただく形になると思います」


「……俺ですか」


 三宅が、少し笑った。


「はい。ただ、日常的な実務は私が取りまとめます」


「なるほど」


「今後、業務部の責任者を置くことも考えていますが、まずは現状の体制で整理したいと思います」


 金目は、少し考えた。


「それなら、できそうですね」


 田村が口を開いた。


「案件管理とか、お客さんとの調整はどうなるん?」


 三宅は、別の資料を表示した。


「そこは、部署を分けても、両方に関係する仕事になります」


「そうやな」


「例えば、仕様変更があった場合、技術的な影響は開発部で確認します。ただ、契約や費用に影響する場合は、業務部とも連携する必要があります」


 金目は、少し笑った。


「……きれいに二つに分かれるわけやないんやな」


「そうですね」


 西田もうなずいた。


「まあ、仕事ってそんなもんやろ」


 金目は、資料を見直した。


 部署を作る。


 それだけなら、簡単だった。


 しかし、実際の仕事は部署の名前だけでは整理できない。


 どこまで任せるのか。


 誰が最終的に判断するのか。


 その境界を決める必要があった。


     *


 7月の半ば。


 既存案件の一つで、顧客から仕様変更の相談が入った。


 当初予定していた機能に、追加の要望が出たらしい。


 田村が顧客から内容を確認し、西田が技術的な影響を調べていた。


 金目も、共有された資料を確認した。


「……これ、追加できそうやな」


 西田がうなずいた。


「技術的には問題ないと思うで」


「そうなんや」


「ただ、作業は増えるから、スケジュールは確認せなあかんな」


「なるほど」


 田村が続けた。


「お客さんは、できれば今の納期のままお願いしたいみたいや」


「そうか」


 金目は、少し考えた。


「ほな、ほかの作業を調整して……」


 そこまで言いかけて、西田が口を開いた。


「ちょっと待って、金目君」


「ん?」


「それ、まずこっちで整理する話ちゃう?」


 金目は、少し考えた。


「……ああ、そうか」


「開発側の優先順位は、俺らで確認することになっとるやろ?」


「そうやったな」


 西田は、少し笑った。


「別に金目君が決めてもええんやけど、それやったら部署分けた意味ないで?」


 金目も笑った。


「……確かに」


「こっちで整理して、報告するわ」


「ほな、任せるわ」


 金目は、資料を閉じた。


 自分で判断した方が早い。


 以前は、そう考えることが多かった。


 しかし、これからは違う。


 任せると決めたなら、相手の判断を尊重する必要がある。


 金目は、少し考えた。


「……そういや、俺が全部決める必要ないんやったな」


 西田が笑った。


「今さら気づいたんか?」


「いや、わかってたんやけどな」


「ほな、頼むで」


「……はいはい」


 4人は笑った。


 その後、西田は開発部側の作業を整理し、田村と調整した。


 技術的な対応案。


 必要な作業時間。


 納期への影響。


 追加費用の見込み。


 それぞれを確認したうえで、顧客への回答方針をまとめた。


 金目は、その報告を受けた。


「……なるほど。これなら問題なさそうやな」


「せやろ」


「ありがとうございます」


 西田が、少し笑った。


「こういうのは任せてくれたらええねん」


「そうやな」


 金目も笑った。


 仕事は、問題なく進んでいた。


     *


 数日後。


 別の案件で、開発スケジュールの調整が必要になった。


 金目は、共有された進行表を確認していた。


 予定より少し早く進んでいる案件がある。


 一方で、確認作業に時間がかかっている案件もあった。


 金目は、担当者に連絡しようとして、手を止めた。


「……ああ、そうやった」


 開発部の優先順位は、西田が判断する。


 金目は、連絡先を変更した。


『西田さん、この案件の優先順位、調整できそうですか?』


 しばらくして、返事が届いた。


『ちょうど確認しとったところやで』


『そうなん?』


『うん。今週中に整理して共有するわ』


『了解。よろしく頼むわ』


 金目は、少し笑った。


 以前なら、担当者に直接指示していたかもしれない。


 しかし、今は西田が開発部全体を見ている。


 金目が知らない事情もあるだろう。


 それなら、まず西田に任せればいい。


 少しずつではあるが、仕事の進め方が変わり始めていた。


     *


 7月の下旬。


 金目、西田、田村、三宅の4人は、業務分担と決裁権限について最終確認を行っていた。


 三宅が、資料を共有する。


『業務分担・決裁権限一覧』


 開発計画。


 技術的な優先順位。


 品質管理。


 顧客との調整。


 契約。


 請求。


 経費。


 採用。


 それぞれについて、担当者と判断する人が整理されていた。


