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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第六章 問いが育つ場所
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受け取ったもの

 七月五日、木曜日。


 三宅彩からの連絡を、高瀬欣也は、届いてすぐ開いた。


『大型案件の中間分、入金を確認できました。請求額とも合っています』


 五月末に出した請求だった。

 税抜千四百四十万円に、請求書で合わせた税額を加えた総額が、期日に入っていた。

 高瀬は、対象と確認日を見て、礼を返した。


 六月末に渡した最終分は、別に残っている。

 そちらの支払いは八月の予定だった。


 小坂にも同じ連絡が届いていた。

 高瀬は、金目へ、中間分を受け取れたと伝えた。


『ありがとうございます。三宅さんにも、お礼を伝えてください』


 金目から返事が来た。

 高瀬は、先の支払いを置いた表へ戻った。

 今日受け取った分が、実績の方へ移っている。

 その先へ、一人分の採用と、来期の役員報酬を戻す案を合わせた。


     *


 金目修平が資料を開いたとき、高瀬は、来月以降の見通しを出していた。


「入った分は、こちらへ反映しました」


「はい。ありがとうございます」


 金目は、中間分の欄へ目を向けた。

 五月に渡したところまでの対価が、届いている。

 先週、全体を渡せたという報告を受けたときとは、また違う息のつき方だった。


 高瀬は、次の資料を開いた。

 案件へ使った時間と、費用を合わせたものがある。

 金目は、実際に入った金額と、その横にある仕事の記録を見た。


「こうして並ぶと、半年分ですね」


「はい。作ったところだけではなくて、移行や、使っていただいてからの確認も入っています」


 全額が、そのまま残る仕事ではなかった。

 作っている間にも給与を払い、ほかの支出もあった。

 高瀬は、案件の結果と、これから必要になる支払いを分けて見せた。


「毎月の方は、今の仕事の入金で、引き続き組めています。人件費が小さくなった分もありますので」


 金目は頷いた。

 続いている仕事と、減った人の分の支出。

 そこへ、新しく受けた仕事の対価が入った。


 いまの体制で、同じように大きな仕事を何本でも持てるわけではない。

 使った時間の一覧には、別の仕事と合わせてもらったところも残っていた。


「次に人を迎える分も、入れてもらってるんですね」


「はい。一名で見ています。それと、こちらです」


 高瀬は、役員報酬のところへ移った。

 五月から再開することにした、五割の額がある。

 来年四月からの欄では、西田の額を元へ戻していた。

 金目の欄は、五割のまま仮に置いてある。


「西田さんの分は、来年四月の支給分から、返上前の全額へ戻す案です。最終分の入金も含めて、来期に続けて払えるかを見ています」


 金目は、西田の欄を見た。

 返上する前の額へ戻っていた。


「こちらで、続けて払うところまで?」


「はい。採用する一名の給与だけでなく、募集と受入に使う費用も合わせています。最終の入金が入ったあとも、先の仕事で継続して持てるかを見ています」


 金目は、次の月、その先へと目を移した。

 高瀬が、不明なところと、すでに分かっているところを示す。

 しばらく、画面を送りながら話した。


 読み終えると、金目は、二人の額が並ぶところへ戻った。


「西田さんの分は、来期から全部戻す方針で進めたいです」


「はい。その形で、西田さんとも合わせましょうか」


「お願いします」


     *


 西田浩司が入ってくると、高瀬は、採用の相談と合わせて、報酬の案も確認したいと伝えた。

 画面には、先ほど金目が見たものが出ている。


「僕の方は、元へ戻す案なんやね」


「はい。来年四月の支給分から戻す方針です。今期は五割を続けて、来期の改定に合わせて必要な決定と記録を整えます」


 西田は、隣の欄へ目を移した。


「金目君は?」


「僕の分は、秋の受入を見てから決めようと思ってます」


「僕の方を、先に決めてええん?」


「はい。来期からは、そこまで戻したいと思ってます」


 西田は、もう一度資料を見た。

 金目は、黙っている西田の方へ、少し顔を向けた。


「僕の分も戻しますよ。高瀬さん、そっちの予定も一緒に見といてください」


「はい。秋の受入を進めたあと、継続する負担と合わせて、金目さんの分も来年四月から戻せるか、もう一度見たいと思っています」


 高瀬が答えた。

 金目も頷いた。


「ずっと五割でええ、という話ではないので」


「うん。そっちも、ちゃんと頼むわ」


 西田は、高瀬へ向けて言った。

 高瀬が、はい、と返した。


 少し間があった。

 西田は、元の額が入っている自分の欄を見た。

 それから、金目へ目を戻した。


「それは、助かるわ。ありがとう」


 金目は、小さく頷いた。


「こちらこそ、ありがとうございます」


 西田は、口元を緩めた。


「五割へ戻す話を聞いたときも、ほっとしたんやけどな。全部となると、また、ちょっと違うね」


「はい」


 金目は、画面の額へ目を落とした。

 今まで支払いの見通しを読んでいた数字が、西田の短い返事のあとで、少し違って見えた。


 高瀬が、案の適用について、改めて確認した。

 八月の入金で、今期の支給額を変える話ではない。

 二人とも今期は五割を続ける。

 西田を元の額へ戻すのは、来期の四月支給分から。その方針で準備を進めることを、三人で確かめた。


「それで、お願いします」


 西田が答えた。

 今度は、辞退する言葉を挟まなかった。


「金目君も、戻す方の話、ちゃんとしてな」


「します。もらえるところまで戻ったら、僕も、ちゃんともらいます」


 金目が答えると、西田が笑った。


「うん。それでええわ」


     *


 採用の資料へ移ると、西田は、上田と合わせていた仕事を開いた。

 既存の業務システムで続いている改修と、次に予定している仕事がある。


「開発の実務経験がある人を、一人。まず、その枠で募集したいです」


 西田が言った。

 金目は、仕事内容の欄を読んだ。


「新しいものを一から作る人、というだけではないんですね」


「うん。今あるものを読んで、どこを変えるかを調べて進められる人がほしい。画面だけでも、処理だけでもなくて、使う側が何をしてるかも聞きながら」


 西田は、受け入れる側の予定も出した。

 入ってすぐに、一人で全部を持ってもらう予定にはしていなかった。

 上田と長谷川らに確かめた、最初に合わせるところがある。


「最初は、うちの顧客がどう使っているかを、一緒に見てもらうつもりです。そこは、今いる人の時間も空けます」


「教える時間を、空いたところだけで持つ形ではないんですね」


 高瀬が尋ねた。


「はい。何かあったら聞いてください、だけでは、誰も時間を取れへんと思うので」


 金目は、仕事の予定と、受入の予定を見比べた。

 新しい人が来れば、その日から、今いる人の手が丸々一人分空くわけではない。

 最初は、同じところを一緒に見る時間も増える。


「そこを持っても、いま返してる仕事は進められる?」


「一名の受入として、今はこの範囲で合わせています。時期がずれるなら、担当する仕事も、もう一度合わせます」


 西田が答えた。

 高瀬も、継続する人件費と、受入に使う時間を、同じ見通しへ戻した。


「役員報酬を戻す案も含めて、こちらで見ています。これから条件を出すときにも、この範囲へ収まるかは確認します」


 金目は、募集の欄へ目を戻した。

 採用できたと決まった一名ではない。

 これから、話を聞いてもらう相手を探すための枠だった。


「ほな、一名の募集を再開しましょうか」


 西田が頷いた。

 高瀬は、福原と進めるところを記録した。


     *


 福原奈央は、募集を再開すると聞いたあと、以前使っていた求人の文面を開いた。

 その横へ、新しい原稿を作る。


 仕事内容、求める経験、働き方、募集人数。

 前の文章を、そのまま移すところではなかった。

 いま頼みたい仕事と、迎えられる範囲を確かめて書くことになっていた。


 高瀬から届いた案では、募集人数は一名だった。

 福原は、入力する欄へ目を向けた。

 手を置きかけてから、もう一度、仕事内容を読んだ。


『既存の業務システムを調査し、必要な改修を進める』


 言葉としては分かる。

 けれど、どこまで自分でできる人を求めているのかは、これだけでは伝わりにくかった。


 福原は、高瀬へ確認を送った。


『仕事内容のところで、もう少し具体的に伺いたいことがあります。西田さんにも、一度お聞きしてよいでしょうか』


 返事があり、時間を合わせた。

 福原は、質問を原稿の横へ置いた。


     *


「調査というのは、まず、何を見ていただくことになりますか」


 福原が尋ねると、西田は、いまある改修の進め方を挙げた。