「まず、開発計画と技術的な判断については、西田さんにお願いする形です」


 三宅が説明した。


「了解」


 西田が答える。


「顧客との調整や案件進行は、田村さんを中心に進めていただきます」


「わかった」


「契約や請求などの業務は、私が実務を担当します。重要な契約や予算に関する判断は、引き続き社長にお願いする形です」


 金目はうなずいた。


「なるほど」


 三宅は続けた。


「ただし、部署をまたぐ案件については、関係者で協議する形にしたいと思います」


「そうですね」


 金目は、資料を見直した。


「……これ、俺が全部把握せんでもええんやな」


 西田が口を開いた。


「全部知らんでええとは言わんけど、全部決める必要はないやろ」


「……確かに」


「重要なところだけ、ちゃんと見といてくれたらええねん」


 金目は、少し考えた。


 すべてを自分で決めることと、会社全体に責任を持つことは違う。


 任せるところは任せる。


 必要な情報は共有してもらう。


 そして、重要な判断は自分が引き受ける。


 そういう形にしていけばいい。


「……これ、俺の仕事減るんかな?」


 西田が笑った。


「減らすためにやっとるんちゃうん?」


「まあ、そうなんやけど」


 三宅も、少し笑った。


「ただ、今までとは違う仕事が増えるかもしれませんね」


「……ああ、そうか」


 金目は、少し考えた。


 目の前の仕事を一つずつ判断する。


 それだけではなく、会社全体の仕事がうまく進むように考える。


 これからは、そういう役割が増えていくのだろう。


     *


 7月の終わり。


 株式会社カナメでは、開発部と業務部の二部門体制が正式に動き始めた。


 開発部は、西田が責任者となる。


 設計。


 実装。


 テスト。


 保守・運用。


 インフラ。


 それらの仕事を、開発部として取りまとめる。


 一方、業務部は金目が当面の統括を担当し、三宅が日常業務を取りまとめる。


 経理。


 総務。


 労務。


 契約。


 請求入金管理。


 これまで、それぞれの担当者が進めていた仕事を、部門として整理していく。


 金目は、新しい組織図を確認していた。


 代表取締役。


 その下に、開発部と業務部。


 まだ小さな組織図だった。


 しかし、以前とは少し違う。


 誰が何を担当するのか。


 誰が判断するのか。


 どこで相談するのか。


 それが、少しずつ明確になっていた。


 三宅が尋ねた。


「社長、組織図の内容はこちらでよろしいでしょうか?」


「はい。問題ないと思います」


「承知しました」


 金目は、少し笑った。


「……人増やすより、こっちの方が難しいな」


 三宅も笑った。


「そうかもしれませんね」


 金目は、もう一度組織図を見た。


 部署を作ったからといって、すべてが完成したわけではない。


 これから実際に運用して、必要なら見直していく。


 しかし、少なくとも一つ、変わったことがあった。


 金目が決めなくても、仕事が進む。


 それは、会社が少しずつ組織になってきたということなのかもしれなかった。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、株式会社カナメに初めて部署ができるお話でした。


法人化当初、社内名簿に並んでいたのは、代表取締役の金目と、経理・総務を担う三宅の2人でした。


西田は当初、業務委託として協力し、2027年1月に取締役として加わりました。


それぞれができる仕事を持ち寄り、必要なことがあれば相談して決める。


そんな会社も、人が増えるにつれて、少しずつ仕事の進め方を変える必要が出てきました。


部署を作り、担当を決め、責任の範囲を明確にする。


言葉にすると簡単ですが、実際にはなかなか難しいものです。


特に難しいのが、仕事を任せること。


自分で判断した方が早い。


そう思う場面は、きっと少なくないでしょう。


しかし、それを続けていては、いつまでも自分が判断しなければ仕事が進まない会社になってしまいます。


今回の金目も、つい自分で判断しようとして、西田に指摘されていました。


もっとも、二人の間には長年の信頼関係があります。


だからこそ、必要なことを遠慮なく言い合い、素直に受け入れられるのでしょう。


部署ができたからといって、会社が急に立派になるわけではありません。


それでも、誰か一人が頑張らなくても仕事が進む仕組みを作ることは、会社を続けていくうえで大切なのだと思います。


さて、次回は新しい専門性を持った仲間が加わります。


少しずつ組織らしくなってきたカナメに、また新しい視点が持ち込まれることになります。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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