「動いてるものと、資料やね。どこで何をしてるかを見て、変えるところを出してもらう。資料だけでは分からへんところもあるから、実際の使い方も聞きます」


「その使い方は、最初から顧客の方へ、一人で聞いていただくのでしょうか」


「いえ。最初は、こちらで担当してる人と一緒に。うちがどういう約束で受けてるかも、先に合わせたいので」


 福原は、書きかけていた文章へ手を戻した。

 自分で調べて進める力を求めることと、初日から一人で顧客を任せることは、違っていた。


「入ってから、いま担当されている方と、顧客の業務や変更範囲を確かめる。そのあとで、調査や改修を受け持っていただく、という順番ですね」


「そうです」


 西田が頷いた。


「分からないところを、どなたと合わせるかも書けると、仕事を始めるところが想像しやすいと思いまして」


「そこは、課長と担当する側で持ちます。どの仕事で迎えるかを合わせるときに、最初に一緒に見る人も決めます」


 福原は、相談や確認をする相手がいることを、仕事の説明へ足した。

 経験がある人にも、この会社の仕事を知る時間は要る。

 そこを省いたまま、できることだけを並べないようにした。


 高瀬が、原稿へ目を通した。

 西田も、いま話した内容とずれていないかを読む。


「はい。この書き方なら、初めに何をしてもらいたいか、伝わると思います」


 西田が言った。

 福原は、その箇所を残した。


「募集は、一名で進めます」


「お願いします」


 福原は、人数の欄へ戻った。

 入力していなかったところへ、一名、と入れる。


 高瀬が、それを見て頷いた。


「中途の募集、再開ですね」


 福原が言った。


「はい。こちらから、また探していきます」


 高瀬が答えた。

 福原は、新しい原稿へ目を向けた。


 四月に瀬川を迎えたときには、危機の前にした約束があった。

 入ってくる人のために、案内を作り、予定を合わせた。

 今回は、まだ、名前も知らない人へ、こちらから声をかける。


「どんな方が、見てくださるでしょうね」


 福原が言った。


「まず、仕事が伝わる形にしたいですね」


 高瀬は、さっき書き直したところを見た。

 福原も頷いた。


     *


 七月半ば、福原は、公開する原稿の最後の確認をしていた。

 仕事内容だけでなく、処遇や働き方、応募の方法も、担当する人たちと揃えてある。


 募集人数の欄へ目が止まった。

 一名。

 その人が入ってきたあとに、最初に何をするかも、隣の文章にあった。


 福原は、高瀬へ、公開前の確認を終えたと返した。

 西田の方でも、開発の仕事として出す内容を確認している。

 金目から、進めてください、と返事が届いた。


 募集を開始した。

 画面に出た原稿を開き、応募する側が見る文章を上から読んだ。

 何をする仕事か、どんな経験を求めているか。

 自分たちが聞いて、直して、揃えた言葉が並んでいた。


 福原は、公開したと高瀬と西田へ連絡した。

 西田からは、上田にも共有したと返ってきた。

 選考へ入るときに、誰がどこを見るかを合わせる予定も動き始めている。


 まだ、応募の連絡はなかった。

 福原は、問い合わせが来たときに返す案内を開いた。

 書きかけのままだったところへ、今回の募集内容を合わせていく。


 受け取るものを待つ前に、返せるものを用意していた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、渡した仕事の対価を受け取り、その先の暮らしと仕事を考える回でした。


西田の「それは、助かるわ。ありがとう」は、素直に受け取る言葉として置きました。報酬を戻す見通しも、会社が持ち直してきたことの一つです。金目自身も、ずっと我慢するつもりではありません。二人とも、自分の生活へ戻していけるものがあってほしいと思います。


後半では、福原が中途募集の原稿を作ります。求める経験だけでなく、入ってから誰と、どんな仕事を始めるのか。その言葉を確かめることも、迎える側の準備でした。


募集人数は、一名。まだ名前も知らない人のために、こちらから予定を作り始めています。


受け取った対価が、働いてきた人と、これから働く人へつながる。その小さな動きを感じていただければ嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いいたします。

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